日本大百科全書(ニッポニカ) 「グラフ・ジャーナリズム」の意味・わかりやすい解説
グラフ・ジャーナリズム
ぐらふじゃーなりずむ
graph-journalism
写真による視覚情報を主として編集された雑誌などを出版する活動、ならびにその出版物の総称。写真ジャーナリズムともいう。文字中心のジャーナリズムに比べて写真による現実的、具体的な描写が盛り込まれているので、より大衆的な情報媒体として第一次世界大戦後には急速に発達、成長した。グラフ・ジャーナリズムが伝える視覚情報は社会の動静を伝えるニュースやルポルタージュおよび風俗や習俗、芸術界の動向、それぞれの時代の流行や娯楽を主題とし、写真を主に、文章による解説を従とする編集が行われるのが一般的である。グラフ・ジャーナリズムに供される写真は、報道写真が中心で、芸術的な目的をもつ写真が活用されることはあっても時事的に応用されることが多い。
グラフ・ジャーナリズムの萌芽(ほうが)は、19世紀前半におけるフランスの石版印刷による政治諷刺(ふうし)雑誌『ラ・カリカチュア』などにみられるが、本格的に発達するのは写真が網点製版で印刷されるようになった19世紀末以降で、さらに発展するのは、第一次世界大戦敗戦後のドイツ復興時に刊行された『ベルリナー・イルストリールテ・ツァイトゥンク』(ウルシュタイン社刊)などが、国民的な情報源となった時期であった。その後1936年に創刊し、最盛期には850万部を発行していたアメリカの『ライフ』、続いて『ルック』、フランスでは『パリ・マッチ』、イギリスの『ピクチャーポスト』やドイツの『シュテルン』などが刊行され、日本でも第二次世界大戦前から『アサヒグラフ』(1923年創刊、2000年休刊)、『毎日グラフ』(1948年創刊、1994年誌名、内容を一新して情報誌へ)などが刊行されていた。
しかし、時代の推移とともにテレビにメディアの主役を奪われ、2000年の『ライフ』廃刊に象徴されるようにグラフ雑誌出版事業は、多くが撤退を余儀なくされ、1980年代に日本で興ったスキャンダラスなスクープ写真を扱う新しいグラフ・ジャーナリズムのブームも、2001年(平成13)にその草分け『フォーカス』の休刊とともにその時代を閉じた。21世紀のグラフ・ジャーナリズムは、不特定多数の受け手に向けられたマスメディアとしてではなく、対象とする分野や編集方針の特色を生かした視覚メディアとしての役割を担っていくことになる。
[平木 収]
『中井幸一編『日本写真全集10 フォトジャーナリズム』(1987・小学館)』▽『石川文洋著『報道カメラマン』(1991・朝日新聞社)』▽『長倉洋海著『フォト・ジャーナリストの眼』(1992・岩波書店)』▽『大島洋編『記録される都市と時代』(1994・洋泉社)』▽『三島靖著『木村伊兵衛と土門拳――写真とその生涯』(1995・平凡社)』▽『多木浩二・大島洋編『世界の写真家101』(1997・新書館)』▽『日本写真家協会編『日本現代写真史1945~95』(2000・平凡社)』