グレアム(Thomas Graham)(読み)ぐれあむ(英語表記)Thomas Graham

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

グレアム(Thomas Graham)
ぐれあむ
Thomas Graham
(1805―1869)

コロイド化学創立者とされるイギリスの物理学者、化学者。12月21日、スコットランドグラスゴーの富裕な製造業者の家に生まれる。1819年に14歳でグラスゴー大学に入学し、ただちに化学に魅せられた。父は反対したが、母の激励を受けてこの道を進み、やがて1830年グラスゴーのアンダーソン大学の化学の教授、1837年ロンドン大学の化学の教授職についた。1841年にはロンドン化学会の創立に参画、初代会長となった。1854年に教授職を退き、造幣局長官となった。1869年9月16日死去。

 王立協会メダル(二度)、パリ科学アカデミー賞などによって報いられた彼の多くの科学研究のうち重要なものの一つは、1829年から1833年ごろにかけて行われた気体拡散に関する実験的研究である。細孔を通って気体が流出する速度は同一条件のもとではその密度(したがって分子量)の平方根に逆比例するという法則は今日「グレアムの法則」といわれる。彼はまた、拡散速度の相違を利用する異種気体混合物の分離の可能性を指摘したが、これは第二次世界大戦中ウラン235と同238を六フッ化ウランにして分離する際に応用された。

 彼の科学上の貢献のうち、さらに特筆すべきものは「コロイド化学」の創設である。彼は、1860年代前半期に発表したいくつかの論文で、物質の状態を二つに分類した。すなわち、第一は、ショ糖や食塩のように水中で拡散しやすく、また結晶化しやすい状態にあるもの、第二は、拡散性が小さく、結晶になりにくいケイ酸デンプンゼラチンなどである。彼は、前者クリスタロイド、後者をコロイド(ギリシア語の膠(にかわ)に由来)と命名した。この認識は非常に重要で、やがてフロイントリヒやC・W・W・オストワルトによりコロイド化学として大成されることになる。

[中川鶴太郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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