ケルスス(英語表記)Aulus Cornelius Celsus

改訂新版 世界大百科事典 「ケルスス」の意味・わかりやすい解説

ケルスス
Aulus Cornelius Celsus

ローマの著作家。生没年不詳,ティベリウス帝の治下(後14-37)に活動。学問全般を網羅する大規模な百科全書を著したとされるが,〈ヒッポクラテスは医学を哲学から分離した〉という名言序説に掲げた《医術について》と題する作品しか伝存しない。これは古代ギリシアのヒッポクラテス医学派,アレクサンドリアの医学派などのすぐれた著作を踏まえて,生理・病理薬剤外科手術など,さらには養生法に至るまで,医学全般を全8巻の中に明確・適切に解説したもので,ガレノスの膨大な著作とともに,医学史研究にとって不可欠の史料である。彼自身は医者ではなかったともいわれるが,結紮(けつさく)法を叙述した歴史的な意義は大きく,また肝臓・胃などの病に対する食養生の話は今もなおその価値を失わない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ケルスス」の意味・わかりやすい解説

ケルスス
Celsus, Aulus Cornelius

1世紀頃のローマの著述家セルサスともいう。『大百科全書』を著わし,そのうちの『医学について』 De Medicinaだけが残存している。ヒポクラテス全集と並び称され,ことに,ほとんど亡失したアレクサンドリアの医学およびギリシアの外科学の面影を伝えるものとして,貴重である。この本は中世には無視されていたが,教皇ニコラウス5世によって発見され,ルネサンス以後再評価された。 1478年にフィレンツェ版が刊行されて以来,ルネサンス期にヨーロッパで最もよく読まれた医書の一つとなった。8巻あり,直腸から指を入れて膀胱結石を破砕する方法が記載されており,いまもケルスス手術と呼ばれるほか,外科,皮膚科にもいくつか名を残している。医師事務論に1章をさき,「医術は予測術 ars conjecturalisで,ときにははずれる」などの格言を残している。

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世界大百科事典(旧版)内のケルススの言及

【炎症】より

…つまり炎症とは〈炎のように燃えている病気〉,すなわち〈熱を伴う疾病〉ということであった。ローマ時代になると炎症の概念は具体的となり,A.C.ケルスス(紀元1世紀ころ)は,発赤rubor,はれtumor,熱calor,痛みdolorからなる,炎症の四つの特徴を記載した。“できもの”をみれば,この四つの主徴は容易に理解されよう。…

【手術】より

…中世までの間ローマ医学は多くの優れた外科医を輩出した。〈赤く,はれて,熱くて,痛む〉という炎症の四徴候を提示したケルススは専門の医師ではなかったが,優れた外科医でもあったガレノスは,絹糸や腸線による結紮(けつさつ),肋骨切除による心臓露出,膿胸手術などを行い,一方,創傷治癒に関する見解などを明らかにしている。ガレノスはヒッポクラテス以後の医学をしめくくり,一つの新しい壮大な医学体系をうちたてた2世紀の大学者であるが,彼は,理論的整合性を追うあまり,観察や実験によって得られない空白の部分を種々の概念と堅固な理論で補い築き上げたために,彼の折衷的でもある医学体系の中にいくつもの誤りが入り込んでしまっている。…

※「ケルスス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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