ゲジ(読み)げじ(英語表記)house-centipede

改訂新版 世界大百科事典 「ゲジ」の意味・わかりやすい解説

ゲジ (蚰蜒)
house centipede

唇脚綱(ムカデ綱)ゲジ目Scutigeromorphaに属する節足動物の総称およびゲジ科の1種を指す。ゲジゲジはゲジの古名であるが,俗称としていまも使われている。陰陽道の下食(げじき)(天狗(てんぐ)星の精が下界に下りて食事をすること)とゲジの怪奇な形態とが結びついてこの名になったと思われる。多数の細長いむち状の足をもち部屋の中を走っているゲジ類は気味の悪い動物の筆頭にあげられるが,屋内の虫を食べる益虫である。全世界に約130種,日本に2種分布する。体は頭と胴に分かれ,頭に細長い触角1対と偽複眼を有し,口器に毒腺のある顎肢を1対有する。短い胴は15胴節と15対の細長い歩肢があるが,背板は外見上8枚で,その背板後縁中央はスリット状の気門をもつので背気門類とも呼ばれる。ムカデ類の仲間ではあるが外形が著しく違っている。産卵は春から夏の間で,個々の卵を泥で包んで放置する。成長は脱皮ごとに体節数を増す増節変態ののち,漸進的な成熟をする微変態をし,ほぼ3年目に成熟し生殖期に入る。

 日本全国にゲジThereuonema tuberculataが分布する。体長は2~3cmくらい,淡黄色で背中に3本の緑色縦筋がある。関東地方以南には,熱帯地方に多いオオゲジThereuopoda cluniferaが生息している。体長は4cm以上になり,背は黒ずみ,気門のところが橙色になっている。

 なお,〈ゲジゲジに頭をなめられるとはげになる〉という迷信がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゲジ」の意味・わかりやすい解説

ゲジ
げじ / 蚰蜒
house-centipede

節足動物門唇脚(しんきゃく)綱ゲジ目Scutigeromorphaの陸生動物の総称。ゲジゲジともいう。ムカデ類にごく近縁な動物であるが、背板が外見上8枚しかなく、そのおのおのの後縁中央に呼吸孔(気門)があるので背気門類ともいう。胸板は15個で、歩肢(ほし)も15対ある。触角も歩肢も数多い節に分かれ、細長くしなやかで、音もなくすばやく走り回る。敵に襲われると歩肢を切断して逃げる(自切)。

 昆虫と同じような大きく発達した複眼を1対もち、おもに草むらに生活していて小昆虫などを捕食している。一見、全身が脚(あし)だらけという感じで、不愉快な動物の代表にされるが、家屋内にもしばしば出没し、屋内にすむゴキブリやナンキンムシなどを餌(えさ)としている隠れた益虫である。6~11月ごろまでの間、成熟した雌は断続的に産卵する。卵は1個ずつ表面に泥をなすりつけられ、地表の割れ目に放置される。3週間ぐらいで孵化(ふか)した幼虫は4対の歩肢しかないが、脱皮ごとに胴節数と歩肢対数が増えてゆき、約2年を経て成体になる。越冬は幼虫か成虫で行われるが、野外では洞穴の中で越冬している集団がみられる。

 日本には、体長3センチメートル以下で3本の青緑色の縦筋(すじ)のあるゲジが全国に分布し、それより大形で背が黒く、各背板後縁が赤橙(せきとう)色の斑紋(はんもん)となっているオオゲジが関東地方以南に分布している。日本では古くから「ゲジゲジに頭をなめられるとはげになる」という俗説があるが、そのような事実はなく、気味悪くてもゲジ類が人に害を与えることはまったくない。

[篠原圭三郎]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゲジ」の意味・わかりやすい解説

ゲジ
Thereuonema tuberculata

ムカデ綱ゲジ目ゲジ科。通称ゲジゲジ。体長 2.5cm。灰黄緑色地に暗緑色の3縦帯が走る。 15対の歩脚は著しく長い。7月上旬~11月上旬に産卵し,卵を1個ずつ泥で包む。孵化した幼虫は4対の歩脚をもち,第2期幼虫で5対,その後脱皮ごとに2対ずつ歩脚を増し,第6期幼虫で 13対となる。その次の脱皮で 15対となり,性未熟期を終る。さらに脱皮を続けて成熟前期,偽成熟期を経て成体となる。北海道南部から東南アジアにかけて広く分布し,屋内にすむ。なおゲジ科 Scutigeridaeは普通3年で成体となり,寿命は5~6年である。世界に約 130種,そのうち日本産は2種である。 (→改形類 , ムカデ類 )

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百科事典マイペディア 「ゲジ」の意味・わかりやすい解説

ゲジ

ゲジゲジとも。節足動物唇脚綱。ムカデに近い。体長2.5cm。灰黄緑色の地に暗緑色の縦じまが3本。1対の触角と15対の脚はいずれも長い。複眼に似た眼をもち,昼間はうす暗い所に隠れ,夜出て小昆虫を食べる。走るのは速く,危急の際は歩脚を切り落として逃げる。日本全土に分布。近縁種に体長3.5cmほどのオオゲジがいる。
→関連項目ムカデ(百足)

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