コウガイビル

改訂新版 世界大百科事典 「コウガイビル」の意味・わかりやすい解説

コウガイビル

渦虫(かちゆう)綱コウガイビル科Bipaliidaeに属する扁形動物の総称。頭が半円形で,くびが急に細くなっているようすが,昔の髪にさした笄(こうがい)に似ているところからこの名がある。またヒルという名がついているが,環形動物のヒルとは異なる。体は細長くて扁平。体長はふつう5~10cmであるが,長いものでは80cmにもなる。背面黒色黄土色で,1~3本の縦縞をもつものもある。腹面には正中線に沿って少し隆起した歩帯が頭葉の基部より尾端まで続いている。頭葉部の全辺縁と頸部(けいぶ)の両側には無数の小単眼が並んでいる。口は腹面中央よりやや後方にあり,生殖孔は口と尾端との間に開いている。雌雄同体。森林の石の下や湿気の多い場所にすみ,梅雨のころに道や庭,台所などにも現れる。体から透明な粘液を出しながら移動するのではった道筋が光っている。とくに害を与えるものはない。

 クロイロコウガイビルBipalium fuscatumは体長10~12cm,幅4~5mmで,背面はビロードのような黒褐色であるが,腹面の歩帯は灰白色である。日本ではもっともふつうに見られる。ミスジコウガイビルB.trilineatumは体長約5cm,背面は黄土色の地に黒い3本の縦線があり,そのうちの中央の線は頭葉まで達する。日本各地にふつう。クロスジコウガイビルB.fuscolineatumは体長5cmほどで,背面は黒色,正中線上に1本の濃い黒線がある。これらのほかに最近,東京都内ではミスジコウガイビルに似ているが,体長が80cmもある種類がときどき出現している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「コウガイビル」の意味・わかりやすい解説

コウガイビル
こうがいびる / 笄蛭
Bipalium

扁形(へんけい)動物門渦虫(かちゅう)綱コウガイビル科Bipalidaeの動物の総称。陸上生活をするウズムシ類で、コウガイの名は、頭部の形が日本髪の笄(こうがい)の形に似ていることから生じている。東南アジアなど、熱帯、亜熱帯の森林に多いが、一部は温帯にも分布する。体長5~12センチメートル、幅2~4ミリメートルで、細長い。背面は黒色か、黒みがかった橙(だいだい)色で、種類によっては1本または3本の黒線がある。頭は扁平で横に半月形に伸び(いわゆる笄の形で)、頸部(けいぶ)は細い。多数の眼点が頭部や頸部の縁に沿って並んでいるが、肉眼ではわからない。口は腹面の中央にある。おもに夜間に活動するが、比較的高温高湿の時期には、昼間でも地上や石の下、温室内などをゆっくりはっているのをみかける。はった跡には粘液がつき、体に触れると数片に切れて(自切)扱いにくい。

 日本の普通種は、クロイロコウガイビルBipalium fuscatumで、体長10センチメートルぐらい。雨上がりの路上や庭、台所などでみられ、頭部の前縁を波状に動かしてはう。ミスジコウガイビルB. trilineatumは、体長4~5センチメートル、背面は濃い橙黄(とうこう)色で3条の黒線が縦走する。最近は温室などでもみかけられるが、山野の湿気のある地上や石の下などにすむ。コウガイビルはその名を「公害ビル」と誤認されることがあるが、無害である。

[峯岸秀雄]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コウガイビル」の意味・わかりやすい解説

コウガイビル
Bipaliidae

扁形動物門渦虫綱三岐腸目コウガイビル科に属する種類の総称。体は細長く扁平で,体長5~12cm,体幅2~4mm。頭部は左右に広がった半月形で,前縁には多くの鋸歯状突起があり,その間に小さい眼が並ぶ。また体の縁にも単眼がある。口は体の中央よりやや後方の腹面に開き,生殖孔は口と尾端の中間よりやや前方に開く。背面が真黒なクロイロコウガイビル Bipalium fuscatum,正中線に沿って1本の濃い黒線があるクロスジコウガイビル B. fuscolineatum,3本の黒線をもつミスジコウガイビル B. trilineatumなどが知られており,いずれも5~6月頃庭先の石の下や枯れ木の根もとの湿ったところでみられる。

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世界大百科事典(旧版)内のコウガイビルの言及

【扁形動物】より

…ウスヒラムシNotoplana humilusほか多くの種類は潮間帯の石の下などに見られる。また,コウガイビルの仲間は体長30cmほどのものがあり,森や庭などの湿気の多い場所にすむ。(2)吸虫綱Trematoda 外部寄生と内部寄生がある。…

※「コウガイビル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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