改訂新版 世界大百科事典 「コケムシ」の意味・わかりやすい解説
コケムシ (苔虫)
外肛動物門Ectoproctaに属する無脊椎動物の総称。触手動物門コケムシ綱Bryozoaとする場合もある。外形が植物のコケに似ているところからこの名がある。体長1mmたらずの個虫が多数集まって樹枝状,盤状,塊状など種々な形の群体をつくり,岩,貝類,海藻などに付着している。ホンダワラコケムシでは全長1mもの大きさになる。大部分は海産で,潮間帯から深海に分布しているが,少数のものは各地の湖沼に産する。個虫は表皮の表面にキチン質,または石灰質を分泌して種類によりいろいろ特有な形の虫室をつくる。体は袋状で,前端に馬蹄形や円形の触手冠があり,その中央に口が開いている。口からU字状の消化管があり,触手冠の外の口に近い背側に肛門が開く。このために外肛類と呼ばれる。特別な呼吸系,血管系,排泄器はなく,酸素や栄養物は体腔液の流動によって運搬される。筋肉の発達もよくない。
雌雄同体で卵から孵化(ふか)する有性生殖と出芽によって増える無性生殖とを行う。大部分は体内で受精し,そこで発生が進んで孵化し,トロコフォラ幼生や三角形の2枚の殻をもったキフォナウテス幼生となり,プランクトン生活をする。トロコフォラ幼生は数時間,キフォナウテス幼生は十数日~1ヵ月後に他物に着生し,変態して石灰化し,のち出芽によってどんどん新しい個虫を増やして群体を大きくしていく。1年中群体が見られる種類もあるが,秋に群体が壊れ,走根の一部が残って越冬し,春になるとそれが個虫を出芽して群体をつくるものもある。淡水産のコケムシでは休芽をつくって冬を越すのがふつうであるが,ヒナコケムシStephanella hinaのように冬に群体が成育し,春になると休芽をつくって群体が消滅するものもある。休芽は胃と体壁とを結ぶ胃緒の中で無性的につくられ,乾燥や低温に耐えることができ,ヒメテンコケムシでは4年半も発芽能力をもっていたといわれる。
汽水産のチャミドロモドキVictorella pavidaやチビオフクロコケムシBowerbankia caudataでは虫室壁や走根に冬芽をつくって越冬する。冬芽の外部は厚いキチン層で囲まれ,内部には卵黄様の栄養物を含んでいて,適当な環境になると発芽して個虫になる。
世界で現生種は約4000種知られているが,有用種はまったくなく,すべてのものが有害であるといってよい。フサコケムシBugula neritina,チゴケムシDakaria subovoideaなどは船底について船速を遅くさせたり,冷却水路を狭めるなどの害を与え,またホンダワラコケムシZoobotryon pellucidumやセンナリコケムシBowerbankia imbricataは定置網の水通しを悪くしたり,養殖貝を殺すこともある。ヒラハコケムシMembranipora serrilamellaは有用海藻について品質を低下させ,大きな被害を与えている。
コケムシ類の化石は古生代のオルドビス紀の初期から知られており,現生種が約5000種に対し,化石種は1万5000種あるといわれている。
円口類の管孔亜目の種類のようにオルドビス紀から現代まで生き残っている古い群もあるが,隠口類や変口類は古生代のみに生息してすべてが絶滅し,円口類の蔓形亜目はシルル紀から石炭紀の間に,指管亜目は白亜紀のみに生存していた。このようにある時代のみに生息し,のち絶滅した種類が非常に多いところから,コケムシ類の化石は地層の時代を決定する際に役に立つので示準化石として用いられている。
執筆者:今島 実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報