ココヤシ(読み)ここやし(英語表記)coconut

翻訳|coconut

改訂新版 世界大百科事典 「ココヤシ」の意味・わかりやすい解説

ココヤシ (ココ椰子)
coconut palm
Cocos nucifera L.

世界各地の熱帯の海浜や河口地域に栽培される代表的なヤシ科の高木。ココナッツともいう。栽培の歴史は古く,原産地や伝播(でんぱ)の歴史はつまびらかでない。インドへは3000年前にすでに渡来していたといわれる。中国の記録によると,290-307年ころ中国南方やアンナンで栽培されていた。樹高30mに達し,通常は単幹で直立する。頂部に長さ5~7mの壮大な羽状葉を群生し,幹上には輪状の葉痕を残す。葉腋(ようえき)から花序を出し,分枝した花穂の基部に1~数個の雌花を,上部に多数の雄花をつける。おしべは6本,子房は3室からなり,通常そのうちの1室のみが成熟する。果実は直径10~35cm,成熟につれ緑,黄,橙黄から灰褐色となるが,品種により色調の変化は異なる。中果皮は繊維状,内果皮は堅く厚い殻となり,3個の発芽孔がある。繁殖は実生による。3~6ヵ月で発芽し,7~8年から収穫,1樹当り年間40~80個が得られる。品種が多くあり,セイロン島のキングヤシは早生で樹高が2mほどの低さで,結実するので有名である。

ココヤシの果実は,その成熟の過程でいろいろに利用されている。若いものは利用されることはほとんどないが,大きくなった半成熟果の胚乳は液状の胚乳液と内果皮に接した部分のゼラチン状の脂肪層とに分化し,胚乳液は飲用に,脂肪層は食用にされる。成熟果になると脂肪層は硬くなる。これを削り具でけずり,しぼったのがココナッツミルクcoconut milkで,あらゆる食物の調味料として熱帯では多用される。また,この脂肪層をはぎ取って乾燥したのが,工業的な脂肪原料として重要なコプラcopraである。コプラはマーガリンセッケン,ろうそく,ダイナマイトなどを作る油脂原料となる。なお,半成熟果の胚乳液は植物生長物質に富むため,植物の組織培養実験にしばしば用いられる。この場合にもココナッツミルクの呼称が用いられるので注意を要する。発芽が始まると,胚乳液の部分は油脂分に富むスポンジ状に変化し,これもやはり食用になる。花房を切り,切口からしみ出る甘い樹液は飲用とされる。またそれを発酵させたものはヤシ酒や酢となる。ヤシ酒はとくにミクロネシアで重要な嗜好品である。食物として以外にも,中果皮の繊維はヤシロープや燃料に,内果皮の殻はスプーン,飾りなどの日用品になる。葉は編料となり,籠,敷物,屋根ふきや壁材となる。若芽の柔らかい部分はココナットキャベツと呼ばれ野菜にされることがある。

 フィリピンインドネシア,オセアニア地域で大規模なプランテーション栽培がおこなわれていて,重要な現金収入源となっている。このように原住民生活に重要なココヤシは,コプラが商品化されることもあって個人の所有とされることが多い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ココヤシ」の意味・わかりやすい解説

ココヤシ
ここやし
coconut
coconut palm
[学] Cocos nucifera L.

ヤシ科(APG分類:ヤシ科)ココヤシ属、1属1種のヤシ。Cocoはポルトガル語でサルを意味し、種子の核に1個の珠孔と2個の珠孔痕(こん)があり、これがサルの口と目に似ることによる。幹は単幹で高さ20~30メートル、径30~70センチメートル、多少波状に伸び傾斜ないし直立する。葉は披針(ひしん)形で直伸し全裂羽状葉、長さ4~6メートルで光沢のある鮮緑色。小葉は長さ1~1.5メートルで中軸の両側に逆V字状に着生し、中軸、中脈とも明緑色。葉柄は自然に落下して幹肌に波状紋を残し、枯れ葉をみせない。熱帯のものは緑葉のままで斜め下方に垂れ、気温不足のときは枯れ葉が残るが水平以下には垂れない。雌雄同株で単性花をつける。花序は長さ1~1.5メートル、花は乳白色。雄花は小さく雌花は径10~30センチメートル。果実は3稜(りょう)がある楕円(だえん)形で横径10~30センチメートル。色は橙黄(とうこう)色(変種のキングココヤシking coconut, golden palm/var.aurea hort.)、赤褐色、白色、緑色の4色。外果皮は薄いが、中果皮は厚い繊維質、内果皮(核)は黒褐色の角質で硬く、珠孔内に胚(はい)があり、まれに2、3個の胚をもつものもある。胚乳(仁)は、未熟果では水液が充満し(ココナッツミルク)、成熟果では白い果肉となる。

 30種以上の変種があり、アジア、アフリカ、ヨーロッパの熱帯の海岸に果実が漂着して広い範囲に生育する。熱帯を象徴する代表的なヤシで、観賞用のヤシ林とするほか鉢植えにもする。繁殖は実生(みしょう)により、30℃で30日くらいで発芽する。

[佐竹利彦 2019年4月16日]

利用

熟した果実の胚乳を取り出し、天然または人工乾燥したものがコプラである。コプラからやし油(ゆ)をとり、そのかすは肥料や家畜の飼料とする。やし油は料理に用い、マーガリン、せっけん、ろうそく、金属熱処理用などの原料とする。果肉を細く紐(ひも)状にして乾かしたものがココナッツ(干しやし)で、カレー料理の付け合わせや、酒のつまみ、菓子材料に使われる。若い果実の中にあるココナッツミルクは、わずかに酸味があって甘く、乾燥地では重要な清涼飲料となる。また、栄養分に富み植物培養の培地に添加される。花序を切除し、その切り口からあふれ出る液をトディtoddyとよび、それを発酵させてやし酒アラックarrackをつくり、また酢もつくる。中果皮の太い繊維(コイアcoir)は刷毛(はけ)、敷物、縄などに用いる。種子は堅くて工芸材料にもなり、また焼くと良質の木炭になり、ガス色素などの濾過(ろか)吸収炭として高く評価される。

[飯塚宗夫 2019年4月16日]


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百科事典マイペディア 「ココヤシ」の意味・わかりやすい解説

ココヤシ

熱帯アジア原産といわれる代表的なヤシで,広く全世界の熱帯に分布し,また各地で栽培される。幹は円柱状で高さ30mを超え,直径は30cm内外。開花後1年で果実が成熟する。果実には堅い核があり,中にコプラと呼ばれる胚乳を有し,それを絞ってヤシ油をとる。半成熟果の胚乳液をココナッツジュースとして飲料とするほか,茎を材とし,葉で屋根をふくなど用途が広い。→ココナッツ
→関連項目アラクココナッツミルクヤシ(椰子)

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栄養・生化学辞典 「ココヤシ」の解説

ココヤシ

 [Cocos nucifera].ヤシ目ヤシ科ココヤシ属の高木で,果実からココナッツ油などを得る.

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世界大百科事典(旧版)内のココヤシの言及

【油】より

…特に後者はインド,東アジアに伝えられて重要な油料植物となる。 インドから東南アジア,太平洋諸島にかけてココヤシが重要である。ヤシ油はココヤシの胚乳部からつくられるが,むしろその一歩手前のココナッツ・ミルクのほうが食用には一般的である。…

【ヤシ(椰子)】より

…木本性の単子葉植物。日本では従来,ココヤシ(イラスト)を単にヤシと呼んでいたが,近年ではヤシ科の植物を総称してヤシ(イラスト)という。
【ヤシ科Palmae(palm family)】
 木本性の単子葉植物として,イネ科のタケ類とともに特異的な存在であるヤシ科の植物は,ほとんどの場合,幹は分枝せず二次肥大生長もしないうえに,大きな葉を幹の頂端部に群がりつけ,熱帯の景観を特徴づける。…

※「ココヤシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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