精選版 日本国語大辞典 「コッホ」の意味・読み・例文・類語
コッホ
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ドイツの細菌学者。結核菌の発見者で,細菌学の創始者の一人であるとともに,19世紀後半の細菌学黄金時代の中心的存在でもあった。鉱山技師の子として,クラウスタールに生まれた。1862年ゲッティンゲン大学に入学,医学を学ぶ。ここで,解剖学的業績とともに,病原微生物学史上,先駆的な見解を示したJ.ヘンレに多大な影響を受けた。卒業後しばらくは各地の病院に勤務したり,開業するなど,不安定な生活を送り,70年の普仏戦争には軍医として従軍するなどしたが,72年ボールシュタイン(現,ポーランドのボルシチン)で地方医師となる。ここで診療のかたわら,自宅に実験室を設け,細菌の顕微鏡的研究に没頭し,76年,当時流行していた炭疽病の病原菌を発見,炭疽菌の本態や培養法,感染経路などについて明らかにした。この成果は大きな反響を呼び,80年,帝国衛生院の所員に推薦され,82年に結核菌を,翌83年にはエジプトでコレラ菌を発見,同定した。彼はこれらの研究によって,伝染病は特定の微生物が体内に侵入することによって発症するという,ヘンレの仮説を立証し,さらに純粋培養など細菌の培養法,標本の固定法や染色法,顕微鏡撮影法などのさまざまな細菌学の手法を創始するとともに,細菌の病原性確認のための条件を確立して,現在の細菌学の基礎をつくった。その条件とは,(1)特定の伝染病になった個体からは,特定の病原微生物が必ず発見され,(2)その病原微生物が分離,同定され,(3)それを純粋に培養したもので原病が再現できるとき,その病原微生物がその病気の原因であることが証明される,とするもので,これは〈コッホの三原則〉といわれる。名声は大いにあがり,彼のもとには内外から俊英が集まり,つぎつぎと病原菌が発見され,研究法が開発された。F.レフラーのジフテリア菌発見,北里柴三郎の破傷風菌の発見などがある。85年にベルリン大学衛生学教授,91年にはベルリンに新設された伝染病研究所長となる。この間,90年にツベルクリンをつくって,結核の治療薬にしようとした。また晩年は熱帯病の研究に従事した。1905年,結核に関する研究によってノーベル生理・医学賞受賞,08年には北里らの招きで訪日している。
執筆者:川口 啓明
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1843~1910
ドイツの医学者,細菌学者。1876年脾脱疽(ひだっそ)菌,82年結核菌,83年コレラ菌など多くの細菌を発見し,細菌学の新領域を開拓した。1905年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…しかし,19世紀前半は,まだミアスマ説に従った衛生改革が成果をあげつつあり,コンタギウム説はあまり支持者がなかった。
[研究室医学の発達]
ドイツにおいて,細菌学時代を開いたR.コッホが,地方で診療の余暇に,家畜の病気,脾脱疽病の原因としての細菌を発見し,ヘンレの教えに従って,それを証明した論文(1876)を指導的地位にあった数人の医学者に送ったが,ほとんど反応がなかった。1880年になって,突然ベルリンに新設された帝国衛生院の研究主任として就任することを求められる。…
…結核にかかっている人,とくに肺に空洞をもつ人が咳をしたとき,まわりに結核菌を飛び散らし,近くにいる人が吸い込んで感染する。結核菌Mycobacterium tuberculosisは1882年R.コッホによって発見されたグラム陽性菌で,長さ2~4μm,幅0.2~0.4μmの細長い杆菌である(ライ菌と同じ仲間で,よく似ている)。菌型にヒト型,ウシ型,トリ型の3型があり,ヒトには前2者が感染する。…
…これらの研究によって微生物病原論はその基礎を築いた。炭疽の病原菌である炭疽菌は,76年にR.コッホが純粋培養に成功し,それを動物に接種すると発病したことによって,炭疽と炭疽菌との因果関係が明確に示された。医学的な細菌学は,これ以降発展してくる。…
…しかし,殺菌することによって発酵の停止や病気の予防に役立てようとするのは,それより約200年後になってからであった。殺菌剤の検査をはじめて微生物を使って行ったのはR.コッホで,1881年に絹糸に炭疽菌の芽胞を付着させたものを用いた。これは固定菌法と呼ばれるが,その後,ガーネットや金属など多くの物体に菌を付着させて,殺菌効果を判定する方法が考案された。…
…ツベルクリンをアレルゲンとした抗原抗体反応をいい,結核菌の感染を受けているかどうかを調べる検査法として利用される。ツベルクリンは1890年,結核菌の発見者であるR.コッホによって,結核菌の培養ろ(濾)液を濃縮してつくられた。当初コッホが期待したように結核治療薬としては普及しなかったが,ピルケーClemens F.von Pirquet(1874‐1929),マントゥーCharles Mantoux(1877‐1947)らにより,ツベルクリン反応は結核感染の診断法として確立され,広く用いられるようになった。…
※「コッホ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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