コレステロール(読み)これすてろーる(英語表記)cholesterol

翻訳|cholesterol

精選版 日本国語大辞典 「コレステロール」の意味・読み・例文・類語

コレステロール

〘名〙 (cholesterol) 高等脊椎動物の体内に含まれるステリンの一種。脂肪のような白色光沢のある鱗片状の結晶。特に、脳、神経組織、副腎に多く含まれている。生体に不可欠な役割を果たすが、血中の濃度が高まると動脈硬化症の原因になる。コレステリン
※栂の夢(1971)〈大庭みな子〉一「血圧だのコレステロールだの尿に糖の出るのだの」

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デジタル大辞泉 「コレステロール」の意味・読み・例文・類語

コレステロール(cholesterol)

動物性ステロールの代表的なもの。細胞膜の構成成分で、主に肝臓で生合成される。副腎ふくじん皮質ホルモン・ビタミンD・胆汁酸などの材料となる。血管壁に多量に沈着すると動脈硬化の要因となる。コレステリン。→HDLコレステロールLDLコレステロール

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「コレステロール」の意味・わかりやすい解説

コレステロール
これすてろーる
cholesterol

高等動物の細胞成分として広く存在する代表的なステロイド化合物の一種。コレステリンともいう。有機溶媒には溶けるが、水、アルカリ、酸には溶けない。ステロイド核にヒドロキシ基と二重結合を一つずつもっているのが特徴で、このヒドロキシ基がジギトニンジギタリスに含まれるステロイド系サポニンの一種)と特異的に反応し、難溶性の分子化合物をつくって沈殿する。この反応を利用して化学分析が行われる。18世紀末にヒトの胆石中に発見されたのが最初で、動物の体内にのみ存在し、とくに脳や神経組織に豊富である。コレステロールはリン脂質とともに細胞の膜系を構成する主要な成分であり、膜の構造や機能に大きな役割を果たしている。コレステロールはまた、細胞内情報伝達(シグナリング)のプラットホームとよばれている膜のマイクロドメイン、ラフトおよびカベオラの主要構成成分である。通常、遊離の状態で、また高級脂肪酸とのエステルとして存在し、その比率はそれぞれの組織でほぼ一定である。赤血球膜のリン脂質とコレステロールおよびコレステロールエステルの量的関係は、動物種により異なるが、膜の構造を保持し、溶血性毒素の攻撃から守っている。消化管からはコレステロールのまま直接吸収され、排泄(はいせつ)もそのままの形で行われる。生体内ではコレステロールから、ビタミンD、性ホルモン(エストロン、テストステロン)、副腎(ふくじん)皮質ホルモン、胆汁酸などが合成される。

 コレステロールの生合成ではメバロン酸代謝経路においてヒドロキシメチルグルタリルCoA(HMG-CoA)還元酵素によりHMG-CoAからメバロン酸が合成される段階が律速段階である。HMG-CoA還元酵素の発現は細胞内コレステロール含量により負のフィードバック制御を受けており、細胞内コレステロールのホメオスタシス(恒常性)が保たれている。

[小泉惠子]

食生活との関係

コレステロールは多くは肝臓で合成されるが、一部は食物から摂取される。合成される量はほぼ3分の2、食物からとられる量が3分の1程度で、摂取量が多いと合成量は抑制される。

 コレステロールは体内では、細胞膜の構成成分として存在し、とくに血管壁の保護、赤血球の保護には重要な働きをする。また、コレステロールは体内で性ホルモンや胆汁酸、ビタミンDの原料になる。コレステロールが不足した場合は、脳出血などの疾患をおこしやすく、また貧血も生じやすい。

 一方、血中にコレステロールが多くなると、動脈硬化の原因となる。血中に含まれるコレステロールはリポタンパク質の形で存在する。すなわち、コレステロールは水に溶けにくいので、タンパク質と結合することにより血液とともに運ばれる。リポタンパク質は密度によって分類され、その作用が異なる。低密度リポタンパク質(LDL)は、コレステロールを肝臓から血中や組織へ運び、逆に高密度リポタンパク質(HDL)は、コレステロールを肝臓へ運ぶ。そのため、HDLコレステロールが少ない人に高コレステロール血症や虚血性心疾患の発症が多いといわれる。日本人のHDLコレステロール平均値は血清1デシリットル中44ミリグラムで、少なくとも40ミリグラム以上含有していることが望ましい。

 血中コレステロール値は、飽和脂肪酸の多い動物性脂肪を多く摂取することによって高くなり、植物性脂肪のうち、リノール酸など不飽和脂肪酸、すなわち必須(ひっす)脂肪酸の多い植物油は、血中コレステロール値を下げる作用がある。また、ペクチンやコンニャクマンナンなどの水溶性の食物繊維を多くとることでも、血中コレステロール値が低下する。シイタケに含まれるエリタデニンにもコレステロール低下作用がある。いずれもコレステロールの腸内排出を促すためである。なお、血中総コレステロール値の標準は、国や年齢によっても異なるが、血清1デシリットル当り130~220ミリグラムが望ましく、240ミリグラム以上は治療対象とされる。

[河野友美・山口米子]

『斎藤康・山田信博編『コレステロールをみる・考える』(1999・南江堂)』『寺本民生著『高脂血症――気になる動脈硬化・コレステロール』(1999・梧桐書院)』『藤山順豊監修『コレステロールと中性脂肪の基礎知識』(2001/改訂版・2007・日東書院)』『牧野直子監修『コレステロール・食物繊維早わかり Food & Cooking Data』(2003・女子栄養大学出版部)』『板倉弘重著『コレステロールの医学――文明病の本態をみる』(有斐閣新書)』


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改訂新版 世界大百科事典 「コレステロール」の意味・わかりやすい解説

コレステロール
cholesterol



コレステリンcholesterinともいう。化学式C27H46O,分子量386.7。高等動物の主要なステロールで,すべての体組織に分布し,生体膜の構成成分として細胞機能の維持に重要な役割を果たしている。また各種ステロイドホルモンの前駆体としても重要である。脂肪の消化・吸収に欠くことのできない胆汁酸もコレステロールからの誘導体である。

 コレステロールは食事により摂取することができる。この際,腸管に胆汁酸が存在していないとコレステロールの吸収は起こらない。腸管から吸収されたコレステロールは腸乳糜(にゆうび)管を経て胸管に入り,大循環を経て肝臓にとり込まれる。コレステロールはまた生体内でも合成され,その主要な産生臓器は肝臓である。低コレステロール食をとった場合には,1日約800mgのコレステロールが生合成される。内因性コレステロールはアセチルCoAからメバロン酸,スクワレンを経て合成されるが,その産生量は食事性にとるコレステロール量に依存しており,そのフィードバック調節には3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA 3-hydroxy-3-methylglutaryl CoA(HMG CoAと略す)レダクターゼ活性が調節酵素として重要である。すなわち,コレステロール摂取量が増加するとHMG CoAレダクターゼ活性が低下し,内因性コレステロールの産生量が減少する。

 肝臓から組織に運搬されるコレステロールは,血中ではトリグリセリド,リン脂質およびアポタンパク質といっしょにリポタンパク質と呼ばれる複合体を形成して存在している。血漿リポタンパク質は比重の差により四つの分画に分類されている。カイロミクロンchylomicronは食事性のトリグリセリド,コレステロールなどを腸管から脂肪組織と肝臓に運搬するリポタンパク質であり,トリグリセリドに富んだ大粒子で比重は軽い。カイロミクロンはトリグリセリド分子を末梢組織で失い,コレステロールに富んだレムナントリポタンパク質となって肝臓にとり込まれる。超低比重リポタンパク質(VLDL)は肝臓で合成されたリポタンパク質で,内因性のトリグリセリドを末梢組織に運搬した後,コレステロールに富んだ低比重リポタンパク質(LDL)になる。このLDLは末梢組織にコレステロールを運搬・供給し,各組織でのコレステロールのデノボ合成de novo synthesis(代謝過程の中間産物を回収・再利用するような合成のしかたではなく,簡単な前駆物質から新たにある構造体が合成されること)を調節するリポタンパク質としてとくに重要である。高比重リポタンパク質(HDL)は肝臓で合成され,リン脂質とコレステロールに富んでおり,その役割の一つとしてコレステロールを末梢組織から肝臓に運搬する機能が考えられている。

 コレステロールは細胞膜の一構成要素として細胞の発育・生存に不可欠な物質である。肝臓および腸管以外の体細胞は,コレステロールをデノボ合成より血漿コレステロールに仰いでおり,LDLはコレステロールの供給源として最も重要である。LDL経路を通しての細胞へのコレステロールのとり込み機構については,ブラウンM.S.BrownとゴールドスタインJ.L.Goldsteinの培養繊維芽細胞を用いた実験により次のように解明されている。LDLはまず細胞膜上の特異受容体に結合し,ついでこの受容体-LDL複合体は細胞内にとり込まれ,融合して小胞を形成する。LDLを含んだ小胞は細胞内のリソソームに融合し,LDLのタンパク質はアミノ酸に加水分解され,コレステロールエステルは酸化リパーゼにより加水分解されて非エステル型コレステロールとなる。この非エステル型コレステロールは細胞膜生合成に利用されたり,再エステル化されて細胞内に蓄えられる。

 以上のように,コレステロールは生体内で重要な役割を果たすが,血漿コレステロールが過剰になると動脈硬化をひき起こす。臨床医学では家族性高コレステロール血症が注目されている。この病気はLDL受容体が先天的・遺伝的に不足あるいは欠損しているために,正常人の血漿コレステロール値が130~240mg/dlであるのに対して,ホモ接合体では650~1000mg/dl,ヘテロ接合体では270~550mg/dlときわめて高値となり,コレステロールは種々の組織に沈着して早期に動脈硬化をひき起こし,心臓疾患などの原因となる。

 コレステロールは副腎,性腺における5種の主要なステロイド,すなわちプロゲステロン,アンドロゲン,エストロゲン,グルココルチコイド,ミネラロコルチコイドの前駆体として重要である。副腎,性腺はコレステロールを,主としてLDL受容体を通して血中から組織にとり込み,利用している。
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化学辞典 第2版 「コレステロール」の解説

コレステロール
コレステロール
cholesterol

cholest-5-en-3β-ol.C27H46O(386.65).コレステリンともいう.もっとも代表的なステロールで,脊椎動物中に広く分布しており,あらゆる組織の重要な構成成分である.また,多くの紅藻類,褐藻類にも含まれる.市販コレステロールは,ウシの脊髄または羊毛脂から抽出されたものである.精製品は5,6-ジブロミドとして再結晶したのち,エーテル-酢酸中で亜鉛末と処理してつくられる.融点149 ℃ の針状晶.-39°(クロロホルム).血液中に約2 mg mL-1 含まれるが,その70% は脂肪酸エステルとして存在する.肉食性昆虫は必須栄養素としてコレステロールを要求する.クロロホルムに溶かし無水酢酸と硫酸を滴下すると青紫に発色する(リーベルマン-ブルヒァルト反応).ジギトニンと処理すると難溶性のジギトニドをつくる.コレステロールの全合成はR.B. Woodward(ウッドワード)ら,R. Robinson(ロビンソン)ら,およびW.S. Johnsonらによってなされている.また,生合成はK.E. Blockら,F. Lynenら,およびJ.W. Cornforth(コーンフォース)らによって解明された.すなわち,アセチルCoAからスクアレンが生成し,ついで2,3-エポキシスクアレンに酸化され,このものの環化反応でラノステロールが生じる.最後の3個のメチル基の脱離,および二重結合の転位が起こって生合成が完結する.生体内でコレステロールは胆汁酸や性ホルモンおよび副じん皮質ホルモンに代謝され,また一部はコプロスタノールになり糞中に排出される.血液中のコレステロール値が上がると動脈硬化症を起こすといわれている.[CAS 57-88-5]

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百科事典マイペディア 「コレステロール」の意味・わかりやすい解説

コレステロール

コレステリンとも。ステロイドの一種。細胞を構成する脂質成分として遊離型またはエステル型として脳,神経,胆汁,卵黄,血液など動物組織一般にみられ,しばしば胆石の主成分となる。ビタミンD,黄体ホルモン,胆汁酸などの母体と考えられる。硬化した動脈のアテローム変性部にコレステロールが多いこと,ウサギにコレステロールを与えて実験的に動脈硬化症をつくることができるなど,動脈内膜へのコレステロールの沈着が動脈硬化症の一因と考えられるが,コレステロールをVLDL-コレステロール,LDL-コレステロール,HDL-コレステロールと分けて検討したところ,虚血性心疾患患者で,VLDLとLDLの量は健康者と差がなく,HDLのみが低値を示していた(VLDLは超低比重リポタンパク,LDLは低比重リポタンパク,HDLは高比重リポタンパク)。また,コレステロールと虚血性心疾患の発症率を調査したところ,HDLの低下に強い発症を,ついでLDLの増加に発症が認められた。この事実から,LDLは動脈硬化に対して促進的に,HDLは拮抗的に作用するものとみられ,前者は〈悪いコレステロール〉,後者は〈良いコレステロール〉と俗称されるようになった。両者の作用機構の究明,臨床的研究が行われている。
→関連項目高コレステロール血症高脂血症小児成人病胎便紅花油

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家庭医学館 「コレステロール」の解説

これすてろーる【コレステロール】

 コレステロールは、ギリシア語のコレ(chole)とステレオス(stereos)を合わせた造語で、コレステリンと呼ばれることもあります。
 コレは、胆汁(たんじゅう)を表わすことばの接頭語で、ステレオスは固形物という意味です。コレステロールは、最初、人間の胆石(たんせき)の成分中から発見されました。それで、胆汁と固形物を意味することばが使われているのです。
 コレステロールは、脂肪の一種で、おもに肝臓でつくられています。細胞膜成分となり、細胞のはたらきを保ったり、性ホルモンや副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンの材料になったりしていますが、胆汁、皮膚、脳の中にもかなり含まれています。
 食品でコレステロールを豊富に含むのは、細胞をつくる素材である卵黄や動物の脂肪です。

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栄養・生化学辞典 「コレステロール」の解説

コレステロール

 C27H46O (mw386.66).

 コレステリンは旧称.動物の主たるステロールで,細胞膜,細胞質,血中などに広く分布する.細胞膜の流動性に寄与するほか,ステロイドホルモンや胆汁酸の生合成の原料になる.粥状硬化を起こした組織に蓄積するほか,血中のコレステロール濃度の高い人は虚血性の疾患を起こしやすいことから,高コレステロール血については治療が行われる.ヒト血液の正常値は120〜220mg/dl

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コレステロール」の意味・わかりやすい解説

コレステロール
cholesterol

コレステリンともいう。高等動物の脂肪の不鹸化物質中より,白色光沢のある鱗片状晶として得られる脂肪様物質。特に脳,神経組織,副腎に多く,肝臓,腎臓などにも含まれる。融点 149℃。水,アルカリ,酸に不溶。有機溶媒に溶ける。動物体内で組織脂肪としてリン脂質と結合して存在,また遊離しても存在する。胆汁酸,ビタミンD,性ホルモン,副腎皮質ホルモンなどは食物として摂取したコレステロールから合成される。妊娠,ネフローゼ,高血圧症,糖尿病,動脈硬化症などのとき,血中コレステロール量は増加する。生理作用,酸化過程は不明の点が多い。

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世界大百科事典(旧版)内のコレステロールの言及

【ステロイド】より

… 最も普遍的に存在するものは3位に水酸基をもつアルコールで,これはステロールsterolあるいはステリンSterinと総称される。動物組織に最も大量にあるステロイドはコレステロール(図3)で,遊離または3位の水酸基の長鎖脂肪酸のエステルの形で存在する。脳,神経組織,副腎に最も多く,腎臓,肝臓,皮膚にもかなり含まれている。…

【胆汁】より


[成分]
 胆汁中には有機,無機の物質が含まれているが,肝胆汁の95%以上は水分である。有機物が多く,そのおもなものは胆汁酸,リン脂質(レシチンが大部分),コレステロール胆汁色素(大部分がビリルビン)などである。胆汁の褐色調は胆汁色素による。…

【胆汁色素】より

…このビリンが大便に特有の色を与えている。コレステロールの大部分は肝臓で胆汁酸に変化し,胆管を経て排泄されるために,胆汁酸の排泄と代謝の異常はコレステロールの代謝に大きな影響を与えることになる。山村雄一らによると,ラットで胆管にカニューレを入れ,胆汁を体外に除いて腸肝循環を阻止すると,胆汁酸の合成は10倍近くに増加するが,このときタウロコール酸を十二指腸に注入すると,カニューレからの胆汁酸分泌は元の値にまで抑制され,コレステロールから胆汁酸への生合成も減少する。…

【中性脂肪】より

…天然に見いだされる脂肪酸誘導体のなかで最も広く分布している一群の脂質で,脂肪酸とグリセリンのエステルであるグリセリド,脂肪酸とコレステロールのエステルであるコレステロールエステルが主要なものである。ほかに量的にはずっと少ないが広く分布するアルキルエーテルアシルグリセロールがある。…

※「コレステロール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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