ゴム(読み)ごむ

デジタル大辞泉 「ゴム」の意味・読み・例文・類語

ゴム(Ghom)

イラン北西部、ゴム州の都市。同州の州都。テヘランの南方約135キロメートルに位置する。イスラム教シーア派の巡礼地。人口、行政区96万(2006)。コム。クム。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゴム」の意味・わかりやすい解説

ゴム
ごむ

わずかな力で大きく伸び、外力を除くとほとんど瞬間的に元に戻る物質をいう。弾性率が小さく、変形の範囲すなわち弾性限界が非常に大きい。ゴム弾性体あるいは高弾性体(エラストマー)ともいう。その化学構造は、非晶性の鎖状高分子が適当な分子間架橋した三次元網目状巨大分子である。架橋度が大きくなると弾性率が増大し、弾性限界が低下してプラスチックに近づく。また、ゴムは一種の準安定状態にあり、架橋点間の分子鎖の部分的な回転や並進運動が可能である。ガラス転移温度以下になると、これら分子鎖の運動は凍結され、ガラス状態になり、ゴム弾性は失われる。このような挙動から、ゴム弾性はエントロピー弾性ともいわれる(図A表1)。

 ゴムという日本語はラテン語のgummiに由来するオランダ語gomの音訳である。漢字では護謨と書く。元来は樹皮から分泌する粘りのある樹脂状物質をよんだ語である。アラビアゴムトラガカントゴムなど多糖類からなる非晶性高分子がある。日本では弾性ゴムgum elasticに対して単にゴムとよぶようになった。ゴムは資源によって天然ゴムと合成ゴムに分類される。天然ゴムと合成ゴムは21世紀に入ってほぼ4対6の割合で生産され、いずれも増加傾向であり、2011年の時点で、世界の合計生産量は約2600万トンに達した。本項では、天然ゴムについて記述する。

[福田和吉]

天然ゴムnatural rubber

パラゴムノキすなわちヘベア(学名:Hevea brasiliensis)の樹皮の切り口から流出するラテックスとよばれる乳白色の液体を凝固して得られる生ゴム、および生ゴムの加硫によって製造されるゴム製品など、天然に産出するゴムの総称。原産地はブラジルのアマゾン流域である。ゴムが文明社会に知られたのは、コロンブスが15世紀末、2回目に航海したときからであるといわれる。一般に普及したのは、1735年フランスのコンダミンCharles Marie de La Condamine(1701―1774)が、ペルーでへべーとよばれる木からとれる樹液が衣服や靴の防水の役目を果たしているという報告書と黒い固まりをパリに送ってからである。彼はこれを涙を出す(o-chu)木(caa)を意味する原住民の語に由来してカウチュークcaoutchoucと命名した。ドイツ語でも、天然ゴムはKautschukとよばれる。英語のラバーrubberは1770年イギリスのジョセフ・プリーストリーが弾性ゴムの消しゴムとしての有用性をみつけて以来、こする(rub)ものという語が物質名となったものである。

 天然ゴムは初めアマゾン流域の野生のゴムノキから採取されており、ブラジルは独占を守るためにパラゴムノキの種子や苗木の国外持ち出しを禁止していた。1876年イギリスのウィッカムHenry Wickham(1846―1928)は野生の種子を巧妙に本国へ持ち帰った。この種子がキュー王立植物園で、発芽・育成され、苗木がマレー半島などへ送られた。その後、東南アジアにおいてパラゴムノキの栽培が軌道に乗り、発展して多量に供給されるようになった。20世紀後半には世界の天然ゴムの90%以上が東南アジアで生産されている。世界の生産量は2007年には1000万トンを超え、そのうちタイ、インドネシアおよびマレーシアの3か国で70%を占めている。

 天然ゴムの利用は、アメリカのグッドイヤーが1839年加硫法を発明してから大きく発展した。1888年ダンロップが空気入りタイヤを発明した。20世紀に入って、カーボンブラックのゴムに対する大きな補強効果がみいだされ、オーエンスレーガーGeorge Oenslager(1873―1956)が加硫促進剤を発見し、ゴム製品の加工性と耐久性が著しく改善した。自動車用タイヤの需要が増加するとともに、ゴム工業は大規模に発展した。

[福田和吉]

生ゴムの採取

ゴムノキは、高温多湿で気温・雨量が季節により変化せず、強風の吹かない地方が生育に適している。樹高は25~30メートルに達し、植えてから5~7年でゴムを採取することができる。樹齢13~21年が採取の最盛期である。生産量の増加は栽培面積の増加とゴムノキの品種改良による。

 ゴムノキの樹皮に傷をつける(タッピング)と樹液が流出してくる。この乳化液はフィールドラテックス(新鮮ラテックス)とよばれ、ゴム成分が平均直径1マイクロメートルの粒子として懸濁している(表2)。このゴム成分は凝固し、生ゴムとして分離するか、乳濁液のまま安定剤を加えて濃縮し、ラテックスLatexとして出荷する。生ゴムは、(1)視覚格付けゴム(VGR:Visual Graded Rubber)および(2)技術的格付けゴム(TSR:Technically Specified Rubber)の2種がある。VGRの一つはフィールドラテックスにギ酸などの有機酸を加えてゴム分を凝固し、洗浄脱水乾燥した後、波状成形ロールを通してシート状とし、燻煙(くんえん)したアメ色から褐色のスモークドシート(RSS:Ribbed Smoked Sheet)である。VGRの他の一つは、酸性亜硫酸ナトリウム(防カビ剤)を加えて凝固させ、ロールにかけて縮緬(ちりめん)状にした後、熱風乾燥した淡黄色のペールクレープである。これらのシートを重ねてプレス成形し、ほぼ50センチメートルの直方体(ベールとよばれ、標準重量が111キログラム)として出荷される。TSRは凝固したゴム分を機械的に粉砕し、水洗、熱風乾燥、プレス成型してポリエチレンシートに包装し、標準の大きさが70×40×15センチメートルの形(ブロックゴムとよばれ、重量35キログラム)で出荷される。ラテックスはフィールドラテックスにアンモニアを安定剤として加え、遠心分離機にかけて濃度を60%に引き上げた濃縮液として出荷される(図B)。

[福田和吉]

成分

天然ゴムの主成分は分子量10万~20万のシス-1,4-ポリイソプレンである。生ゴムは一部結合して分子量100以上の高分子が混合している。生ゴムはベンゼンやクロロホルムに可溶で熱可塑性を示す。輪ゴムに似た感じの物質であり、10℃以下では硬くなり、零下70℃になるとガラス状態になる。硫黄(いおう)で加硫すると鎖状高分子間に架橋ができて強靭(きょうじん)なゴム弾性を示すようになる。天然ゴムには6%程度のタンパク質や脂質、糖質、無機物などの非ゴム成分が含まれている(表3)。

[福田和吉]

ゴムの加工

生ゴムからゴム製品に至る工程は、(1)素練り、(2)配合(混練り)、(3)成形、(4)加硫の順である。加工の際にゴム分とほぼ同量の配合剤が加えられる(図C)。

(1)素練り 生ゴムは素練りすると発熱を伴って分子量低下がおこり、可塑性が増加して混和性がよくなる。素練り法には、回転速度の違う2本のロールの間に生ゴムを繰り返し通すロール法、2個のローターが胴体の中で互いに反対方向に回転しローター間および両ローターと胴体の間で生ゴムを練るバンバリーミキサー法、およびゴードンプラスチケーターとよばれる大型の押出し機を使う方法がある。素練りしたゴムの可塑性の測定には、回転円板式のムーニー粘度計や、圧力と流量から流動特性を求めるフローテスターなどが使われる。

(2)配合(混練り) 素練りを終わり混和性の増加したゴムは各種配合剤と混合する。配合剤には加硫剤、加硫促進剤、軟化剤、老化防止剤、補強剤、充填(じゅうてん)増量剤、着色剤などがある。一般に使用される加硫剤は硫黄であり、2~3.5%程度加えられる。加硫促進剤は、加硫温度を下げ、加硫時間を短縮して製品の質をよくする作用がある。これには有機促進剤が用いられ、グアニジン系、チウラム系、チアゾール系、チオユリア系、スルフェンアミド系、ジチオカルバミン酸系などがある。軟化剤は、ゴムの加工を容易にして配合剤の分散をよくするために加えられるもので、鉱油、石油樹脂、動植物油、脂肪酸、パインタール(松脂を加えたトール油)などがある。老化防止剤は、ゴム製品が表面に亀裂(きれつ)を生じたり、もろくなったり、べとつくようになるのを防止する。このような老化は、ゴムが光、熱、酸素、オゾンなどの作用で自動酸化するためにおこるので、芳香族アミンフェノール類などの酸化防止剤が老化防止剤として使われる。また、ベンゾイミダゾール類、アミンとアルデヒドあるいはケトンとの反応物などの老化防止剤もある。補強剤・充填増量剤は、ゴム製品に必要な硬度、引張り強度、耐摩耗性を与えるため生ゴムに対して40~50%加えられる。補強剤としてはカーボンブラック(油煙、煤(すす))がもっとも効果的である。微粉状シリカ(含水二酸化ケイ素)はホワイトカーボンとよばれ、白色あるいは着色ゴム用の補強剤である。そのほか粘土、タルク、炭酸カルシウム、珪藻土(けいそうど)なども用いられる(表4)。

(3)成形 各種の配合剤を混練りし終わったゴムは目的物に成形される。カレンダーロールでシート状およびゴム引き布に成形され、押出し機でチューブや棒や電線被覆に成形され、金型に入れて目的の形に成形される。

(4)加硫 成形物は円筒形耐圧缶中、直接加圧水蒸気で加熱する直接蒸気加硫か、二重加硫缶中、間接的に加熱する熱空気加硫によってゴム製品になる。加硫条件は軟質ゴムでは145℃で15~50分である。また、プレス機、トランスファー成形機、射出成形機を使って、成形と加硫を同時に行う方法もある。

[福田和吉]

用途

天然ゴムはタイヤ用にもっとも多く用いられ、ラジアルタイヤやバス、トラック、トラクター、航空機などのタイヤの使用比率が高い。ついでベルトやホース、空気ばねなどの工業用品に用いられる。ラテックスはタイヤコードのディッピング(含浸加工)、糸ゴム、ゴム手袋、履き物、ゴム引布、医療衛生用品、運動用品および接着剤などに使用されるが、量的比率は低い。

[福田和吉]

天然ゴム誘導体

天然ゴムの化学反応によって各種誘導体が製造され、特殊な用途に使われていたが、各種合成ゴムの出現によってその用途は狭められている。天然ゴム誘導体には、塩素を付加した塩化ゴム、塩化水素を付加した塩酸ゴム(食品包装用フィルムとして使われる)、濃硫酸、有機スルホン酸、スルホクロリドを作用させてつくった環化ゴム、エポキシ化ゴム、メタクリル酸メチルなどをゴム分子に枝分れ重合したグラフト化ゴムなどがある。

[福田和吉]

『田中康之・浅井治海著、日本化学会編『新産業化学シリーズ ゴム・エラストマー』(1993・大日本図書)』


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改訂新版 世界大百科事典 「ゴム」の意味・わかりやすい解説

ゴム

植物の分泌物から得られ,一般にゴムまたはガムと呼ばれている物質には次の3種がある。

(1)ガムgumといわれる無定形物質。この代表的なものがアラビアゴムgum arabicおよびトラガントゴムgum traganth(トラガカントゴムgum tragacanth)である。主成分は種々の多糖類がさまざまな割合で結合した高分子物質で,水に入れるとコロイド溶液となるか,著しく膨潤し粘りけを示す。アルコールには不溶。食品の増粘剤,のり(糊)などに使われる。

(2)チューインガムのベースとなるガムで,ゴム樹脂gum resinとも呼ばれる。(1)に挙げたアラビアゴムなどとは反対に,水になじまず,アルコール,ベンゼンに溶ける。チクル,ジェルトン,ソルバが代表例である。3者とも似た化学組成をもち,40~60%がトリテルペン樹脂,10~15%がイソプレンの重合体であるゴム,残部は灰分,多糖類である。

(3)日常目に触れるゴム製品の主原料である弾性ゴムrubber。ただゴムといった場合,一般にはこれを指す。ラバーrubberの語は,1770年にイギリスの化学者J.プリーストリーが,生ゴムでこする(rub)と鉛筆書きの字を消すことができると紹介したのに発するといわれている。なお,rubberを指すドイツ語Kautschukおよびフランス語のcaoutchoucは,アマゾン川流域でのcaa(木)とo-chu(涙を流す)という語に由来し,また,いわゆるゴムgum(英語),Gummi(ドイツ語)ということばは,弾性ゴムが先に挙げたアラビアゴムなどと同様の植物gum質であると考えてラテン語でgummi elasticmと呼んだことから出ている。

 以下,(3)の〈弾性ゴム〉の意味でのゴムについて解説する。

 ゴム(弾性ゴム)とは成形加工の可能な可塑性物質で,化学的手段によって三次元網状構造化すると,小さな力で相当に大きい変形をおこし,力を取り除くとその変形から急速にほとんど元の形まで戻る,いわゆるゴム状弾性を示す物質の総称である。日本のゴム工業における新ゴムの生産量は約137万t(1995年)で,その主要製品別内訳をみると,タイヤチューブ用としての需要が75%とずばぬけて多く,次いでベルト,ホースなどの工業用品,履物,ゴム引布などその他ゴム製品用の順となっている。また日本において消費されるゴムでは,合成ゴムが天然ゴムに比べてはるかに大きい比率を示している。合成ゴムについては別項で詳細に述べるので,ここでは天然ゴムについて説明する。
合成ゴム →ゴム工業

天然ゴム原料の原産地はブラジルで,自然林から採取されるゴムを独占して利益をあげようとはかった同国はゴムノキの種子や苗木の国外持出しを禁止していた。1876年にイギリスのウィッカムHenry Wickhamがその種子をひそかにロンドンの植物園に送り発芽させた。その苗木がマレーシア地方に移植され,これが現在の栽培ゴムノキの母体となった。

 天然ゴムはゴムノキの分泌するラテックスと称する乳液中に含まれる炭化水素である。ラテックスを分泌する植物は数が多く,220種以上もあるとされ,産地はおもに赤道をはさみ緯度20°以内の高温多湿な地域である。今日工業用ゴム原料を目的として栽培されているのはパラゴムノキで,マレーシア,インドネシア,タイ,スリランカ,インドなどが主生産地である。苗を植え付けてからラテックスを採るまでには5~7年を要し,以後の20~30年間は経済的にラテックスを採ることができる。1ha当り220~250本を植え,1年に2000~2500kgのゴムを採取する。ラテックスを経済的に採れなくなったゴムノキはパルプ原料用チップとされる。

 ラテックスは樹皮内の乳管に存在する。乳管は形成層の外側に年に数層発達し,これにナイフで溝状に傷をつけると牛乳状のラテックスが流出する。ラテックス中に含まれるゴム分を凝固,分離させると生ゴムが得られる。この生ゴムを原料として,これに加硫剤,充てん剤などを配合,混練りしたのち成形加硫すると,われわれが日常使用するゴム製品が得られる。

 最近グアユールゴムgum guayuleが注目されている。これは北アメリカ南部,メキシコなど降雨量の少ない乾燥地帯に生えるキク科の灌木グアユールParthenium argentatum A.Grayから抽出されるもので,パラゴムノキから得られる天然ゴムと同じシス-1,4結合ポリイソプレン構造をもち,性能的にもほとんどかわらない。このゴムの歴史は古く,20世紀初期にはメキシコ産のグアユールゴムがアメリカで相当量使用されていた。東南アジアにおける栽培ゴムノキからの天然ゴム生産量が増加するに従い,グアユールゴムの生産は急速に衰退し,現在では工業的規模の生産は行われていない。しかし東南アジアからの輸入にたよらずとも自国内でも戦略物資である天然ゴムが生産可能であること,砂漠に近い乾燥地帯の荒地でも栽培可能であることなどから,メキシコやアメリカなどでその生産が積極的に検討されている。なお,弾性ゴム類似の分子構造をもつ天然物としてはグッタペルカ,バラタなどがある。これらはゴルフボールの外皮などに使用されるが,その分子構造はトランス-1,4結合ポリイソプレンで,シス-1,4結合ポリイソプレンである天然ゴムの立体異性体である。
執筆者:

ラテックスはタンパク質などに包まれた粒子径0.05~2μm程度のごく細かいゴム炭化水素粒子の懸濁液である。ラテックスの組成は季節やゴムノキの種類,樹齢などによって異なるが,採取したばかりの新鮮なラテックスの平均的組成を表に示す。新鮮ラテックスのpH(水素イオン濃度)は6.5~7.0であるが,アルカリ性にしておくと凝固しにくいので,保存する場合にはアンモニアなどを添加してpHを10~11にしておく。ラテックスに酸を加えるとゴム分が凝固,分離して生ゴムが得られ,これがゴム工業の原料ゴムとして使用される。また,ラテックスのまま原料として使用する用途もあり,ゴム手袋やコンドームなどの浸漬(しんし)製品,ゴム製玩具などのキャスト製品の製造などに用いられている。
ラテックス

ラテックスに酸を加えてゴム分を凝固,分離したのち乾燥して生ゴムすなわち天然ゴムが得られる。製造方法によって各種グレードに分類されているが,原理は同じである。代表的なものとしてはスモークドシートsmoked sheet,ペールクレープpale crepeなどがある。スモークドシートは最も一般的なグレードで,赤茶褐色の生ゴムである。ラテックスをろ過したのちギ酸を加え,よくかくはんしてゴム分を凝固,分離させたのち,ゴム分を集め,ロールの間を通して水分をしぼりとり,シート状にゴムを圧延する。次いで薫煙室に入れ木をもやしてその煙で下からいぶし,乾燥させて製品とする。薫煙のため赤茶褐色に着色している。ペールクレープの場合は凝固にさきがけて亜硫酸水素ナトリウムをラテックスに添加して漂白する。次いで酸を加えてゴム分を凝固,分離したのち強力なロールでゴム分を薄いちりめん状のシートとし,これを熱風乾燥させて製品とする。このためきれいな白色のゴムが得られるが,スモークドシートよりも価格も高く,淡色製品など高級品用途に用いられる。

 生ゴムは国際商品であるため,1960年に世界共通の国際規格が定められた。生ゴムの組成は原料ラテックスや製法などによって異なるが,その平均的組成は表に示すとおりである。ゴム炭化水素は純粋なシス-1,4結合構造のポリイソプレンから構成されている。アセトン可溶分は樹脂状の物質で,高級脂肪酸,ステロール(ステロイドのアルコール),ステロールエステルなどである。アセトン抽出して可溶分を取り去った天然ゴムはきわめて老化しやすいことなどから,ステロール類は天然の老化防止剤の役をしていることがわかり,自然のたくみさが感じられる。精製した生ゴムの比重は約0.91でガソリン,二硫化炭素,トルエンなどには溶解するがアルコール,アセトンなどには溶解しない。また冷却すると-70℃付近で弾性を失う。

ゴム製品の製造方法は製品の種類によって異なるが,基本的には原料ゴムを素練りして適当な可塑度を与え,次いで加硫剤,充てん剤,老化防止剤などを配合,混練りしたのち,成形,加硫するのが一般的である。

 素練りはゴム加工の最初の工程で,この後に続く加工工程に大きな影響を与える重要な,また基本的作業の一つである。2本ロールやバンバリーミキサーで剪断(せんだん)力を与えることによってゴムの可塑性,粘着性を増大させる。剪断力を与えることによりゴム分子鎖のからみ合いや凝集の破壊,ゴム分子鎖の一部切断および素練り中におこる空気中の酸素によるゴム分子鎖の一部切断を伴う酸化分解などにより,弾性が低下して可塑性,粘着性が増大するのである。このようにしてゴムの可塑度はこれに続く工程に適するように調整される。また,素練り効果を上げるため素練り促進剤を使用することも多く,スルフィド類,メルカプタン類化合物がこの目的のために使用されている。天然ゴムの場合には製造工程や輸送途中でごみ,小石,木片などの異物が混入する可能性が高いので,これらを除去するため,素練りのあと30メッシュ程度の金網をそなえたストレーナーを通す。

 素練りの終わったゴムには種々のゴム配合剤を加え,2本ロールやバンバリーミキサーを用いて混練りして配合剤をゴム中へできるだけ均一に分散させる。配合剤の種類は多いが,おもなものは加硫剤,加硫促進剤,老化防止剤,充てん剤などであり,目的とするゴム製品の要求性能,原料ゴムの種類などによってそれぞれの種類や量などをきめる必要がある。これらは互いに影響し合うきわめて複雑な系であり,従来は経験と勘にたよって行われていたが,最近ではコンピューターを使用してより科学的に行われるようになってきた。

 原料ゴムに薬剤を加え,化学反応によってゴム分子鎖間に橋かけ結合を形成させ,ゴムを三次元網状構造化し,所期の弾性を付与することを加硫という。このための薬剤が加硫剤であり,硫黄粉末が最も一般的に使用される。加硫反応を促進させるのに有効な添加剤が加硫促進剤である。また,通常のゴム製品は日がたつにつれて粘着性が増したり,亀裂を生じたり,あるいは硬化したりしてゴム本来の性能が低下する傾向がある。これをゴムの〈老化〉といい,これを防止するために添加する薬剤が老化防止剤である。各種アミン化合物や2,6-ジブチル-4-メチルフェノールなどのフェノール類が実用上重要な老化防止剤である。ゴムに添加する微粉末状物質として充てん剤がある。これには補強性充てん剤と増量剤とがある。補強性充てん剤はゴムの耐摩粍性,引張強さなどの機械的性質を高める効果をもつ。この代表的なものがカーボンブラックで,補強効果も抜群である。カーボンブラックにも多くの種類があり,その製法や原料によって粒径,表面積が異なる。一般にカーボンブラックの粒径は10~500nmで粒子が細かいほど補強効果は大きいといわれ,ゴム100に対して40~100程度の重量比で使用されることが多い。タイヤなどゴム製品に黒いものが多いのはこのカーボンブラックのためである。このようにカーボンブラックは優れた補強効果をもつが製品が黒く着色してしまうので,淡色や白色を要求する製品には使用できない。このような目的のためにはカーボンブラックにくらべてその補強効果は低いが微粉末状シリカ(二酸化ケイ素)などが白色補強性充てん剤として使用される。このような補強効果は充てん剤粒子とゴム分子間の物理的,化学的結合によっておこるものと考えられ,とくに合成ゴムの場合には補強性充てん剤の効果は大きい。また,あまり機械的性質を要求されず,製品コストを引き下げたい場合には炭酸カルシウム,クレー(粘土),タルク(滑石)などが増量剤として使用される。

 混練りの終わった配合ゴムは,2本以上のロールを組み合わせたカレンダーと呼ばれる装置を通して,一定の厚さのゴムシートとする。これを適当な大きさに切断し,所定の形にはり合わせたのち金型に入れ,加圧下に加熱して加硫する。加硫が終わったのち型から取り出し,冷却してゴム製品ができあがる。このようにゴム加工工業は人手を要し,かつエネルギー多消費型なのでゴム製品の製造工程における省エネルギー,省力化は重要な問題であり,その対策の一つとして粉末ゴム,液状ゴムの使用が検討され,一部はすでに実施されている。ゴムホース,ゴムシート,電線の被覆などの連続品は配合ゴムを押出機のノズルから押し出し,加熱オーブンの中を所定の速さで通すことによって連続的に加硫され,製品となる。また射出成形によるゴム製品の製造も一部実施されている。

力を加えると変形し,力を取り除くと元の形へすばやく復帰するという独特の性質を応用して,ゴムは多くの製品や機器の部品,材料として広く利用されている。ゴムを利用した製品のおもなものを列記すると自動車用,航空機用,自転車用のタイヤやチューブ,ゴムベルト,ゴムホース,ゴムロール,履物,防振ゴム,防玄材,電線被覆,ゴム引布,糸ゴム,ゴルフボール,ゴムボール,パッキングなどが挙げられる。タイヤ用にはきわめて多量のゴムが消費されており,廃タイヤの処理は重要な問題となっている。再生ゴム用途,再生タイヤ用途に加え,最近,日本では高価な燃料油の代用としてセメント焼成キルンの燃料としても使用され,年々その量は増加しているが,さらに付加価値の高い廃タイヤ回収利用法の開発が望まれている。
再生ゴム
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「ゴム」の解説

ゴム
ゴム
rubber

小さな力で大きな伸び縮みをする性質(ゴム弾性)をもつ物質.日本語の“ゴム”は,樹皮から分泌する乳状の粘りのある液体,または樹脂を意味する“gum”(ラテン語gummiからの英語)に由来していて,“アラビアゴム”,その水溶液の“ゴムのり”などにも用いられているが,弾性ゴム(gum elastic)に対して用いられるのが一般的になった.C.M. de la Condamineが,1735年,アマゾン流域の調査報告で弾性ゴムに名づけた,“涙を出す木”を意味する原住民の語に由来した“caoutchouc”というフランス語が最初の命名であり,ドイツ語でも“Kautchuk”が用いられている.英語の“rubber”は,J. Priestley(プリーストリー)が,この弾性ゴムが消しゴムとして有用であることを提唱して以来,“こする物”という語がこの物質の名となってしまった.ヨーロッパにはじめに送られたゴムは,アマゾン流域の野生のゴム樹から得られた生ゴムであるが,この利用に関しては,1830年ごろのT. Hancockのゴム練り機械の発明と,それに続くC. Goodyearの加硫法の発明とによって大きく発展しはじめた.1888年,J.B. Dunlopが自転車用の空気入りタイヤを発明して以来,ゴム工業の発展はタイヤを主力とし,とくに自動車工業の発展とともに大規模になった.一方,原料ゴムは1880年前後のイギリスによる東南アジアにおけるヘビア種のゴムの木の栽培の成功以来(栽培ゴム(plantation rubber)という),原産地アマゾン流域にかわって全世界に供給されるようになった.天然ゴムの主体が,イソプレン単位が線状に結合したものであることが知られて以来,イソプレンからゴムを合成する試みが行われ,1909年にはドイツのByer社が熱重合で,1910年にはC.D. Harriesが金属ナトリウムを触媒とする重合でゴム状物質を得ているが,その性質は天然ゴムに相当劣っていた.その後,実用に供された合成ゴムはイソプレンからではなく,ブタジエンクロロプレンの重合体であった.とくに第二次世界大戦中,アメリカは大規模な合成ゴム製造のプロジェクトを推進し,主としてブタジエンとスチレンなどとの共重合による合成ゴム(GR-S,GR-Nなど)を開発した.これらの合成ゴムは,天然ゴム代用品の域を越えた新しい工業材料としての価値が認められ,戦後ますます合成ゴムの開発,製造は発展し続けた.しかし,天然ゴムと同じ組成構造をもつ合成天然ゴム,cis-1,4-ポリイソプレンの合成は,1954年に至ってはじめて実現した.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「ゴム」の意味・わかりやすい解説

ゴム

一般にゴムまたはガムと呼ばれている物質にはいくつかの種類があるが,ふつうゴムと言えば弾性を示す高分子化合物をさす。弾性ゴムともいう。天然ゴムと合成ゴムに大別。一般にアラビアゴム,トラガカントゴム(トラガントゴムとも)などの非弾性の水溶性ゴムとは区別される。天然ゴムの主成分はイソプレンの重合体で,パラゴムノキに傷をつけて分泌する樹液(ラテックス)を酸で処理して生ゴムとする。生ゴムは素練り,各種配合剤の混合,圧延,成形,加硫,仕上げの工程を経てゴム製品とされる。パラゴムノキは南米原産だが,1906年ころからマレー半島に移植栽培されるようになり,主産地はマレー半島に移った。安定な弾性ゴムの製造は,1839年米国のグッドイヤーによる加硫法の発明で可能となり,以後自動車タイヤ,ホース,その他のゴム製品工業の隆盛をみるようになった。→ゴム工業
→関連項目生ゴム

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゴム」の意味・わかりやすい解説

ゴム
rubber

次のような性質をもっているか,または与えることのできる高分子物質をいう。 (1) 室温において小さい応力で相当に大きい変形を起し,その変形から応力を除くと急速にほとんどもとの形まで戻ること。 (2) 熱および中庸の圧力を加えることにより恒久的な形に再成形することが容易にできないこと。ゴムという用語は,ゴムから製造される製品にも使われる。なお最近開発された高温において可塑性であり常温では弾性を示す熱可塑性ゴム thermoplastic rubberは上記 (2) の条件は満たさないが,ゴムとして考えることになっている。 (→ガム )  

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「ゴム」の解説

ゴム

かなり古くからアメリカ先住民文化のなかで知られており,コロンブスによってヨーロッパに紹介された。19世紀中頃タイヤとしての用途が開け,やがて自動車工業の伸展とともに需要が急上昇し,一躍して国際貿易市場の花形商品の一つとなった。同時に野生木からの採集では生産が追いつかなくなり,20世紀に入って東南アジア諸地域における栽培,ことにヨーロッパ資本によるプランテーション経営が急激に増大した。しかし合成ゴムの登場によりその前途は予断を許さなくなっている。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

栄養・生化学辞典 「ゴム」の解説

ゴム

 →ガム

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のゴムの言及

【有用植物】より

…精油は通常,水蒸気蒸留によって集められる揮発成分で,テルペンやセスキテルペン,あるいはそれからの誘導体である。 すでに述べた香辛料植物の多くは精油を含有しており,それぞれに特徴的な芳香を有しているが,他方では精油は炭化水素系の有機物で,あとで述べる石油植物,あるいはゴムや樹脂とも化学成分として共通性があり,注目されている。
【造形植物】
 直接,間接に人間の体内に摂取する形で利用する植物のほかに,人間の生活に必要な器物(住居,家具,運搬具,衣服,装飾品など),すなわち生活に必要な形あるものを作り出すのに利用される植物も,おびただしい数にのぼる。…

※「ゴム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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