ゴールドマン・サックス(読み)ごーるどまんさっくす(英語表記)Goldman Sachs

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゴールドマン・サックス」の意味・わかりやすい解説

ゴールドマン・サックス
ごーるどまんさっくす
The Goldman Sachs Group,Inc.

アメリカの大手金融グループ。投資銀行業務を中心に証券業務、資産運用業務などを欧米、アジアなど世界規模で展開している。モルガン・スタンレー、JPモルガンチェースなどと並ぶアメリカの老舗(しにせ)金融機関。ニューヨークウォール街本社を置き、ロンドンフランクフルト、東京、香港(ホンコン)などに現地法人をもつ。1869年にドイツ系移民のマーカス・ゴールドマンMarcus Goldman(1821―1904)が手形仲介業として創業し、娘婿のサミュエル・サックスSamuel Sachs(1851―1935)が経営に加わったため、ゴールドマン・サックスの名がある。アメリカ経済の成長に伴って証券業から投資業などへと業務を拡大。世界恐慌やインサイダー取引疑惑などを乗り越え、世界最大の金融機関の一つに成長した。1999年に株式公開。2008年以降の世界的な金融危機に際しては、危機の発端となったサブプライムローン関連の証券化商品をいち早く売却し、損失を最小限に抑えた。2008年には、金融当局の経営支援を受けやすい銀行持株会社へ移行した。2016年に、一般消費者を対象としたオンライン銀行「GSバンク」を開始した。21世紀に著しい経済成長が期待されるブラジル、ロシア、インド、中国の新興4か国の総称としてBRICs(ブリックス)(後に南アフリカを入れてBRICSに変更)という造語を生み出すなど、市場分析や経済予測には定評がある。約500人のパートナーとよばれる幹部が共同で経営を取り仕切る形態をとる。同社は財務長官を務めたロバート・ルービンRobert E. Rubin(1938― )、ヘンリー・ポールソンHenry M. Paulson(1946― )などアメリカ政府要人を輩出しており、トランプ政権で財務長官に就任したスティーブン・ムニューチンSteven Mnuchin(1962― )も同社の元パートナーである。高額報酬で知られ、社員の2015年の平均収入は35万ドル(3900万円)、パートナーなどの幹部は90万ドル(1億円超)に達するとされている。このため金融危機の原因をつくった金融機関にもかかわらず、社員が高額報酬を得ているとのウォール街批判の象徴的存在でもある。2015年の総資産は8613億9500万ドル、純収益338億2000万ドル、純利益60億8300万ドル。

[矢野 武 2017年4月18日]

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知恵蔵 「ゴールドマン・サックス」の解説

ゴールドマン・サックス

投資銀行業務を中心とする世界有数の国際金融グループ。本社はニューヨークのウォール街。同地に本社を置くモルガン・スタンレーなどと並び、世界金融市場に絶大な影響力を持つ。金融危機の影響で、2008年9月に銀行持ち株会社に移行したが、現在もロンドン、フランクフルト、香港など、世界の主要金融都市に現地法人を開き、投資・証券業務の他、M&Aの仲介、各種金融商品の取引から保険・不動産業務まで、広範な金融サービス事業を展開している。日本への進出は1974年で、東京に駐在員事務所を開設。現在、日本法人の本社は、六本木ヒルズ森タワー内にある。
「名門」としての歴史は古く、1869年にドイツ出身のユダヤ系移民マーカス・ゴールドマンが、ニューヨークで手形仲介業を起こしたのが始まり。当初は、手形割引や金貸しを営んでいたが、1882年に娘婿のサム・サックスを招いて、ゴールドマン・サックス社を設立し、事業を拡大した。パートナーシップ経営の下、20世紀初頭にかけて、証券業から投資業へと手を広げ、米国の躍進と足並みをそろえるように成長を遂げた。その後、世界恐慌やインサイダー取引疑惑などで幾度となく経営危機に見舞われたが、「ミスター・ウォール街」ことシドニー・ワインバーグ(39年間シニア・パートナーとして君臨)や息子ジョン・ワインバーグら歴代の経営者は、政財界の影の後押しを受けながら乗り切ってきた。かつて米財務長官を務めたロバート・ルービンやヘンリー・ポールソンも、同社の出身である。2008年のリーマン・ショックに端を発した金融危機からの回復も早く、09年の4~6月期、10~12月期には過去最高の収益を上げた。
しかし10年4月、米証券取引委員会(SEC)が同社を詐欺の疑いで訴追。同月の米議会でも大きく取り上げられた。SECが問題としたのは、07年に同社がサブプライム・ローンを組み入れた債務担保証券(CDO)「アバカス」を販売した際、顧客にジョン・ポールソン氏が運営するヘッジファンドとの共同開発商品であることを隠した点にある。ポールソン氏は、サブプライム・ローンの破綻(はたん)を確実視していたと見られ、実際にゴールドマン・サックスから「アバカス」損失の際に保険金を得られるという金融商品(CDS)を購入していた。同氏がもうけた額は、サブプライムの破綻で被った機関投資家の損失額、約10億ドル(940億円)に相当すると見られている。ゴールドマン・サックスは、正当な商行為であり、自社も巨額の損失を出したとして、詐欺行為を否定しているが、米議会やマスコミからは、こうした複雑で不透明な取引が金融危機を拡大させたとして、激しいバッシングを受けている。

(大迫秀樹  フリー編集者 / 2010年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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