サヤハシチドリ(読み)さやはしちどり(英語表記)sheath bill

改訂新版 世界大百科事典 「サヤハシチドリ」の意味・わかりやすい解説

サヤハシチドリ (鞘嘴千鳥)

チドリ目サヤハシチドリ科Chionididaeの鳥の総称,またはそのうちの1種を指す。この科の鳥はおよそハトくらいの大きさで,全長36~43cm。体は太り,くびは短い。くちばしは短小でその基部には鼻孔を覆っている鞘状の付属物があるのでこの名がある。脚も短く太くて強い。翼は比較的長くてとがり,翼角に短い角状の突起がある。体は全身白く,眼の付近は皮膚が裸出している。世界には2種があり,亜南極圏および南極圏の島々に分布している。岩の上に10羽前後の群れで生活し,波打ちぎわで海藻,軟体動物,甲殻類などをあさっているが,ペンギンが繁殖するころになると,ペンギンの集団繁殖地のそばに移動し,その卵や雛を盗んだり,ペンギンが雛に与える餌を横取りしたりして,ペンギンに依存して生活するようになる。またセイウチの後産や糞を食べることもあり,人間が生活しているところではごみ捨場もあさる。警戒性は少ない。地上生活が主であるが,海上を力強く,長い距離を飛ぶこともある。10~11月に繁殖地に戻り,岩のくぼみに海藻,貝殻などを敷いて巣をつくり,1腹2~3個の卵を産む。卵は白色の地に褐色斑紋がある。雌雄交替で約30日抱卵し,かえった雛は早成性であるが,約2週間巣の中で親鳥保育を受ける。

 サヤハシチドリChionis alba(英名snowy sheathbill)は全長約43cm,くちばしの基部は灰色。サウス・ジョージア島からサウス・シェトランド諸島にかけての島々,南極大陸のパーマー・ランドなどで繁殖する。未繁殖の鳥はフォークランド諸島でも見られる。ヒメサヤハシチドリC.minorは前種よりやや小さく,マリオン島,プリンス・エドワード諸島,ケルゲレン諸島に分布している。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サヤハシチドリ」の意味・わかりやすい解説

サヤハシチドリ
Chionis albus; snowy sheathbill

チドリ目サヤハシチドリ科。全長 34~41cm。ニワトリの雌をずんぐりさせたような姿の鳥で,は短くて厚く,名前のように角質のさやのようなもので覆われている。色はくすんだ黄色で,背の部分は黒みを帯びている。全身の羽色は純白であるが,眼のまわりや眼先,額は羽毛がなくて桃色を帯び,脚は黒色である。南アメリカ最南端のホーン岬サウスジョージア島サウスシェトランド諸島など南極近くの島々と南極半島に分布する。海岸にすみ,海藻の間の小動物や,動物の死体や糞などを食べる。また,ペンギンが雛にとってきた獲物を横取りしたり,ペンギンの雛や卵を捕食することもある。なお,サヤハシチドリ科 Chionidaeは 2種からなり,もう 1種のカオグロサヤハシチドリ C. minor も南極圏に分布している。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サヤハシチドリ」の意味・わかりやすい解説

サヤハシチドリ
さやはしちどり / 鞘嘴千鳥
sheath bill

広義には鳥綱チドリ目サヤハシチドリ科に属する鳥の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。この科Chionididaeの仲間は、南極周辺に2種が分布しており、全身白色をしている。上嘴(くちばし)の基部に角質の鞘(さや)状をした付属物があり、鼻孔を保護している。雑食性で、餌(えさ)は海獣類の死体、ペンギン類の雛(ひな)や卵、動物の排出物、甲殻類、軟体動物、藻類などいろいろである。人間の住まない地域にいるので、人間を恐れない。2、3卵を産み、雌雄とも抱卵する。

 種のサヤハシチドリChionis albaは全長約40センチメートル。サウス・ジョージア、サウス・オークニー、サウス・シェトランドなど南極海の島々やホーン岬付近などで繁殖する。嘴は黄色がかり、足は黒色を呈している。ヒメサヤハシチドリC. minorは南極大陸やプリンス・エドワード島、ケルゲレン島、ハード島などで繁殖している。眼先(めさき)と嘴は黒色で、足はピンク色である。

[柳澤紀夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

靡き

1 なびくこと。なびくぐあい。2 指物さしものの一。さおの先端を細く作って風にしなうようにしたもの。...

靡きの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android