シアン中毒(読み)シアンちゅうどく(英語表記)Cyanide poisoning

六訂版 家庭医学大全科 「シアン中毒」の解説

シアン中毒
シアンちゅうどく
Cyanide poisoning
(中毒と環境因子による病気)

どんな病気か

 シアン化合物青酸(せいさん)化合物)が経口、経皮、経気道により体内に入り、細胞の呼吸を妨げて細胞の活動を停止させることにより起こる中毒です。症状の発現は急激で、最も影響を受けるのは脳なので、一刻も早い処置が必要です。

原因は何か

 シアン化合物には、シアン化水素(青酸ガス)、シアン化カリウム青酸カリ)、シアン化ナトリウム青酸ソーダ)などがあり、冶金やメッキ、化学薬品の材料に使われています。これが自殺、他殺目的など故意、あるいは事故により体内に入ると、細胞内でチトクローム酸化酵素の鉄と結合して、この酵素のはたらきを妨げ、細胞が酸素を使ってはたらくことをやめてしまいます。

 このため全身の臓器が急激に損なわれ、とくに脳の障害が深刻です。また、酸素が使われずに糖が代謝されるため乳酸がたまり、代謝性アシドーシス(血液が酸性になること)になって、呼吸障害、意識障害などを促進します。

 一方、自然物でも、たとえば青梅には青酸配糖体(はいとうたい)が含まれています。とくに小児が青梅を食べた場合、シアン中毒になることがあります。

症状の現れ方

 症状の発現は急激で、シアンが体内に入ってただちに、あるいは長くて数分以内に症状が現れます。軽症では、頭痛、めまい、嘔吐のほか、特徴的な症状として、顔面紅潮、呼吸促進、頻脈(ひんみゃく)、代謝性アシドーシスなどが生じます。シアンの量が多く重症の場合は、血圧低下、呼吸困難、心房細動(しんぼうさいどう)肺水腫(はいすいしゅ)けいれん、意識消失が生じ、やがて呼吸停止、心停止につながります。

検査と診断

 最も確実な診断法は、中毒の原因物質としてのシアンを特定することです。原因となったものが残っていればそれを調べますが、経口摂取の場合は吐物や胃の内容物のなかのシアンも調べる必要があります。簡便法としては、古い10円玉を濡らし、その上にこれらを載せて、表面が還元されてきれいになるのをみる方法があります。

 そのほか、急激な発症、症状(とくに代謝性アシドーシス)、患者の呼気のアーモンド臭などが診断の手掛かりになります。

治療の方法

 軽症の場合は、酸素の投与炭酸水素ナトリウム(メイロン)によるアシドーシスの補正を行います。重症の場合は、心肺蘇生(しんぱいそせい)、呼吸管理が必要です。

 特有な治療法としては、亜硝酸ナトリウムを投与して、シアンと結合しやすいヘモグロビンをつくり、これに結合したシアンを、チオ硫酸ナトリウムの投与によって尿中に排泄させる方法があり、この方法に即した治療キットが市販されています。

 重症の場合、後遺症として酸素欠乏による脳障害や、パーキンソン症候群が起こることがあります。

病気に気づいたらどうする

 シアン中毒が疑われる人を見つけたら、ただちに救急車を呼びます。酸素を吸わせながら、治療キットがある救急病院に搬送する必要があります。救急車が来る前に、人工呼吸などが必要になることもありますが、周囲の人も患者さんの呼気を吸ってシアン中毒になることがある点に十分注意します。

関連項目

 パーキンソン症候群

栗原 伸公

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「シアン中毒」の解説

しあんちゅうどく【シアン中毒 Cyanide Poisoning】

[どんな病気か]
 シアン(青酸化合物(せいさんかごうぶつ))は、酸素を運ぶ血液のはたらきを阻害し、窒息(ちっそく)させます。
 輸入穀類や果物の燻蒸(くんじょう)、金属のメッキ、アクリル樹脂や繊維の製造などに使用されています。たいていは、これらの職業に従事する人に中毒がおこります。
 家庭では、火事でアクリル繊維や樹脂、ポリウレタン、ナイロンなどが燃える際に出るシアン化水素(青酸ガス)を吸い込んだときにおこります。
 1984年に「グリコ・森永事件」で犯人がチョコレートに混入させた青酸カリも、このシアンの一種です。
[治療]
 口うつしの人工呼吸を行なってはいけません。
 人工呼吸、100%酸素の吸入と同時に、亜硝酸(あしょうさん)アミル、チオ硫酸(りゅうさん)ナトリウムなどの拮抗薬(きっこうやく)を使用します。心停止(しんていし)がおこっていなければ、たいていはこの治療で救命できます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

栄養・生化学辞典 「シアン中毒」の解説

シアン中毒

 シアン化カリウム,シアン化ナトリウムなど,シアンによる中毒で,急性中毒は,呼吸促進,心悸亢進,痙攣などを起こして死に至る.シアン生成配糖体などを含む食品を摂取したときにも弱い中毒症を起こすことがある.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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