シアン酸(読み)シアンさん(英語表記)cyanic acid

改訂新版 世界大百科事典 「シアン酸」の意味・わかりやすい解説

シアン酸 (シアンさん)
cyanic acid

化学式HOCN。シアヌル酸尿素を加熱した際に縮合して生ずる)を二酸化炭素または窒素気流中でゆっくりと380~400℃に加熱し,発生する気体を急冷して得られる。

シアン酸H-O-C≡Nとイソシアン酸H-N=C=Oの互変異性体があり,ともに雷酸H-O-N≡Cの異性体である。水素結合をつくりやすい水溶液などの中ではシアン酸の,気体中やエーテルなどの非プロトン性溶媒中ではおもにイソシアン酸の構造をとる。無色液体で,酢酸に似たにおいをもつ。融点-86.8℃,沸点23.5℃,比重1.14(20℃)。0℃以下では安定であるが,それ以上では速やかに重合し,大部分はシアメリド,一部はシアヌル酸となる。

急速に加熱すると爆発する。水にはわずかに溶け,低温では数時間安定であるが,加水分解して炭酸水素アンモニウムとなる。酢酸よりやや強い酸で,電離定数Ka=2.2×10⁻4(25℃)。エーテル,アセトンベンゼンなどには可溶で,数週間は安定である。反応性に富み,アルコール,アミド酸アミドなどと反応し,それぞれウレタン,ウレイン,ウレイドを形成する。アンモニアと反応するとシアン酸アンモニウムとなるが,これは尿素に変わる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「シアン酸」の意味・わかりやすい解説

シアン酸
しあんさん
cyanic acid

炭素オキソ酸の一つ。固体のシアヌル酸(NCOH)3を加熱し、蒸気を冷やすと、不安定で重合しやすいシアン酸の液体が得られる。気体では主として異性体のイソシアン酸HNCOとして存在する。かなり強い酸(電離定数1.2×10-4、0℃)であり、水溶液はアンモニア、二酸化炭素を生じて分解する。アセトン、エーテル、ベンゼン、クロロホルムに溶ける。エーテル溶液中ではイソシアン酸として存在する。きわめて不安定で0℃でも重合してシアメリドC3H3N3O3となる。アルカリ金属のシアン酸塩は安定で、シアン化物を酸化鉛(Ⅱ)と加熱酸化して得られる。しかし、水溶液は不安定で、炭酸塩とアンモニアに分解する。シアン酸アンモニウムNH4OCNの水溶液を蒸発すると尿素を生じる。シアン酸イオンOCN-は直線形。シアン酸の異性体に雷酸HONCもある。

[守永健一・中原勝儼]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「シアン酸」の解説

シアン酸
シアンサン
cyanic acid

HOCN(43.02).イソシアン酸の互変異性体で,普通は両者の混合物として存在する.ただし,気体,エーテル溶液などではおもにイソシアン酸HNCO,水溶液中ではおもにシアン酸HOCNの形である.シアヌル酸をCO2または N2 中で蒸留するか,尿素と五酸化二リンを混合して加熱すると得られる.無色の液体.融点-86.8 ℃,沸点23.5 ℃.密度1.14 g cm-3(20 ℃).0 ℃ 以下では安定であるが,それ以上では徐々に,高温ではすみやかにシアメリドとシアヌル酸にかわる.水にわずかに溶け,強酸性を示す.pKa 3.66(20 ℃).水溶液中では冷時でも徐々に分解して,CO2とNH3になる.希薄エーテル溶液中では数週間安定である.アンモニアで中和して加熱すると尿素になる.アルコールでウレタン,酸アミドでウレイドを生じる.各種シアン酸塩の合成原料に用いられる.[CAS 420-05-3]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シアン酸」の意味・わかりやすい解説

シアン酸
シアンさん
cyanic acid

化学式 HOCN 。無色の液体または気体。融点-86℃,沸点 23.5℃。急激に加熱すると爆発し,放置すると重合してシアメリドとシアヌル酸になる。水には微溶で,アンモニアと二酸化炭素に分解する。

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