シクラメン(読み)しくらめん(英語表記)cyclamen

翻訳|cyclamen

精選版 日本国語大辞典 「シクラメン」の意味・読み・例文・類語

シクラメン

〘名〙 (cyclamen) サクラソウ科多年草。地中海沿岸原産で、観賞用に温室などで鉢植にされる。高さ一〇~二〇センチメートル。地中の扁球形の塊茎から長柄をもった葉を叢生する。葉身は卵状心臓形で縁に細かい鋸歯があり、上面は光沢があって白い斑紋を生じ裏面は紅紫色。春、葉間からのびた花茎の先に下向きに一個の大形の花を開く。花はかがり火のような形にそりかえった五枚の花弁をもつ。一重、八重、色は赤・白・桃色など。夏咲種、冬咲種などのほか、多数の園芸品種があり、日本には明治二四、五年(一八九一‐九二)頃移入された。和名かがりびばな。サイクラメン。ぶたのまんじゅう。《季・春》
※道程(1914)〈高村光太郎〉或る夜のこころ「かすかに漂ふシクラメンの香りは」

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デジタル大辞泉 「シクラメン」の意味・読み・例文・類語

シクラメン(cyclamen)

サクラソウ科の多年草。球根から心臓形の葉が群生する。冬から早春に、紫紅色・白色・淡紅色などの花をつける。西南アジアの原産で、観賞用に栽培。篝火花かがりびばな。豚の饅頭まんじゅう 春》「―花のうれひを葉にわかち/万太郎

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「シクラメン」の意味・わかりやすい解説

シクラメン
しくらめん
cyclamen
[学] Cyclamen persicum Mill.

サクラソウ科(APG分類:サクラソウ科)の球根草。葉の上に咲く花がかがり火に似ているところから和名をカガリビバナともいう。ギリシアシリアからヨーロッパ中南部に十数種が自生し、いずれも地下に塊茎がある。このうち、代表種のパーシカム種がヨーロッパに入ってドイツ、オランダなどで品種改良され、多数の系統、品種が生まれている。日本には明治末期に渡来した。ヨーロッパではほぼ周年出回っているが、日本では年末から春にかけての鉢物として生産され、鉢花のなかでは生産量はトップを占めている。花色には赤、桃、藤、白色などがあり、花形も普通の平弁のほか、波状弁の品種や八重咲きなどがある。日本では最初、赤色品種が主体であったが、近年は桃、白など明るい色が好まれ、ごく最近では中間色に近いものが主流になっている。ここ数年、生育旺盛(おうせい)で花がよくそろう一代雑種(F1)品種も育成され、広まっている。また、全体に小柄なミニシクラメンの品種も育成されている。

[鶴島久男 2021年3月22日]

栽培

温室かビニルハウス内で育てるが、播種(はしゅ)から開花まで15か月かかる。10月上旬に播種し、翌春から夏にかけ、小鉢からしだいに大鉢に植え替えて育てる。一般には年末に出荷される。冷涼な気候を好み、10~15℃が適温なので、夏季は日よけをし、なるべく涼しい環境で育てる。このため一部では、夏だけ高冷地に移して栽培する高冷地育苗も行われている。用土は排水のよい材料を用い、乾かさないようきめの細かい管理が必要である。また、球根の萎凋(いちょう)病、葉腐(はぐされ)細菌病、灰色かび病が出やすく、この防除にも十分気をつけなければならない。

[鶴島久男 2021年3月22日]

文化史

古代ギリシアでは薬草として扱われた。ディオスコリデスの『薬物誌』(1世紀)では、ショウガコショウとともに刺激性のある薬草類に分類され、ヘビの咬(か)み傷、脱毛、しもやけ、通経などの薬としてあげられている。シクラメンの花の品種改良は、アメリカで実生(みしょう)繁殖が確立された1870年から進められたが、普及するのは第二次世界大戦後で、日本では昭和40年代以降である。シクラメンはギリシア語のkyklos「回転」から派生した語で、野生種の花茎が花後に螺旋(らせん)状に回ることによる。

[湯浅浩史 2021年3月22日]


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改訂新版 世界大百科事典 「シクラメン」の意味・わかりやすい解説

シクラメン
sowbread
Cyclamen persicum Mill.

塊茎を有するサクラソウ科の球根植物。和名はカガリビバナ(篝火花)。かつては英名を直訳して,ブタノマンジュウともいわれた。シリアからギリシア原産で,18世紀にヨーロッパへ紹介されてから温室草花としての改良が進み,19世紀末ごろより今日見られる大輪系の品種が生まれた。基部に扁球状の塊茎があり,長柄のある心臓形葉を根生する。葉面には銀白色の模様がある。秋より春へかけて,塊茎から群がり立つ高さ15~20cmの花茎上に,5裂し裂片が反転する花を単生する。花色は赤,桃,白,赤紫,藤桃など多彩である。大輪系には平弁のペルシクムPersicum系,ちぢみ弁のフリンジFringe系,八重咲系などがあり,近年,小輪多花性のマルチフローラMultiflora系も多く栽培される。

 シクラメン属Cyclamenは小アジアより地中海沿岸地方,ヨーロッパ中部にかけ約20種ほどが分布し,園芸的にはペルシクム種の改良種のほか,C.neapolitanum Ten.,C.coum Mill.,C.atkinsii Mooreなどが栽培される。多くは温室鉢物として利用され,9月に種子をまき,本葉1枚で移植して育苗し,春に鉢上げし,順次鉢替えをして育成すれば,播種(はしゆ)翌年の11月ころより開花を始める。冬は温暖多雨,夏は高温乾燥した地中海気候域で適応分化した植物なので,晩春,開花後は乾燥休眠させるとよい。リン酸分の多い肥料を施す。耐寒力はかなりあるが,冬期は3℃以上を保つようにする。しかし,あまり暖房の効いている所はよくない。もっぱら冬に楽しむ温室鉢花として観賞され,花期が長いのが特徴である。
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百科事典マイペディア 「シクラメン」の意味・わかりやすい解説

シクラメン

カガリビバナとも。地中海東部沿岸地方原産のサクラソウ科の多年草。扁球形の球根から群生する葉は柄が長くハート形で,表面には銀灰色の斑紋があり裏面は紫色。冬〜春,次々に花柄をのばして咲き続ける花の花筒部は下向きだが,5裂した花冠の裂片は上にそり返る。鉢植草花として普通にみられるのは園芸的な改良品種で,代表的な巨大輪のパーシカム咲,花弁の縁が縮れているパピリオ咲,花弁の縁に細かい切れ込みのあるロココ咲などがあり,花色も白,緋紅(ひこう),鮭(さけ)肉色等で,八重咲もある。さらに近年は,小輪系品種(ミニシクラメン)の人気も高い。栽培は9月に種子をまき温室内で育て,次第に小〜大鉢に植え替えると翌年末には花をつける。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シクラメン」の意味・わかりやすい解説

シクラメン
Cyclamen persicum; sow-bread

サクラソウ科の多年草で,ヨーロッパ中南部から西南アジアにかけて原産する。別名カガリビバナ,ブタノマンジュウ。冬から初春の花として観賞用に温室で栽培されている。地下に発達する球茎の頂部から長い葉柄をもった葉が多数群生する。葉身は楕円形で縁に細かい鋸歯がある。葉の表面は青緑色で葉脈はややへこみ,灰白色の斑 (ふ) があることが多く,葉裏は紫色を帯びる。花は長い花茎の先端に1つずつつき,つぼみのときはねじれて下を向いているが,開花すると花弁がそり返る。原種とされるものでは,花は径2~3cmで小さく色も淡紅色であるが,園芸品種では花の大きなものが普通で,紫紅色,白,淡紅色など多数の品種がある。

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事典 日本の地域ブランド・名産品 「シクラメン」の解説

シクラメン[花卉類]
しくらめん

関東地方、東京都の地域ブランド。
年間約35万鉢が生産されている東京都を代表する鉢花。農業試験場では、従来のシクラメンにない新しいタイプの芳香性シクラメンの交配種を2系統育成。それが甘い香りの「さわや香ミディ」と、さわやかな香りの「おだや香」である。どちらの系統も生育が旺盛で、コンパクトな株となることが試験栽培の結果からわかっている。9月から冬まで咲き続けるため、長期間の観賞が可能。

シクラメン[花卉類]
しくらめん

東海地方、愛知県の地域ブランド。
主に北設楽郡設楽町・田原市・豊川市などで生産されている。シクラメンは、サクラソウ科に属する球根植物。贈答用から家庭利用まで幅広い需要がある。愛知県の産出額は全国トップクラス。次々に花が咲き長期間楽しめるため、冬の室内を飾る花として人気がある。最近は、八重咲き品種も出荷されている。

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