シマウマ(読み)しまうま(英語表記)zebra

翻訳|zebra

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シマウマ」の意味・わかりやすい解説

シマウマ
しまうま / 縞馬
zebra

哺乳(ほにゅう)綱奇蹄(きてい)目ウマ科のシマウマ亜属とグレビーシマウマ亜属に含まれる動物の総称。英名をゼブラという。アフリカ大陸のサバナサバンナ)と山地の草原にすむ。現存するウマ科動物のうちで、もっとも原始的なグループである。歯式は

で、合計40~42本、ウマやロバと同じである。染色体数は、ノウマが66本、ロバが54~62本であるが、シマウマは32~46本である。

[祖谷勝紀]

形態

全身に明瞭(めいりょう)な縞模様がある。これは毛のみでなく、皮膚にも濃淡の縞模様があるもので、種類により縞の太さ、腹部下面や四肢の縞の有無に相違がある。頸(くび)の背面中央にあるたてがみは立っていて、倒れることはない。尾の毛は、先端の部分だけが長い。体のわりに頭部が大きいこと、前肢内側に小判形の無毛部(たこ、または夜目(よめ)という)があるが後肢にはないことなどの特徴は、ロバと共通であるが、家畜のウマとは異なる。体高は1.1~1.6メートル。

[祖谷勝紀]

生態

数十頭から、ときには数千頭の大群で、レイヨウ類(アンテロープ類)など他の草食獣といっしょにすむ。大きな群れは、雄のリーダーに率いられた十数頭の家族集団の複合体と考えられている。主食は草で、レイヨウ類が食べられないほど堅い茎の草も食べる。天敵はライオンヒョウであるが、人間による乱獲のため、各所で数が減少している。サバンナシマウマ以外のシマウマは、すべて絶滅のおそれが大きい。飼育下における繁殖期はとくに決まっていないが、野生のサバンナシマウマは、10月から3月にかけて出産することが多い。発情は、出産の数日後にみられるので、2年連続して出産することも多い。妊娠期間は370~390日で、1産1子。子はすぐに起立し、歩行することができる。子の模様は明瞭であるが、黒色部は赤褐色を帯びる。哺乳は起立したまま行うが、横向きに寝た母親の乳を吸うことが動物園で観察されている。長寿記録としては、サバンナシマウマに31年6か月という例がある。

[祖谷勝紀]

種類

シマウマ亜属Hippotigrisには3種が含まれる。ヤマシマウマEquus zebraは、もっとも南に分布するシマウマで、絶滅の心配される種である。南アフリカ共和国のケープ地方にいるケープヤマシマウマE. z. zebraと、アンゴラからナミビアにかけて分布するハートマンヤマシマウマE. z. hartmannaeの2亜種がある。本種は、頸の下側中央部の皮膚が垂れ下がっていることと、腰の部分の縞模様とによってサバンナシマウマとは明らかに異なる。四肢は先端まで縞がある。体高1.2~1.36メートルで、亜種を比較すると、ケープヤマシマウマのほうが小形で生息数も少ない。

 クアッガE. quaggaは、アフリカ南部に分布していたが、19世紀に絶滅した。体高1.38メートルと大形であった。サバンナシマウマと同一種であるとする学者もいる。

 サバンナシマウマE. burchelliiは、アフリカの東部から、南部の中央部にかけての草原に分布する。野生での数も多く、飼育されているシマウマの大部分は本種である。産地により次の4亜種(6亜種の説もある)に分けられる。

(1)バーチェルシマウマE. b. burchellii ボツワナ南部から南アフリカ共和国中央の北部にかけて分布していたが、20世紀初頭に絶滅した。腹部下面と四肢は白色で縞はなかった。体高1.35メートル。

(2)チャップマンシマウマE. b. antiquorum ジンバブエ、ボツワナ、ナミビアと南アフリカ共和国の北東部に分布する。縞と縞の間に淡色の縞がある。体高1.3~1.45メートル。南方のものをダマラシマウマとして別亜種にすることがある。

(3)セロウスシマウマE. b. selousiE. b. crawshayi) モザンビークザンビアマラウイの南部に分布する。縞の数は多く、四肢の蹄部まである。体高1.25メートル。

(4)グラントシマウマE. b. bohmi タンザニア、ケニア、スーダン、エチオピア、ウガンダに分布する。ザンビアに分布するものを別の亜種にする説もある。腹部にも縞がある。体高1.1~1.2メートル。シマウマで数がもっとも多いのはこの亜種である。

 グレビーシマウマ亜属Dolichohippusには、グレビーシマウマE. grevyi1種が属する。エリトリア、エチオピア、ソマリア、ケニア北部に分布する。体高1.6メートルにもなる最大のシマウマである。生息数は少ない。

[祖谷勝紀]

日本での飼育

シマウマが初めて渡来したのは17世紀であるが、上野動物園で飼育されたのはキリンよりも遅く、1931年(昭和6)のことである。ハートマンヤマシマウマは、1973年(昭和48)に初めて渡来し、1975年には神奈川県川崎市の夢見ヶ崎動物公園で繁殖に成功した。その後、サバンナシマウマ、ヤマシマウマ、グレビーシマウマの3種とも国内で飼育され、繁殖している。

[祖谷勝紀]

『今泉吉典監修『世界の動物 分類と飼育4 奇蹄目・管歯目・ハイラックス目・海牛目』(1984・東京動物園協会)』『黒田弘行写真・文『アフリカの動物たち5 食いわけで生きるシマウマたち』(1988・農山漁村文化協会)』『原田俊治著『馬、この愛すべき動物のすべて――シマウマからサラブレッドまで』(1991・PHP研究所)』


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改訂新版 世界大百科事典 「シマウマ」の意味・わかりやすい解説

シマウマ (縞馬)
zebra

別名ゼブラ。暗色の縞模様をもつ奇蹄目ウマ科のうちの2亜属の哺乳類の総称。ウマの名があるが,むしろロバに近く,体型,鳴声などロバによく似ている。アフリカ東部から南部にかけての草原,山地に分布し,体型や縞模様の違いから4種に分類される。ふつう,1頭の雄をリーダーとし,複数の雌と子を含む十数頭の家族群で生活し,別に雄どうしが集まった独身雄群もある。群れは特定のテリトリーをもたずに他の群れと行動圏を共有し,多くの群れが集まって巨大な群れをつくることもある。しかし,これによって群れのメンバーが入れ替わることはない。草の中でも丈の低い草を常食とし,タンザニアのセレンゲティ国立公園では草を求めて数万頭の季節的な移動が見られる。ただし,グレービーシマウマでは,永続的な群れはつくらず,単独生活をするか,あるいは雄,雌がそれぞれ別に集まって,一時的な群れをつくる。雌は350~390日の妊娠期間の後,雨期の少し前に1子を生む。子は誕生後すぐに歩けるようになる。時速60kmに達する高速で走ることができるが,ライオンやハイエナなどの捕食者にしばしばとらえられる。ライオンなどに追われると,群れのリーダーは,群れの最後尾を走り,群れを守る。敵に襲われると群れのメンバー全員が後向きになって円陣をつくり後足のひづめでけって防衛するというが疑わしい。

 サバンナシマウマEquus burchelliはエチオピア南部から東アフリカにかけてのサバンナに広く分布する。後半身の縞模様の幅が広く,縞模様が腹部にまでのびるのが特徴。シマウマとしては耳が短い。肩高1~1.3m,体重220~300kg。グレービーシマウマE.grevyiはケニア北部,エチオピアに分布し,体は肩高1.4~1.5mともっとも大きい。体重350~450kg。幅の狭い細かな縞模様をもち,腹部は白色。耳は大きく丸く,よく目だつ。おもに草を食べるが,他のシマウマに比べて木の葉を食べる傾向が強い。ヤマシマウマE.zebraはアフリカ南部の山岳地帯にすみ,肩高1.2~1.3m,体重270kg。縞模様はグレービーシマウマに似るが,体の縞が臀部(でんぶ)にまで達するのが特徴。ケープヤマシマウマE.z.zebraとハートマンヤマシマウマE.z.hartmannaeの2亜種に分けられ,前者は絶滅寸前の状態にある。クアッガE.quaggaは体の前半部にのみ縞模様をもった特異なシマウマ。南アフリカに生息したが,開発のため,1860-70年ころ絶滅し,飼われていた最後の個体も83年アムステルダム動物園で死んだ。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シマウマ」の意味・わかりやすい解説

シマウマ
zebra

奇蹄目ウマ科に属するウマのうち,体に縞のあるものの総称。最も一般的にみられるバーチェルシマウマ Equus burchelliを単にシマウマということもある。体高 1.5m内外。頭部は大きく,頸が太くてがんじょうで,たてがみが直立している。蹄 (ひづめ) はウマとロバの中間的な形である。おもにアフリカの草原に群れをなして生活している。日本の動物園にみられるものの多くはグラントシマウマ E. b. bohmiで,縞の間隔が広く,縞数も少い。スーダン,ジンバブエに分布している。グレビーシマウマ E. grevyiはシマウマ類中最大種で,縞は細く美しい。ほかにチャップマンシマウマヤマシマウマなどが知られている。

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百科事典マイペディア 「シマウマ」の意味・わかりやすい解説

シマウマ

ゼブラとも。奇蹄(きてい)目ウマ科の哺乳(ほにゅう)類数種の総称。体長2.15〜2.7m。白ないし淡黄褐色地に幅の広い黒い縞(しま)があるが,縞模様は地方により異なり,数亜種が区別される。サバンナシマウマは大群で草原にすみ,キリンやレイヨウなどと一緒にいることが多い。動物園で最も普通に見るのは亜種のグラントシマウマ,チャップマンシマウマなど。ヤマシマウマは頸(くび)に肉垂をもち,南西アフリカの山岳地帯にすむ。グレービーシマウマは縞が細く耳が大きく,エチオピア,ソマリア,北ケニアの草原に小群ですむ。他に絶滅したクアッガがある。
→関連項目ウマ(馬)

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世界大百科事典(旧版)内のシマウマの言及

【しり(尻∥臀)】より

…犬はその意識や感情を遺伝的に組みこまれた仕方で尾を振って表現するので,〈しっぽが犬を振る〉といわれる。シマウマは尻の縞でグレービーシマウマ,ヤマシマウマ,サバンナシマウマの3種を識別できる。オジロジカは尾が白いのではなく,尾の内側に白く長い毛があって尾を立てたときに目立つことから名を得た。…

※「シマウマ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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