シーシェパード(読み)しーしぇぱーど(英語表記)Sea Shepherd

翻訳|Sea Shepherd

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シーシェパード」の意味・わかりやすい解説

シーシェパード
しーしぇぱーど
Sea Shepherd Conservation Society

クジライルカなどの海洋生物の保護を掲げる国際的非営利組織。正式名称は「シーシェパード環境保護団体」。シーシェパードとは「海の番犬」「海の羊飼い」という意味である。日本政府の調査捕鯨を暴力的違法行為で妨害するなど過激な活動で環境保護をアピールする手法をとっており、日本、アメリカ、カナダ政府が「エコテロリスト」と位置づけたことがある。一方、オーストラリアでは元環境相キャンベルIan Campbell(1959― )ら多くの政治家がシーシェパードの活動を支持している。クジラやイルカだけでなく、サメアザラシウミガメ、マグロ類、海鳥などの保護も訴えており、こうした生物を漁獲したり、網などを使ったりする漁船・漁業施設・漁民などへの攻撃を繰り返している。

 シーシェパードは環境保護団体グリーンピースを脱会したカナダ人環境保護活動家ワトソンPaul F. Watoson(1950― )が1977年に設立した。アメリカのワシントン州に本部があり、オーストラリア沿岸に多くの活動拠点をもつ。欧米の俳優、歌手、実業家、環境保護に熱心な企業などからの寄付を資金源に活動している。活動初期からポルトガルアイスランドノルウェーなどで捕鯨船沈没・破壊させるなど暴力的行為で知られる。日本では2003年(平成15)、和歌山県でハナゴンドウクジラ漁を妨害したことで、広く知られるようになった。2007年から、日本政府が南極海で実施している調査捕鯨の妨害を始めた。2010年に、当時メンバーだった活動家ベスーンPeter J. Bethune(1965― )が調査捕鯨船に侵入し、艦船侵入罪などで日本の海上保安庁に逮捕された。2011年には、日本の調査捕鯨船へ活動船を体当たりさせたり、危険物質の投擲(とうてき)を繰り返したりして、調査捕鯨を中止に追い込んだ。ワトソン代表は2012年10月時点で、2010年に調査捕鯨船への侵入を指示した疑いで、国際刑事警察機構ICPO)から身柄拘束と引き渡しの国際指名手配を受けている。

[編集部]

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知恵蔵 「シーシェパード」の解説

シーシェパード

環境保護を旗印に掲げる反捕鯨団体。シーシェパードは「海の保護者」という意味だが、暴力的な抗議・妨害活動から、「エコテロリスト」と位置づけられることが多い。本部は米国にある。その前身は、1977年に設立されたアース・フォース・ソサエティー。カナダ人活動家ポール・ワトソンが、国際環境保護団体グリーンピースを脱退後、主に海洋の哺乳動物保護を目的に設立した。当初から、過激な破壊活動で国際世論にアピールする手法が際立っており、結成間もない80年にはリスボン(ポルトガル)で捕鯨船を爆破・沈没させている。
翌81年、所有する活動船シーシェパード号の名をとって、米国オレゴン州にチャリティー組織として登録。旧ソ連の捕鯨やアイルランドのアザラシ猟などへの抗議・阻止行動から始まり、その後、86年にはレイキャビク(アイスランド)などで捕鯨船と鯨解体工場を破壊、92年にもロフォーテン諸島(ノルウェー)でも捕鯨船を沈没させるなど、過激な破壊活動を繰り返してきた。こうした派手な示威行動やメディアを巧みに使った情宣活動から、エコ運動に熱心な欧米の大手企業の他、イアン・キャンベル(豪・元環境相)、ショーン・ペン(米・俳優)、ブリジット・バルドー(仏・俳優)、ミック・ジャガー(英・歌手)など、同団体を支持する有名人も多い。こうした支援者からの寄付による年間予算は、約500万ドル(約4億5千万円)と見られている。
日本では、2003年に和歌山県太地町でイルカ漁の網を切断した事件で知られるようになった。07年頃からは、小型高速船が日本の調査捕鯨を頻繁に妨害するようになり、最近はレーザー光線を照射したり、薬品入りの瓶を投げ入れたりするなど、その行動は過激さを増している。10年2月には、小型高速船「アディ・ギル号」のピーター・ベスーン船長が調査捕鯨船に侵入、翌月、艦船侵入罪の容疑で逮捕された。
こうしたシーシェパードの戦闘的な行動に、国際捕鯨委員会(IWC)はもとより、反捕鯨国が多い欧米諸国でも批判の声が高まっている。これまで金銭的に支援してきた著名人・企業でも、距離を置くところが増えているようだ。しかし、活動船の出港基地になっているオーストラリアは、鯨愛護・反捕鯨の感情が強く、シーシェパードを支持する世論が広がっている。豪政府内には、IWCに調査捕鯨の段階的廃止を提案するという動きも出ており、日豪の外交問題に発展しつつある。

(大迫秀樹  フリー編集者 / 2010年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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