ジガバチ(読み)じがばち(英語表記)sand wasp

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジガバチ」の意味・わかりやすい解説

ジガバチ
じがばち / 似我蜂
sand wasp

昆虫綱膜翅(まくし)目アナバチ科の1族あるいは1属の名。ジガバチ族Ammophiliniは6属に分けられ、そのうち2属が日本に分布している。アナバチ科はジガバチ科とよばれることがある。ジガバチ属Ammophilaは世界各地から約200種、日本から3種が記録されている。各地に初夏から晩秋まで普通にみられるのはサトジガバチA. sabulosa nipponica別種あるいは近似の別種のヤマジガバチA. infestaである。亜種の形態的特徴はわずかである。体長25ミリメートル内外。体は黒色腹部は多少藍(あい)色を帯び、腹柄(ふくへい)後方と腹部第1節は赤褐色である。体は棒状で細長く、はねは比較的短い。巣穴は地面とほとんど直角に大あごで直径5~8ミリメートル、深さ1~3センチメートルの縦穴を掘り、その先に直径1~1.5センチメートル、長さ2~3センチメートルほどの楕円(だえん)形の独房をつくる。狩りに出かける際は巣穴をふさぎ、獲物ヤガシャクガ幼虫を狩ってくる。麻痺(まひ)状態の幼虫(アオムシ)を独房に引き入れ、その横腹に1卵を産み付けるが、獲物の量が不足すると次の狩りに出かける。穴に詰めた砂は出入りのたびに開閉されるが、永久戸締まりの際は詰め砂の上を念入りに顔面でたたき、ときには小石をくわえてたたき固める。ジガバチの名は、大あごで巣を掘り起こすとき「ジガ、ジガ、……」と聞こえる翅音(はおと)をたてることに由来する。別種のフジジガバチA. atripes japonicaは、本州以南に分布する南方系の種で、前種より大きく、脚(あし)が黄赤色で、はねも褐色を帯びる美しい種であるが、分布が限られる珍種である。ほかの1属は、ホップランモフィラ属Hoplammophilaであり、山地性のミカドジガバチH. aemulansが知られている。この種はサトジガバチやヤマジガバチに似ているが、体長30ミリメートル内外で中胸側板上に顕著な毛斑(もうはん)がある。一般にジガバチ類は地中に自分の巣を掘るが、本種は立ち木の甲虫脱出坑や竹筒などを利用して営巣する。獲物はシャチホコガ科の幼虫であるが、1独房には1頭貯蔵されるのみである。

[須田博久]

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改訂新版 世界大百科事典 「ジガバチ」の意味・わかりやすい解説

ジガバチ (似我蜂)
thread-waisted wasp
Ammophila sabulosa

膜翅目アナバチ科(=ジガバチ科)に属する昆虫。体は黒色で,腹部は藍色を帯び第2腹節は赤褐色。体長約20mmの細長いハチで腹柄は細い。日本,ウスリー,中国北部,朝鮮半島に分布する。ヨトウムシモンシロチョウシャクトリムシなど鱗翅目の幼虫を狩る。地中に穴を掘り獲物を埋めて幼虫の餌にする。土を掘るとき翅をジイジイと鳴らす。昔の人がジガジガといって青虫を埋めるとハチになって出てくると思いジガバチと名づけたという。平地に分布するものは大型の青虫を1匹しか狩らず,また入口のふさぎ方も山地のものとやや異なるので,平地のものはサトジガバチA.s.nipponica,山地のものはヤマジガバチA.s.infestaとして区別される。日本に分布する近縁種には大型で木の空洞などに営巣するミカドジガバチA.aemulans,雌の肢が赤褐色のフジジガバチA.atripes japonicaなどがいる。Ammophila属は青虫を狩るが,近縁のSceliphron属はクモ類を狩る。腹柄と胸部,肢に黄紋をもち,泥で巣をつくるキゴシジガバチS.madraspatanum,1946年東京付近に侵入し土着したアメリカジガバチS.caementariumなどがこの属のものである。また体が黒く青藍色の光沢があり,竹筒や木の穴に巣をつくる近縁のルリジガバチChalybion japonicumはクモを狩る。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジガバチ」の意味・わかりやすい解説

ジガバチ
Ammophila sabulosa

膜翅目ジガバチ科。体長は雌 23mm,雄 19mm内外。体は黒色で第1~2腹背節は赤色 (雄では1黒縦条がある) ,第3節以下は藍色を帯びる。腹部の基部は細長い腹柄となる。翅は透明でわずかに曇る。ヨトウガシャクガなど各種の鱗翅類の幼虫を狩り,地中につくった幼虫室にたくわえる。日本全土に普通にみられ,ユーラシア大陸に広く分布する。日本に産するものを亜種 A. s. infestaというが,平地に産するものは別亜種サトジガバチ A. s. nipponicaとして区別される。なおジガバチ科 Sphecidaeは小~大型のハチ類で,前胸背板後縁は肩板に届かないのでミツバチ上科 Apoideaに近いが,体毛が羽毛状にならない。ほとんどが狩人蜂で,種が多く,形態の分化も著しい。

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百科事典マイペディア 「ジガバチ」の意味・わかりやすい解説

ジガバチ

膜翅(まくし)目アナバチ科の昆虫,またはアナバチ科の中の一群すなわちジガバチ類の総称。前者は体長20mm内外,黒色,腹柄第2節と腹部第1節は赤色。日本全土に分布。ヤマジガバチとサトジガバチの2種がある。カリウドバチの仲間で,鱗翅(りんし)目の幼虫を捕らえ,乾燥地の地中に掘った穴にたくわえて幼虫の餌とする。ジガバチ類にはジガバチのように鱗翅目の幼虫を捕らえるものとクモ類を捕らえるルリジガバチやモンキジガバチなどとがある。またアナバチ科にはアナバチ類,ハナダカバチ類,ギングチバチ類などが属する。

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世界大百科事典(旧版)内のジガバチの言及

【カリウドバチ(狩人蜂)】より

…有剣類Aculeata(獲物を麻痺させたり敵を防御するための刺針をもつハチ類)の中で,子を育てるために巣をつくり,餌として他の昆虫やクモを狩って与えるハチ類の総称。ベッコウバチジガバチスズメバチの3グループ(上科)を含む。単独生活から社会生活を営むものまでさまざまな段階があるので,ハチの行動や社会進化を研究するうえでもっとも重要なものの一つ。…

※「ジガバチ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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