ジャコウネコ(読み)じゃこうねこ(英語表記)civet

翻訳|civet

改訂新版 世界大百科事典 「ジャコウネコ」の意味・わかりやすい解説

ジャコウネコ (麝香猫)
viverrid

食肉目マングース上科ジャコウネコ科Viverridaeに属する哺乳類の総称。旧世界の熱帯,亜熱帯の特産で,アフリカマダガスカル(ここに分布する唯一の食肉類),ヨーロッパ南部,アジア南部に分布し,35属約72種がある。始新世に現れた古い類で適応放散が著しく,形態・習性とも変化に富み共通の特徴を示すことがむずかしい。体は小型~中型で,体長17~100cm,尾長12~90cm,体重0.45~14kg,体型は一般に小型のネコ類に似るが頭が長く吻(ふん)がとがり,胴が長く四肢が短く,前・後足にはふつう5指(後足はまれに4指)を備え,多くは会陰部に袋状の臭腺(会陰囊)があって強い麝香臭のある液を分泌する。指行性(指先で歩く)か蹠行(しよこう)性(足裏をつけて歩く),ネコ類のようにつめを鞘に引き込め得るものがある。歯はふつう40本,盲腸,陰茎骨がある。子宮は双角ときに重複性。森林または草原にすみ,地上,樹上,まれに地下または水にすむ。昆虫,トカゲ,小鳥,ネズミなどの小動物のほか柔らかい果実を食べるものが多い。

 次の6亜科がある。(1)ジャコウネコ亜科(シベットジェネットリンサンなど)。おもに地上生。前・後足とも5指,つめが鋭く半ば引き込め得る。ふつう会陰囊があり,主として肉食。(2)ハクビシン亜科ハクビシンパームシベットビンツロングなど)。おもに樹上生,前・後足とも5指,つめは引き込め得るものが多い。ふつう会陰囊があり,裂肉歯が鈍く果実を主食とする。(3)フォッサ亜科(マダガスカルのフォッサだけからなる)。形態がネコ類に酷似し近縁とする説もあるが,蹠行性で長い陰茎骨がある。前・後足とも5指,つめは引き込め得る。歯は32本,純肉食性。(4)ガリディア亜科(マダガスカルマングースなど)。マダガスカル特産。外形はマングースに酷似し,前・後足ともつめは引き込められず,第1指は地に着かない。地上生,肉食性。(5)ヘミガルス亜科ヘミガルス,マダガスカルジャコウネコなど)。南アジアとマダガスカルに分布し,樹上生で動物食のヘミガルス,水生で魚介を主食とするキノガーレ,歯が小さくアリなどの小昆虫を主食とするファラノゥク(コバマングース)などきわめて変化に富み,単一系統の分類群かどうか疑われている。(6)マングース亜科マングーススリカタなど)。地上生,指は4~5本,つめは引き込められない。耳介が短く,会陰囊を欠く。歯はふつう40本で鋭く肉食性,敏しょうで気が荒く毒ヘビを捕食するものがある。昼行性。スリカタは地下の穴に群生する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャコウネコ」の意味・わかりやすい解説

ジャコウネコ
じゃこうねこ / 麝香猫
civet

広義には哺乳(ほにゅう)綱食肉目ジャコウネコ科に属する動物の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。この科Viverridaeの仲間は第三紀始新世に現れた古い類で、原始的な形態をもち、現生食肉類の祖先であるミアキス類Miacidaeに類似する。すなわち、吻(ふん)が長く、会陰(えいん)部に肛門腺(こうもんせん)、肛門嚢(のう)、会陰腺などの臭腺(しゅうせん)が発達し、歯数が多い。前後肢は短く、半蹠行(しょこう)性のものが多い。食肉目のなかでもっとも種数が多い科で、形態、生態ともに変化に富む。旧世界の熱帯で進化したものと思われ、ユーラシアおよびアフリカの熱帯、亜熱帯に分布し、マダガスカル島に分布する唯一の食肉類で、新世界には分布せず、化石も発見されていない。ジャコウネコ亜科Viverrinae、ハクビシン亜科Paradoxurinae、ヘミガルス亜科Hemigalinae、ガリディア亜科Galidiinae、マングース亜科Herpestinae、フォッサ亜科Cryptoproctinaeの6亜科35属に分けられ、アフリカジャコウネコインドジャコウネコなど75~80種がある。森林または草原にすみ、地上生、樹上生、まれに地下生または水生である。

 狭義のジャコウネコとよばれる種はコジャコウネコViverricula indicaで、台湾、中国南部、ミャンマービルマ)、ヒマラヤ山麓(さんろく)地帯から、インド、スリランカ、ジャワ島まで分布し、草地や低木林に生息する。頭胴長45~63センチメートル、尾長30~43センチメートル、体重2.7~3.6キログラム。吻は細くて先がとがり、体は細長く、尾は体よりわずかに短く、先が細い。前後肢は短く、指は前後足とも5本で、つめは短くて鋭く、鞘(さや)の中に引っ込めることができる。第1指は高くほとんど地につかず、歩き方は指行性である。会陰部に臭液を出す顕著な腺がある。体は灰黄褐色または灰褐色の地色に黒色の小さい斑点(はんてん)や縦長の斑紋が並び、のどには3本の帯が横切る。尾には互いに離れた黒い輪がある。近縁のオオジャコウネコにみられる背のたてがみ状の長毛を欠く。夜行性で日中は樹洞や岩の下、草や低木の茂みに潜み、木登りがうまいが、食物は多くの場合地上でとる。食物はおもにネズミ、リス、小鳥、トカゲ、昆虫などであるが、果実も食べ、ときに家禽(かきん)を襲う。普通は単独で生活し、まれに1対でいる。年じゅう繁殖可能で1産3~5子。飼育すればよくなれ、会陰部にある臭腺のじゃ香臭がある分泌液から香料がつくられる。本種より大形のオオジャコウネコViverra zibethaは頭胴長83~90センチメートル、尾長33~50センチメートル、背に逆立てることができるたてがみ状の毛をもち、あまり木に登らない。

[吉行瑞子]


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百科事典マイペディア 「ジャコウネコ」の意味・わかりやすい解説

ジャコウネコ

食肉目ジャコウネコ科数属の哺乳(ほにゅう)類6種の総称。ビルマジャコウネコは体長76cm,尾37cm。体は灰色〜黄褐色で,暗褐色の縦条と斑がある。東南アジアに分布。森林にすみ,木にも巧みに登る。夜行性,薄明薄暮性で,カエル,ネズミ,小鳥などを食べる。1腹3〜4子。下腹部にある会陰(えいん)腺などから霊猫香(れいびょうこう)がとれるため飼育も行われている。西マレーシア,マストラ〜フィリピンにいるジャワジャコウネコは体長66cm,尾長32cm。インド北部,ネパール,インドシナ〜中国南部にすむインドジャコウネコは体長81cm,尾長43cm。アフリカには体長84cm,尾長42cmのアフリカジャコウネコがいる。他にコジャコウネコ,ミズジャコウネコがいる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジャコウネコ」の意味・わかりやすい解説

ジャコウネコ
Viverridae; viverrid

食肉目ジャコウネコ科に属するネコの総称。狭義にはジャコウネコ亜科に属するオビリンサンジェネットマレージャコウネコなどをさす。その名のように尾のつけ根や下腹部に臭腺をもつものが多い。現生のジャコウネコ科は 80種あまりから成り,食肉目のなかでは最も多い。ジャコウネコ亜科のほかにハクビシン亜科,ヘミガルス亜科,ガリディア亜科,マングース亜科,フォッサ亜科に分けられ,東南アジアから,アフリカ,ヨーロッパ南部にかけて広く分布する。

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世界大百科事典(旧版)内のジャコウネコの言及

【シベット】より

…地上生で四肢が比較的長く,吻(ふん)がとがった食肉目ジャコウネコ科ジャコウネコ亜科のうちの2属5種の哺乳類の総称。アフリカと南アジアの森林,草原に分布。…

※「ジャコウネコ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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