改訂新版 世界大百科事典 「スイバ」の意味・わかりやすい解説
スイバ
(common)sorrel
garden sorrel
Rumex acetosa L.
茎葉にシュウ酸を含むため,酸味のあるタデ科多年草。和名は〈酸い葉〉を意味し,別名のスカンポもその転化であろう。子どもがときどき若芽を食べる。地下茎は太く短く,多くの根を分岐する。根出葉は軟らかく,長楕円形で長さ5~10cm,葉柄をもち群がって生え,早春には紅紫色を帯びる。茎は円柱形で直立し,上部の葉は茎を抱き,高さ30~80cm,葉鞘(ようしよう)は膜質。雌雄異株で雌株の方が高く,花序の数も多い。花期は4~5月。花は円錐花序につき花被片は6枚,花柱は3本で,はけ状に細裂し淡紅色,おしべは6本,葯は花被の外に下垂し,多量の花粉を飛散する風媒花である。堅果は三稜形で長さ2mm。開花後に内側の3枚の花被片は翼状に生長し,堅果を包む。淡紅色で長さ5mm。北半球温帯に広く分布し,日本では全域の農耕地,日当りのよい人里の草地に多い。アンモニアの過剰の吸収に耐えるので,酸性土壌にも生える。若芽は食用になる。欧米ではとくに好まれ,栽培されて緑色野菜としてサラダやソースの材料に用いられる。英名のソレルsorrelはフランス語surrelle(〈酸っぱい〉を意味するsurから)に由来する。しかし多量に食べると下痢や嘔吐などの中毒をおこす。ヨーロッパでは浸出液をミョウバン媒染して毛織物の黄色染料とし,乾燥させた地下茎からは,淡紅色の染料をとった。漢方では,ギシギシと同様に薬用にする。
スイバの所属するギシギシ属Rumex(英名sorrel,dock)は,北半球の温帯域に約200種が分布し,日本にも14種が分布する。ヒメスイバR.acetosella L.(英名sheep sorrel)はスイバと同様,茎葉に酸味がある。雌雄異株で,茎は高さ20~50cm,雌株の方が大きい。ひも状の地下茎を長く伸ばし子株を作る。ヨーロッパ原産の帰化植物で,都市の路傍,草地に群生する。
ギシギシR.crispus L.ssp.japonicus(Houtt.)Kitam.は茎葉に酸味がなく,大型になり,茎は高さ60~100cm。葉は長楕円形で長さ10~25cmになる。花期は5~7月。花は両性花で円錐花序につく。開花後に生長した3枚の花被片は,鈍三角形で長さ6mm。縁に細かい歯牙があり,基部はこぶ状に隆起する。日本全土,中国,朝鮮に分布し,水田のあぜや溝や路傍に生ずる。地下茎と根は,クリソファノールchrysophanol,エモディンemodinを含み,大黄の代用として緩下剤に用いた。また新鮮なものはクリソファノールやアンソロンanthroneを含み,粉にひいて疥癬などの皮膚病につける。また染色にも用い,鉄媒染でねずみ色などを染める。
ギシギシに似たアレチギシギシR.conglomeratus Murr.やエゾノギシギシR.obtusifolius L.(英名broad-leaved dock)は,ヨーロッパ原産の帰化植物で,路傍や荒地に見られる。
執筆者:土屋 和三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報