セセリチョウ(読み)せせりちょう

改訂新版 世界大百科事典 「セセリチョウ」の意味・わかりやすい解説

セセリチョウ (挵蝶)

鱗翅目セセリチョウ科Hesperiidaeに属する昆虫の総称。世界に3000余種が知られ,とりわけ南アメリカ大陸に種類数が多く,1800余種が知られている。日本にはチャマダラセセリダイミョウセセリアオバセセリホソバセセリアカセセリイチモンジセセリなど34種が分布している。セセリチョウという名称は,そのせわしげな落着きのない飛び方に由来する。成虫は開張1.7~8cm,一般に胴が太くて長く,翅の面積が狭いこと,左右の複眼は互いに接近せずに離れていること,翅脈のすべてがそろっていて互いに合一したりすることがないなどの特徴をもつが,なかにはオーストラリア北東部にすむトゲバセセリEuschemon rafflesiaの雄のように,後翅にガの特徴とされる羽棘(うきよく)をもつものもある。これは前翅と後翅の運動を連絡するための構造である。

 成虫の飛び方は一般に直線的で速く,チャマダラセセリの多くの種のように翅を水平にして止まったり,アカセセリの多くの種のように後翅を水平に開き,前翅を半ば開いた状態で止まるものがあり,とくに後者の止り方は他の科のチョウにはまず見ることができないものである。好んで花に集まるが,雄は動物の排出物や死骸に集まることが多い。また自分の排出物によって鳥の糞を溶かして再び吸い戻すという特殊な習性も見られる。

 卵は底が平らなまんじゅう型かプリン型で,表面は平滑か,ときに細かい縦筋や網目模様などがある。幼虫淡色白色に近いものもある。頭部前面が斜め上方を向き,あごを出したような形となっている。多くの種では食草の葉を筒状,または袋状に折り曲げて巣をつくり,その中に潜んで生活するが,北アメリカのイトランセセリ亜科の仲間のように,幼虫が食草の茎の中に潜り込んでその内部を食べるものもある。幼虫は巣の中でさなぎ(帯蛹たいよう))となるが,通常,幼虫が分泌した蠟物質で覆われている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「セセリチョウ」の意味・わかりやすい解説

セセリチョウ
せせりちょう / 挵蝶

昆虫綱鱗翅(りんし)目セセリチョウ科Hesperiidaeの総称。セセリチョウという種は存在しない。セセリチョウ科の種は一般のチョウ(アゲハチョウ上科Papilionoidea――日本産のものではセセリチョウ科以外のすべての科を含む)に比べて形態そのほかの性質に著しい相違があり、セセリチョウ上科Hesperioideaとして分類される。

 セセリチョウ科に属する種類は小形で、日本産ではもっとも大形のアオバセセリでもはねの開張は45~55ミリメートル程度である。近年、東南アジアより沖縄本島に侵入したバナナセセリは世界最大のセセリチョウの1種で、雌のはねの開張は68~72ミリメートルにも達する。ギンイチモンジセセリのような例外もあるが、一般にはねの大きさに対して胴体は太く、飛び方はきわめて速い。一般に多化性であるが、寒冷地では年1化の種も多く、暖地では多化性の種も寒冷地では年1化の経過をとる場合もある。幼虫は細長く、食草の葉を巻いて巣をつくり、その中に隠れている。

[白水 隆]

分類

日本産セセリチョウ科は次の三つの亜科に分けられる。

(1)ビロードセセリ亜科Coeliadinae 日本産は4属5種。このなかの1種(テツイロビロードセセリ)は、近年に八重山(やえやま)列島の西表(いりおもて)島に侵入、定着したものである。セセリチョウ科のなかでは大形種で、静止の場合には、はねを立てる。幼虫は美しい色彩・斑紋(はんもん)をもち、日本産に関する限りその食草は双子葉植物。

(2)チャマダラセセリ亜科Pyrginae 日本産は4属5種。成虫(チョウ)は静止の場合には、はねを水平に広げる。幼虫の食草は双子葉植物(3種)あるいは単子葉植物(2種)。

(3)アカセセリ亜科Hesperiinae 日本産は18属25種。このなかの2種(バナナセセリ、クロボシセセリ)は近年琉球(りゅうきゅう)に侵入し定着したものである。成虫は静止の場合、はねを立てるかあるいは半開にする。幼虫の食草は単子葉植物。双子葉植物を食べるものはない。

[白水 隆]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「セセリチョウ」の意味・わかりやすい解説

セセリチョウ
Hesperiidae; skipper

鱗翅目セセリチョウ科の昆虫の総称。一般に小型のチョウで体は太く,頭部は大きく,触角は左右離れて生じ,先端は細くとがり下方に湾曲する。翅は体のわりに小さく,前翅は三角形状。他のチョウ類の属するアゲハチョウ上科とは別に本科のみでセセリチョウ上科を形成し,いわゆるガ類に近い特徴をそなえている。世界に 3000種が知られている。アオバセセリ Choaspes benjaminiiは前翅長 25mm内外の大型のセセリチョウで,全体が暗緑色の鱗粉におおわれ,後翅の後角付近は橙色である。成虫は5~6月および7~8月に出現する。本州以南,台湾,中国,ミャンマー,インドなどに広く分布する。幼虫はアワブキを食べる。チャバネセセリ Pelopidas mathiasは前翅長 18mm内外,暗褐色で,翅表基半部は黄緑色を帯びる。前翅には小白色斑があるが後翅は無紋。幼虫はイネ,ススキなどのイネ科植物を食べる。本州以南,朝鮮,中国,台湾,東南アジアに広く分布するが,北限に近い地域では越冬できず,南方から毎年飛来する。

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百科事典マイペディア 「セセリチョウ」の意味・わかりやすい解説

セセリチョウ

鱗翅(りんし)目セセリチョウ科の総称。静止時には翅を半開または全開する。触角の先は鉤(かぎ)状。あまり大型の種類はなく,色も暗色の地味なものが多い。全世界に約3000種,日本には40種近くがいる。

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世界大百科事典(旧版)内のセセリチョウの言及

【チョウ(蝶)】より

…4亜目は21上科に分けられ,このうちの2上科がチョウに当たる。アゲハチョウ上科Papilionoideaは11科に分けられ,セセリチョウ上科Hesperioideaにはセセリチョウ科Hesperiidaeが属している。アゲハチョウ上科に属する11の科の特徴は次のとおりである。…

※「セセリチョウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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