ソルベンシー・マージン比率(読み)そるべんしーまーじんひりつ(英語表記)solvency margin ratio

知恵蔵 の解説

ソルベンシー・マージン比率

保険会社は将来の保険金などの支払いに備えて、責任準備金を積み立てているが、その積立金を上回るほどのリスク、たとえば大震災など通常の予測を超えて発生するリスクに対応できる支払い能力があるかどうかを判断する基準が、ソルベンシー・マージン(solvency margin)比率である。保険会社の健全性を示す指標であり、数値が高いほど安全性が高いといわれている。
この比率の定義は保険業法施行規則第86条・第87条に定められており、比率の区分に応じて早期是正措置(99年3月期より実施)を取ることが定められている。金融庁は、保険会社の破綻(はたん)を未然に防ぐことを目的として、ソルベンシー・マージン比率が200%未満の会社を早期是正措置の対象とし、(1)100%以上200%未満、(2)0%以上100%未満、(3)0%未満という区分に応じた命令が発せられる。(3)の場合は、期限を付した業務の全部または一部の停止を命ずる。
計算式は
ソルベンシー・マージン比率(%)={ソルベンシー・マージン総額÷(リスク×1/2})}×100 となる。
ソルベンシー・マージン総額の内訳
純資産(社外流出予定額等を除く)
●諸準備金(価格変動準備金・異常危険準備金等)の責任準備金
●土地の含み益の一部や有価証券の損益
などの総額
リスクの内訳
●一般保険リスク(死亡・入院などの支払いが予想を超えて発生するリスク)
●予定利率リスク(保険料算出時に予定した予定利回りよりも実際の運用利回りが下回るリスク)
●資産運用リスク(保有する有価証券等の資産の価値が予測を超えて変動するリスク)
経営管理リスク(業務の運営上、予測を超えて発生するリスク)
●巨大災害リスク(大災害により、死亡・入院などの支払いが多く発生するリスク)
の総額
ソルべンシー・マージン比率が200%未満になると、金融庁から行政指導が入るので、200%がひとつの目安だといわれていた。だが、過去には400%を超えていた東京生命の破綻という例もあり、最近では600%以上あることが、求められるようになっている。
以下は、過去に破綻した生命保険会社のソルベンシー・マージン比率である、(ソルベンシー・マージン比率は破綻前期末のもの)。
協栄生命(2000年10月破綻)ソルベンシー・マージン比率211%
千代田生命(00年10月破綻)ソルベンシー・マージン比率263%
東京生命(01年3月)ソルベンシー・マージン比率447%
当該3社はいずれも更生特例法適用を受けた。更生特例法とは、金融機関の破綻に対して定められた法律である。一般の企業が破綻した場合には、会社更生法が適用されるが、金融機関の場合は預金者や保険契約者が債権者であり、その数が膨大であることから、会社更生法の適用が困難になる。そのため、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律として96年に定められた。
また、2008年10月に破綻した大和生命は同年3月時点では555.4%だったが、破綻直前は26.9%に下落していた。

(金廻寿美子 ライター / 2008年)

ソルベンシー・マージン比率

保険会社の経営の健全度を示す指標の1つで、保険会社の保険金の支払いリスクに対し、支払い能力がどの程度あるかを示す。一般に値が高い方が支払い能力が高く、会社の安全性が高いとされている。このほか、保険会社の経営状況の指標に基礎利益(経常利益臨時損益)がある。基礎利益は利差益(運用利率と契約者への保証利率の差)、費差益(営業等にかかる費用の節減による利益)、死差益(保険金支払い予測と支払い実績の差)の合計。

(重川純子 埼玉大学助教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ソルベンシー・マージン比率
そるべんしーまーじんひりつ
solvency margin ratio

大災害、伝染病の流行、株価暴落など通常では予測しにくいリスクに対し、保険会社がどれほど保険金を支払う能力があるかを示す指標。保険会社の経営健全性を示す代表的指標として欧米で導入され、日本では改正保険業法に基づき、1998年(平成10)3月期から公表が始まった。日本では「支払い余力比率」と訳される。分子に純資産などの内部留保や有価証券の含み益などの自己資本額(支払い余力)を置き、分母に大災害や資産運用損失など予想を超えたリスク総額の半分を置いて比率を計算し、パーセント(%)で示す。一般の事業会社の自己資本比率に相当し、数値が大きいほど健全とされる。200%の場合、支払い余力とリスク総額が同じことになる。金融庁は200%を下回った保険会社に早期是正措置命令を発動し、マイナスになると業務停止を命令する。ソルベンシー・マージン比率が200%を超えていれば経営は健全とみられがちであるが、過去に破綻(はたん)した千代田生命(2000年)、協栄生命(同)、東京生命(2001年)、大和生命(2008年)などでは破綻前に200%を超えていた。このため規制当局は繰り返し、ソルベンシー・マージン比率の算出基準を厳格化している。

 2008年(平成20)秋以降の世界的な金融危機に伴い、日本政府は2012年3月期から、海外の保険子会社を含む連結ベースで比率を計算するように改めたほか、価格変動リスクの大きい株式のリスク量を2倍に引き上げた。2016年よりヨーロッパで適用され、日本でも導入が予想される新規制「ソルベンシー2」では、株式リスク量をさらに厳しく見積もるほか、200年に一度の甚大なリスクへの備えを保険会社に求める見通しである。

 なお保険会社の経営健全性を測る指標にはソルベンシー・マージン比率のほか、本業のもうけを示す「基礎利益」や生命保険会社の収入を示す「年換算保険料」などがある。

[矢野 武 2017年10月19日]

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