ゾウムシ(読み)ぞうむし(英語表記)weevils

改訂新版 世界大百科事典 「ゾウムシ」の意味・わかりやすい解説

ゾウムシ (象虫)

甲虫目ゾウムシ科Curculionidaeの昆虫の総称。しかし,ゾウムシ科のほかヒゲナガゾウムシ科,オトシブミ科,ミツギリゾウムシ科などは,いずれも頭部が眼の前方で細長く前方へ突出して口吻(こうふん)をなしているため,これらを含めて俗にゾウムシと呼ぶことがある。ゾウムシの名は口吻をゾウの鼻に見たててつけられたもので,ゾウムシ科の英名もsnout beetleとつけられている(そのほかweevilとも呼ばれる)。ゾウムシ類は世界から約6万種が知られ,動物界ではもっとも大きなグループの一つである。各種植物,とりわけ種子植物の葉,茎,根,花,子房,果実など,すべての部分がゾウムシ類の食物となっていることからも,ゾウムシ類の種の分化と種子植物の繁栄の結びつきの深さがしのばれる。ゾウムシ科はゾウムシ類の代表となる科で,その種数も多い。日本だけでも未記録種を含めると約1000種はいると考えられている。大きさも1.5mmのリンゴノミゾウムシから24mmのオオゾウムシ(オサゾウムシ科に含めることがある)まで見られる。熱帯産の種には美しい色彩や金属光沢をもつものもあるが,日本には土色の目だたない種が多い。皮膚は一般に堅いが,とくにカタゾウムシ類は堅固である。

 ゾウムシ科は口吻の形によって長吻類と短吻類に大別される。長吻類は幼虫の食物となる植物に口吻を用いて穴を開け,産卵管を挿入して卵を産みつける。もっとも長い口吻をもつものとしてシギゾウムシ類が知られる。栗,ツバキなどのような厚い種皮に穴を開けて産卵することができる。オジロアシナガゾウムシはクズの茎に口吻でらせん状の傷をつけながら産卵,産卵部は後に大きな虫こぶとなり,幼虫はその中で育つ。また,シロオビアカアシナガゾウムシアジサイウツギの茎に口吻で数本の傷をつけ,その中に産卵孔を掘って卵を産みつける。このようにアシナガゾウムシ類には茎に傷をつけて産卵するものが多い。ハンノキノミゾウムシニレノミゾウムシなどのノミゾウムシ類は葉の表面やくぼみに産卵し,泥状の粘液で卵を覆うものが多い。孵化(ふか)した幼虫は葉の中へ潜り込み,葉肉を食べて成育する(潜葉性)。一方,短吻類のリンゴコフキゾウムシカシワクチブトゾウムシシロコブゾウムシサビヒョウタンゾウムシなどは土に産卵する。孵化した幼虫は土中で根を食べる。これらの成虫の産卵数は一般に多い。ゾウムシ科の幼虫はいずれも胸脚を欠き,体の伸縮で移動するが,桐の葉を食害するクロタマゾウムシ,ウシハコベを好んで食べるハコベタコゾウムシなど葉上生活の種は粘液で体を植物にくっつけて移動する。タマゾウムシ類は体を覆う粘液がかたまって繭となって蛹化(ようか)するが,多くの種は食物の中や土中で蛹化する。

 ゾウムシ科はその食性から害虫が少なくない。衰弱した松類の樹皮下穿孔(せんこう)するマツキボシゾウムシマツノシラホシゾウムシイチゴ,バラなどの新芽を枯死させるイチゴハナゾウムシ,稲の葉や根を食害するイネゾウムシイネミズゾウムシ穀類を食べ荒らすコクゾウムシ(オサゾウムシ科としても扱われる),栗の実に潜り込むクリシギゾウムシ,野菜類を食害するヤサイゾウムシなどは著名である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゾウムシ」の意味・わかりやすい解説

ゾウムシ
ぞうむし / 象虫
象鼻虫
weevils

昆虫綱甲虫目ゾウムシ科Curculionidaeの昆虫の総称。全動物のうち種類がもっとも多い科で、世界中で約6万種、日本から600種が知られているが、実際はその2倍の種がいるものと推定されている。成虫は頭部が目の前方で細長くなって象の鼻に似た吻(ふん)となり、触角は「く」の字形で吻につく。幼虫は無脚で白いウジ虫状。この科は次の2群に大別される。

(1)短吻類 成虫の吻は短く、下唇(かしん)は口の下側を完全に覆い、幼虫は土中で生きた植物の根を食べる。雌は卵を後ろ脚(あし)で二つ折りにした葉の間や土の中に産むので、脚は産卵に適応した形をしている。老熟した幼虫は土中に蛹室(ようしつ)をつくる。羽化直後の成虫は大あごに長い牙(きば)状の付属突起があって、蛹室から地上へ出る土掘りに役だつ。地上へ出た成虫は、植物を強くかんでこの牙状突起を落としてしまう。短吻類には後ろばねの退化した種が多く、地域的に多数の種に分化したものがある。

(2)長吻類 成虫の吻は長く、下唇は口の下側を完全に覆うことはない。長い吻は産卵孔(こう)を掘る道具で、これを回転させる頭部や強く押し付ける脚の構造は産卵行動に適応し、またこの孔(あな)に差し込む膜状の産卵管の長さは吻の長さに関連する。この群の幼虫は植物組織の中を食害し、新成虫の大あごには付属突起はない。長吻類の幼虫には次の生活様式がある。種子の中にすむもの(シギゾウムシ)、つぼみや花の中を加害するもの(ハナゾウムシ、ゴボウゾウムシ、トゲムネサルゾウムシ)、生きた植物の茎に潜るもの(カツオゾウムシ、ヒメゾウムシ、サルゾウムシ)、枯れ木の材や皮下にすむもの(クチカクシゾウムシ、アナアキゾウムシ、キボシゾウムシ、キクイゾウムシ)、葉に潜るもの(ノミゾウムシ、ノコギリゾウムシ)、葉の表面をガの幼虫のように食べるもの(タコゾウムシ、タマゾウムシ)、ハバチやタマバチの虫こぶに寄生するもの(シギゾウムシの一部)など多様である。

 ゾウムシ類には多数の害虫が知られ、イネミズゾウムシ、ヤサイゾウムシ、イモゾウムシ、キンケクチブトゾウムシは日本に移入した大害虫。サビヒョウタンゾウムシやクワヒョウタンゾウムシは畑作物や温室作物を加害し、コフキゾウムシ類やツメクサタコゾウムシはマメ科の牧草の害虫。キボシゾウムシやシラホシゾウムシの仲間は針葉樹の害虫である。イチゴハナゾウムシはバラやイチゴのつぼみを、ナシハナゾウムシはナシやリンゴの花を落としてしまう。土の中には目の退化したオチバゾウムシの仲間がいる。

[森本 桂]


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百科事典マイペディア 「ゾウムシ」の意味・わかりやすい解説

ゾウムシ

ゾウムシ科およびその近縁の科に属する甲虫の総称。甲虫目中最大の科で,全世界に数万種,日本にも1000種ほどある。体長は2〜40mm余,色彩も変化がある。口吻(こうふん)が突出し,象虫の名はこれに由来する。幼虫,成虫ともに各種の植物を食べるので,農林・園芸上の害が少なくない。葉,茎,果実,幹など加害部分は種類によって異なる。おもなものとしてオオゾウムシクリシギゾウムシコクゾウムシチョッキリゾウムシなどがある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゾウムシ」の意味・わかりやすい解説

ゾウムシ
Curculionidae; curculio

鞘翅目ゾウムシ科の昆虫の総称。堅固な体の甲虫で,頭部前部が複眼より細長く伸びて吻を形成し,その先端に口器がある。触角は吻の側面につき,第1節が非常に長いため「く」の字状をなし,先端は球稈をなす。肢の 跗節の第3節は幅広く,第4節は小さくて第3節の中に落込んでいる。吻で植物の組織中に孔をあけ,その中へ細長い産卵管を差込んで産卵する。幼虫は白色,無脚で蛆状。全動物中最大の科で,すでに世界で6万種以上が知られており,日本からは 600種以上が報告されている。害虫として有名なものも少くない。すべて植食性で,水中以外のほとんどあらゆる環境に適応した種がある。

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