タマシダ(英語表記)Nephrolepis auriculata(L.) Trimen

改訂新版 世界大百科事典 「タマシダ」の意味・わかりやすい解説

タマシダ
Nephrolepis auriculata(L.) Trimen

園芸に用いられる代表的なシダ日当りのよい海岸地帯や山地の林縁に群生するツルシダ科の多年草。常緑性。根茎は短く直立し,針金状の匍匐(ほふく)枝を出し,それに球状の塊茎をつける。ここからタマシダの名がつけられた。また匍匐枝から芽を出して栄養繁殖するので,群生する。葉は若い時は薄い灰褐色の鱗片でおおわれるが,のちに落ち,叢生(そうせい)し,葉柄の基部は枯れ残る。長さ50cmほどに達し,草緑色。葉柄は葉身よりもはるかに短い。葉身は長楕円形で基部も細くなり,単羽状複葉羽片中軸に関節し,のちに落ち,長楕円形で,基部の上側は耳状につき出,辺縁は鈍鋸歯があり,先端は鈍頭。葉脈は遊離する。胞子囊群葉縁に近く,葉脈の先につく。包膜は腎臓形。静岡県以西の太平洋側,四国,九州,琉球小笠原に産し,旧熱帯に広く分布する。葉が切葉として生花に用いられるほか,園芸品種セッカタマシダは葉が小型で,硬質,長さ1~1.5cmの羽片をもち線状,先端が二叉(にさ)になる。

 熱帯に分布しタマシダよりも大型のN.exaltata Schottにはさまざまな形の品種があって,観葉植物として愛好されている。ボストンタマシダは葉が開出または下垂し,より硬質である。このシダはアメリカでできた変異種であるが,これからいろいろな品種がつくられた。スコットシダは葉が小型で長さ25~35cm,2回羽状複葉,羽片は密生し硬質。フサフサシダは葉が3回羽状に細かく切れ込み,裂片が重なり合っている。このほかにも同じように葉が深く切れ込みとさか状になった品種や,葉縁が波状になった品種もある(ピアソンタマシダツデーシダなど)。これらはいずれも母種より小型で,鉢植えに好適である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「タマシダ」の意味・わかりやすい解説

タマシダ
たましだ / 玉羊歯
ladder fern
tuber sword fern
[学] Nephrolepis cordifolia Presl.

シノブ科の常緑性シダ。直立する短い根茎から1回羽状の細長い葉を束生し、羽片は先が丸く、櫛(くし)の歯状に並んでいる。よく育った葉身は1メートル以上になる。地上生または着生で、無性芽をつける匍匐(ほふく)枝を伸ばす。この枝は針金状で堅く、ところどころに鱗片(りんぺん)に覆われた球形の塊茎をつける。「玉羊歯」の名はこれに由来する。この塊茎は一種の貯水器官である。岩壁や明るい林床など、やや乾燥した環境を好み、大群落を形成することもある。アフリカなどの熱帯を中心とした広い範囲に分布し、日本では静岡県以南の海岸沿いの暖地に生育している。寒さに弱い点を除けば、栽植しやすく繁殖力も強い。切り葉としてネフロレピスの名で生花市場に出荷されている。セッカタマシダN. cordifolia cv. “Duffii”はタマシダの品種の一つである。近縁種にヤンバルタマシダN. exaltataがあり、小笠原(おがさわら)諸島や沖縄諸島などに分布している。中国ではヤンバルタマシダを感冒や乳房痛、産後の浮腫(ふしゅ)などに薬用し、フィリピンでは煎汁(せんじゅう)を咳(せき)止めとして使う。なお、園芸店でよくみかけるボストンファーン(ボストンタマシダ)やフサフサシダ、ピアソンタマシダなどは、ヤンバルタマシダからつくられた園芸品種である。

[栗田子郎]


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百科事典マイペディア 「タマシダ」の意味・わかりやすい解説

タマシダ

ツルシダ科の常緑シダ。本州南端〜沖縄に分布し,海岸の崖など,やや乾いた日当りのよい所に群生する。細い茎から狭い羽状の複葉が集まって出,長さ30〜100cm。地下に直径1〜2cmの球形物ができる(タマシダの名はこれによる)。切花の添え葉,鉢植にする。なお,葉の美しい近縁種からいくつかの園芸品種が作出され,ボストンタマシダ,ネフロレピスなどの名で観賞用に栽培される。

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