ダートマス大学事件(読み)ダートマスだいがくじけん(英語表記)Dartmouth College Case

改訂新版 世界大百科事典 「ダートマス大学事件」の意味・わかりやすい解説

ダートマス大学事件 (ダートマスだいがくじけん)
Dartmouth College Case

アメリカ合衆国において,合衆国最高裁判所が既得権vested rightsの保護を重視していたことを示す例として,よく引かれる1819年の判決。ダートマス大学は,1769年にイギリス国王から特許状を受けて設立されたものであるが,1816年にニューハンプシャー州議会は,法律でこの特許状の定めを変更した。首席裁判官J.マーシャルのもとでの最高裁判所は,大学を設立した特許状は,大学設立時の寄付者,大学の理事および国王を当事者とする契約の性質をもつものであり,州の法律でその内容を変更することは,合衆国憲法の禁ずる〈契約上の債権債務関係を害する法律〉に該当し,無効であるとした。本件は,このいわゆる〈契約条項contract clause〉を基礎に,法人形態による企業がいったん設立された後は,州議会の干渉を受けないとする原理を述べた代表的判例である。もっとも,次の首席裁判官R.B.トーニー(在職1836-64)の時期の最高裁判所は,この原理の適用を制限していくことになる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ダートマス大学事件」の意味・わかりやすい解説

ダートマス大学事件
ダートマスだいがくじけん
Dartmouth College Case; Dartmouth College v. Woodward, 1819

1819年2月2日,アメリカ連邦最高裁判所でダートマス大学とニューハンプシャー州議会との間の訴訟事件に下された判決。事件の発端は 16年にニューハンプシャー州議会が,ダートマス大学の創立時に下付された 1769年のイギリス国王特許状に変更を加え,同大学の運営権を州から任命された理事会にゆだねたことにある。旧理事会はこの州議会の行為を憲法違反であるとして新事務局長 W.ウッドワードを訴えた。州裁判所は州議会の行為を支持し合憲であるとしたが,大学側は上告し,連邦最高裁判所長官 J.マーシャルは,特許状を私的な法人との契約とみなし州議会の行為はこの契約をそこなうもので違憲であり無効であると宣告した。この判決は私的企業の成長を促進したが,逆にその特権濫用をも誘発し,1837年のチャールズ橋事件の判決でマーシャルの意見に大幅な変更が加えられた。

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