チノー(基諾)族(読み)チノーぞく

改訂新版 世界大百科事典 「チノー(基諾)族」の意味・わかりやすい解説

チノー(基諾)族 (チノーぞく)
Jī nuò zú

1979年に公認された中国少数民族の一つ。漢籍上には攸楽(ゆうらく)と記されたが,チノー自称である。人口約1万8000(1990)。雲南省シーサンパンナ(西双版納)タイ族自治州景洪県の基諾洛克(基諾山)に聚居する。陸稲水稲トウモロコシを主要作物とする農耕に従事している。基諾山は普洱茶の六大茶山の一つでもある。昔,諸葛亮(孔明)は,雲南に南征した際につき従った戦士に茶の種を与えた。そしてその地にとどまって茶を植えた戦士たちが,今日のチノー族の祖先であるという。言語習俗,宗教,とりわけ葬送儀礼からみれば,チノー族はイ(彝)族,ハニ(哈尼)族などイ語系集団と同様に北方から南下し,現在の基諾山に定住したと考えられる。

 彼らの神話伝承によると,その始祖は1人の寡婦で,7男7女を生み,その兄妹同士が結婚して子孫をふやし,2対の村寨を形成した。この2対の村寨から現在の基諾山にある19の村寨が形成されてきた。古い村寨はすでに300年の歴史をもつという。このような山地に居住するチノー族を支配下に治め優位な地位を占めていたのが平地のタイ(溙)族土司である。そのためチノー族の中にタイ族統治者との闘争に関する伝承も多く語り伝えられている。

 社会は父子連名制の系譜を紐帯とする父系社会であるが,女性の社会的地位も低くない。かつて村寨は数戸の大房子によって構成され,少なくて5戸,多くて30戸の世帯が一つの屋根の下で共同生活を営んでいた。村内には〈卓巴(寨父)〉と〈卓生(寨母)〉と呼ばれる長老と巫師が指導的存在で,巫師は農耕の豊作祈願祖先祭祀をつかさどる。生産には万有精霊と鬼神の意思が尊重され,儀礼には殺牲祭鬼が伴う。冠婚葬祭や病気など日常生活でも,巫師は読経して邪悪な精霊を払い,卦をみて日を選び招魂・送魂を行う。祝祭日には祖先に豊作を願う予祝祭の〈祭大竜〉や〈火把節(たいまつまつり)〉〈新米節〉,新年などがある。なかでも〈新米節〉は,農閑期の青年男女にとって互いに歌をかけあって相手をさがし合うもっとも楽しい行事である。
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百科事典マイペディア 「チノー(基諾)族」の意味・わかりやすい解説

チノー(基諾)族【チノーぞく】

中国,雲南省シーサンパンナ(西双版納)タイ族自治州の景洪市の基諾山(通称)に集居する民族。ジノー族とも。中国の現55少数民族のうち最後に1979年公認。チノーとは自称で〈母方おじの末裔〉の意。言語はイ語派。一種ロングハウスが残る。周囲の影響を受けたが,チノーとしての民族意識も強い。焼畑耕作のほか,茶の栽培を行う。約1万8000人(1990)。

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