ティラピア(読み)てぃらぴあ(英語表記)tilapia

デジタル大辞泉 「ティラピア」の意味・読み・例文・類語

ティラピア(〈ラテン〉Tilapia)

《「テラピア」とも》カワスズメ科ティラピア属の淡水魚総称体長約30センチ。親魚は卵および幼魚を口中で保護する。インドアフリカ原産で、カワスズメチカダイナイルカワスズメ)は日本に帰化している。養殖もされる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ティラピア」の意味・わかりやすい解説

ティラピア
てぃらぴあ
tilapia

硬骨魚綱スズキ目カワスズメ科Cichlidaeのうちアフリカ産の系統の総称。淡水魚。約800種が知られているが、そのうち4分の3は東アフリカの大地溝帯(リフトバレー)にある大湖群(タンガニーカ湖マラウイ湖など)とその周辺域に集中して生息している。

 日本には第二次世界大戦後の昭和20年代後半から、観賞用や養殖用に輸入されたが、そのときの分類学上の属名がティラピア属とされていたため、この類はティラピアと総称された。この科の魚は、鼻孔が各側に1個で、左右の下咽頭骨(かいんとうこつ)が癒合し三角形の一骨板を形成しているのが特徴。体は側扁(そくへん)し、体側線は上側線と下側線に二分される。えらは4個。臀(しり)びれ棘(きょく)条は3~10本。形態と生態は多様である。形態ではスズキ、ベラ、タイ、ハゼ類など海産硬骨魚類が示すひととおりの姿をしたものがいる。これに対応して生態では、魚食者、小動物食者、大形藻類食者、付着藻類食者、動物プランクトン食者、植物プランクトン食者と、あらゆる種類の食性をもつもののほか、ほかの魚種の鱗(うろこ)をかすめ取って食べる種や、稚仔(ちし)魚や卵を食べる種までいる。一つの科で、このような適応放散の例は珍しく、種分化関心をもつ研究者のよい研究対象となっている。

 ティラピア類の多くは自分の稚魚を口内哺育(ほいく)することで有名である。このような魚をマウスブリーダーmouth breederという。口内哺育にはいくつかの様式があるが、もっとも普通のものは雌が卵を口にくわえて、そこで卵をかえし仔魚を育てるものである。卵径は1.5~2.0ミリメートルで、これを数十から数百粒も口に入れるため、腹中の卵が熟してくると、雌の口腔(こうこう)の容積が大きくなる。卵に必要な酸素を得るため、雌は口を動かして口中の卵をかき回す。孵化(ふか)した仔魚は卵黄を吸収したあとは、索餌(さくじ)のため口内から外へ出る。しかし、しばらくは母親の口の周囲に集まっており、危険を感じると母親の口の中に入る。口内哺育は稚仔魚の初期死亡率を低くしており、それと関連して、口内哺育をする種の卵数は多くても数百粒と少なくなっている。非口内哺育種の卵数は数千粒である。

 日本には12、3種が移入されているが、カワスズメOreochromis mossambicus、ナイルカワスズメO. niloticus、ジルティラピアTilapia zilliiの3種が、鹿児島県、沖縄県、小笠原(おがさわら)諸島の父島で野生化している。このうちナイルカワスズメはイズミダイ、チカダイともよばれ、食用に養殖されている。成長が速く全長50センチメートルになる。ジルティラピアは孵化後4~6か月で成熟し、以後約50日の周期で産卵できるといい、繁殖力が旺盛(おうせい)なので養殖魚として有望視されている。

[中坊徹次]

養殖

現在、日本で養殖されている種はナイルカワスズメである。成長が速く、雑食性で、悪環境にも適応し、病害の発生も少ないので、養殖は各地において急速に増加しつつある。生息、産卵適温は24~32℃で、この範囲であれば周年産卵する。産卵に際して雄は直径1、2メートル、深さ15~30センチメートルの産卵床を池底に掘り、ここに雌を誘導して産卵させる。産卵数は雌の大きさで異なるが、普通数百粒である。受精卵は雌の口内で1週間後に孵化し、さらに1、2週間の口内哺育を経て自立する。稚魚にはミジンコを与えるが、配合飼料も併用する。初めは動物質餌料をとるが、成長するにしたがって植物質餌料を好むようになる。5、6月に産卵されたものは10月末には40~70グラムに達する。これを越冬させ、翌年の秋までに800グラム以上にして出荷する。刺身、塩焼き、煮物、揚げ物として美味である。

[出口吉昭]


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改訂新版 世界大百科事典 「ティラピア」の意味・わかりやすい解説

ティラピア
tilapia

スズキ目カワスズメ(シクリッド)科ティラピア属Tilapiaの淡水魚の総称。テラピアともいう。雌が卵を口内に保護して孵化(ふか)させるマウスブリーダーが多い。なお,現在では従来のティラピア属を二つに分け,口内保育する種はSarotherodon属として区別するが,ここでは混乱を避け,従来どおりの呼名に従う。アフリカ,アメリカ熱帯部,西部アジアに分布するが,世界各地に移殖されている。東南アジアでは養殖が盛んに行われている。日本には何種か導入されているが,最初に入れられたのは東アフリカ原産のカワスズメT.mossambicaで,1954年タイとフィリピンから輸入された。長野,岐阜,静岡,鹿児島などの山間の温泉地で飼育された。この種は広塩性で淡水,汽水,海水のいずれでも生活でき,正常に繁殖する。本種もマウスブリーダーである。沖縄には1953年に台湾から移殖され,現在では全島の汽水域に繁殖している。全長36cmに達する。食用にするがあまり美味ではない。近年,日本で盛んに養殖が行われているのはT.niloticaという種類でやはりアフリカ原産だが,全長50cmとさらに大型になる種である。成長が早く,美味で,一見クロダイのようなので,チカダイ,イズミダイの名で出荷され,刺身で賞味されている。
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百科事典マイペディア 「ティラピア」の意味・わかりやすい解説

ティラピア

カワスズメ(シクリッド)科ティラピア属の魚の総称。アフリカ,アメリカ熱帯部,西部アジアに分布するが,世界各地に移殖されている。日本に最初に入ったのは,東アフリカ原産のカワスズメ。全長36cmに達する。体色は紫を帯びた灰青色。1954年にタイとフィリピンから輸入。各地の温泉地の溜池(ためいけ)などで飼育され,野生化しつつある所もある。高温に強く,成長が早くて周年産卵する。マウスブリーダーとして知られ,雌は卵を口腔内で孵化(ふか)させ,稚魚はその後数日間親の口腔にとどまる。食用魚だが日本ではまだあまり喜ばれない。最近は近縁のアフリカ原産種のティラピアを養殖,イズミダイ,チカダイの名で出荷,刺身で賞味。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ティラピア」の意味・わかりやすい解説

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