ティンゲリー(読み)てぃんげりー(英語表記)Jean Tinguely

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ティンゲリー」の意味・わかりやすい解説

ティンゲリー
てぃんげりー
Jean Tinguely
(1925―1991)

スイス出身の造形作家。フリブール生まれ。1941~45年バーゼル美術学校に学び、52年パリに出て、以後パリで活躍。57年最初の「メタ・メカニック」Méta Mécaniquesを制作する。これは、機械の部品からつくった可動装置によって、運動を視覚化しようとする作品であるが、しばしば廃品の寄せ集めであるため、その運動には機械の整合性がない。60年ニューヨーク近代美術館前の広場自壊を意図した作品『ニューヨークへのオマージュ』を制作して話題を集めた。レスタニーPierre Restany(1930―2003)の主唱するヌーボー・レアリスムのメンバーとなり、66年には、ニキ・ド・サンファールと共同でストックホルム美術館に内部を通り抜けられる張りぼての女性像『hon』(スウェーデン語で「彼女」の意)を制作した。71年サンファールと結婚。82年にはパリのポンピドー・センター横の広場にサンファールと噴水彫刻を共作した。スイスのバーゼルにあるジャン・ティンゲリー美術館(1996設立)には彼の動く機械仕掛けの作品が展示されている。

[野村太郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「ティンゲリー」の意味・わかりやすい解説

ティンゲリー

スイスの彫刻家。フリブール生れ。ダダシュウィッタースの《メルツバウ》をさらに発展させて,廃棄物による彫刻に無作為の動きを導入した〈動く彫刻〉で知られる。1959年には,気紛れに動く装置にペンを取り付け,自動的に〈抽象〉画を描く,自動デッサン機械《メタマティック》を発表。1960年にはニューヨーク近代美術館で自らの動きによって最後には自爆してしまう装置による《ニューヨーク讃歌》というイベントを行う。奇妙な騒音を発する無用の機械ないし狂った機械仕掛けというテーマには,現代文明への辛辣な批評が見えると同時に,子供の工作のような純朴なユーモアさえ感じられる。→キネティック・アート
→関連項目サン・ファールヌーボー・レアリスム

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

改訂新版 世界大百科事典 「ティンゲリー」の意味・わかりやすい解説

ティンゲリー
Jean Tinguely
生没年:1925-91

スイスの彫刻家。フリブール生れ。多様な金属製品の廃品を組み合わせ,それをモーターなどで動かす作品で知られる。しかも,その動きは円滑さを欠き,不規則さを強く感じさせる点が大きな特徴となっている。少年時代から機械的な工作物に関心を寄せたが,1954年以降,上記のような動く作品をつくってからは,彼はむしろ機械をアイロニカルに眺めている。彫刻的な作品のほかに,機械によるパフォーマンスというべき《ニューヨーク賛歌》(1960)などもある。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ティンゲリー」の意味・わかりやすい解説

ティンゲリー
Tinguely, Jean

[生]1925.5.22. フライブルク
[没]1991.8.30. ベルン
スイス生れの彫刻家。バーゼル美術学校卒業。 1952年パリに移住。偶然の動きを重視する「メタメカニクス (機械をこえる) 」という考えに基づき,機械が自動的にデッサンを描く『メタマティック』を制作。以来,金属の廃品を組合せた動く作品を作り続けた。スケールの大きいものとしては,60年ニューヨーク近代美術館前の広場に自己破壊を意図して作られ,実際に自壊した『ニューヨークへのオマージュ』がある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のティンゲリーの言及

【キネティック・アート】より

…キネティック・アートを理論的に体系化したのは,モホリ・ナギである。1950年代後半から,ふたたびキネティック・アートの大きな動きが始まり,とくにJ.ティンゲリーの廃物機械を利用したナンセンスな機械彫刻は,機械技術文明への皮肉といわれている。このほか,アガムYaacov Agam(1928‐ ),ブリPol Bury(1922‐ ),ソトJesus Raphael Soto(1923‐ ),タキスTakis(1925‐ )などが戦後の第一世代の作家を形成する。…

※「ティンゲリー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android