日本大百科全書(ニッポニカ) 「テン(貂)」の意味・わかりやすい解説
テン(貂)
てん / 貂
Japanese marten
[学] Martes melampus
哺乳(ほにゅう)綱食肉目イタチ科の動物。日本全国と、朝鮮半島南部に分布する。体長は雄で45~50センチメートル、尾長17~23センチメートル、雌はやや小さい。夏毛は全体に褐色で、耳からのどにかけて黄色、顔と四肢は黒い。冬毛は変異が大きく、キテンのように全体に美しい黄色で、頭と顔が白いものから、スステンのように地色は夏毛とほとんど変わらず、頭、顔、のどが淡い褐色となるものまで、およびその中間型もあり、色相によって区別される別型と考えられている。対馬(つしま)産の亜種ツシマテンM. m. tuensisの冬毛はスステンに似るが、頭、顔、のどは白い。テンの各型および亜種とも、四肢、とくにその先端はつねに黒いが、クロテンと違い尾の先端は黒くない。
[朝日 稔]
生態
テンは山地から平野部の森林にすみ、高山には少ないが、人里近くにもみられる。日中は樹洞などに潜み、夜間に活動する。雑食性で、昆虫、カエル、トカゲ、小鳥、ネズミなどの動物質のほか、果実も食べ、とくに秋にはノブドウ、アケビ、ムベなどをよくとる。木登りは非常に巧みである。繁殖期以外は単独で生活する。交尾は春から夏にみられ幅があるが、出産は4~5月に限られ、1産2~4子。夏にみられる交尾でも妊娠するかどうかわかっていないが、胎児が発育を停止する妊娠遅延があるとも考えられる。
[朝日 稔]
近縁種
テン属には、北アメリカにアメリカテンM. americana、フィッシャーM. pennantiの2種があり、ヨーロッパからアジアにクロテンM. zibellina、マツテンM. martes、キエリテンM. flavigulaなど7種がある。北海道にはクロテンしかいないとされていたが、最近キテンも発見された。しかし、これは移入されたものかもしれない。どの種も毛皮が美しいために乱獲され、一時は非常に減少したが、現在では世界各国とも保護策をとっている。また、クロテンは養殖もされている。体形はいずれも似ていて、イタチより大きく、四肢が長い。毛色は黄ないし黒褐色で、のどの部分が淡い。冬毛と夏毛で毛色が異なるものも多い。いずれも森林にすみ、昆虫や小動物のほか、果実も好む。
[朝日 稔]
人間生活との関係
テンは、毛皮を利用するためと夜行性のために、銃器によらず、とらばさみや箱わななどのわなで捕獲する。日本での捕獲数は年間1万頭、東北地方と群馬、長野、新潟、島根などの各県が多い。北海道と愛媛県は現在捕獲禁止としている。沖縄県には生息しない。利用はおもにコート、襟巻などで、寒い地域のキテンが価値が高く、なかでも背の下毛が白い根白(ねじろ)が最高級とされる。ついで下毛の赤褐色の根赤(ねあか)、黒褐色の根青(ねあお)となり、暖地のスステンは黒く染色して、より価値の高いクロテンの代用にされる程度である。また、テンは養鶏場や養魚場へ侵入して害を与えることもあり、これらの業者からは嫌われている。
[朝日 稔]