デリス(英語表記)derris

翻訳|derris

精選版 日本国語大辞典 「デリス」の意味・読み・例文・類語

デリス

〘名〙 (derris) マメ科のつる性木本。熱帯アジア原産で、大正以後、小笠原、沖縄などで栽培。茎は長さ二〇メートル以上になる。若枝に褐色毛をビロード状に密布。葉は奇数羽状複葉で長さ約三〇センチメートル。小葉は狭倒卵形で九~一三個。紅色の蝶形花は長さ約三〇センチメートルの腋生総状花序にまばらにつく。さやは扁平で細かい毛を密生し、片側に狭い翼がある。根を殺虫薬に使う。トバ。

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デジタル大辞泉 「デリス」の意味・読み・例文・類語

デリス(derris)

マメ科のつる植物。葉は奇数羽状複葉。花は紅色。根は殺虫剤原料とする。熱帯アジアの原産。

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改訂新版 世界大百科事典 「デリス」の意味・わかりやすい解説

デリス
derris

殺虫や魚毒に使用される薬剤で,マメ科デリス属Derris植物の根や地下茎部の茎から作られる。基源植物のデリス属に殺虫成分があることはヨーロッパでは19世紀中ごろに知られており,またマレーシア地域から太平洋諸島では昔から毒流し漁法の重要な魚毒植物でもあった。トバ,タチトバ,ハイトバなどがデリスの殺虫有効成分であるロテノンを多量に含み,栽培もされる。トバD.elliptica Benth.はフジに似た木本性つる植物で,葉は奇数羽状複葉で4~6対の小葉を有する。花は紅色で20~30cmの花序に総状につく。インド東部からマレーシア地域,ニューギニアまで広く分布する。トバの名はマレー系のデリス属に対する名称tubaから生じたものである。タチトバD.malaccensis Prainはマレー半島原産で,トバに似て茎はつる性であるが,直立する。ロテノン含有はトバより少ないといわれるが,収量は多い。ほかにデリス属でインド東部産のインドトバD.ferruginea Benth.(英名Indian tuba),アッサムから中国南部に分布するギョトウ(魚藤)D.triforiata Lour.などにもロテノン成分が含有されており,利用される。

 デリス粉末は,日本では大正時代末から利用が始まり,化学殺虫剤が大量に合成されるまでは重要な殺虫剤の一つで,デリス粉剤,乳剤,セッケン製剤として広く使用された。最近になって塩素系の化学殺虫剤(DDT,BHCなど)の毒性が問題となり,哺乳類に対する毒性が低いことからデリスはジョチュウギクと同様見直されつつある。ロテノンは魚類には有毒で,マレーシアからポリネシアにおよぶ地域ではトバの根を水中でたたきつぶし,乳液を水中に流し魚をとった。人に対しての毒性が低いため有効な漁法であったが,現在はどこでもこの漁法は使用禁止になっている。

 デリス属以外の近縁マメ科植物でロテノンを含有するものにLoncocarpusCraccaMundurea属植物があり,デリスと同じように利用される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「デリス」の意味・わかりやすい解説

デリス
でりす
derris
[学] Paraderris elliptica (Wall.) Adema
Derris elliptica Bentham

マメ科(APG分類:マメ科)のつる性低木で、一見フジに似ている。ミャンマービルマ)、タイ、ベトナム、マレー半島、インドネシア、ニューギニア島などに分布する。枝は軟毛が密生し、横にはう。葉は奇数羽状複葉で長さ18~38センチメートル、小葉は倒卵形または倒披針(ひしん)形で、先は急にとがり、9~13個からなる。淡紅色の花は、長さ約1.8センチメートルで、大きな総状花序(長さ18~25センチメートル)をつくる。

 東南アジアでは古くから魚をとる目的で、根、茎、葉をつき砕いて河川や池に流したり、矢毒の一成分として用いてきた(これをトバtoeba, tubaと称する)。トバに用いる植物の種類は多いが、もっとも主要とされるのが本種である。また、トバは害虫に対する忌避剤、接触毒として農薬にも用いられるが、その濃度は人畜や植物に薬害を生じない程度のものである。デリスに含まれるロテノンという成分は、ごく微量で魚に猛毒を現す。ロテノンは台湾で同様の目的に使用するドクフジMillettia pachycarpa Benth.(M. taiwaniana Hayata)の根から初めて取り出されたものである。マレー半島ではマラケンシス種P. malaccensis (Benth.) Adema(D. malaccensis Prain)を、インドではナガミノシイノキカズラ(フェルジネア種)D. ferruginea Benthamをデリスと同様に用いる。

[長沢元夫 2019年10月18日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「デリス」の意味・わかりやすい解説

デリス
Derris elliptica; derris

マメ科の大型つる植物。熱帯アジア原産。茎 (つる) はがんじょうで長さ 20mあまりにも達し,地面をはったり他の植物にからみつく。全体に褐色の毛を密生し,葉は大きな羽状複葉でフジに似ている。花序は葉腋に生じ,紅色の蝶形花を総状にまばらにつける。根はロテノンを含み,「デリス根」として重要な殺虫剤,駆虫剤とされた。主成分が熱に弱いため物理的に根を破砕して製する。デリス剤には水和剤,乳剤,粉剤があり,おもに遅効性の接触毒として,アブラムシ,ウリバエなどに対し確実な効果を現す。また家畜の寄生虫の駆除や矢毒としても用いられた。第2次世界大戦までは熱帯地方で大規模に栽培され,日本でも小笠原諸島で栽培されたことがある。

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化学辞典 第2版 「デリス」の解説

デリス
デリス
derris

[同義異語]ロテノン

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世界大百科事典(旧版)内のデリスの言及

【ロテノン】より

…東南アジアに自生しているマメ科植物のデリスや近縁の植物の根部に含まれる殺虫成分。原住民が根のしぼり汁を川中に投じて魚をとっていたといわれる。…

※「デリス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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