トド(読み)とど(英語表記)steller sea lion

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トド」の意味・わかりやすい解説

トド
とど / 海馬
steller sea lion
[学] Eumetopias jubatus

哺乳(ほにゅう)綱鰭脚(ききゃく)目アシカ科の海産動物。分布域はきわめて広い。アリューシャン列島からアラスカ、カナダ、カリフォルニアにかけて、またカムチャツカ半島千島列島、オホーツク海北部および樺太(からふと)(サハリン)にも繁殖場や上陸場がある。冬から春にかけては北海道や沿海州の沿岸にも現れる。生息数は全体で10万~15万頭である。アシカ科動物のなかでもっとも大きく、海馬(かいば)ともよばれる。雄は体長3.2メートル、体重約1トン、雌は2.4メートル、280キログラムに成長する。大きさ以外にも雌雄で差があり、雄の成獣は頸(けい)部が著しく肥大し、長さ4センチメートルほどの剛毛で覆われる。アシカより明るい褐色で胸腹部は暗色である。上あごの第4と第5の頬歯(きょうし)(小臼歯(きゅうし)と大臼歯をあわせたもの)の間に歯1本分以上のすきまがあり、アシカやオットセイと区別できる。

 沿岸性の動物で、活動域はおもに岸より15海里(約28キロメートル)以内、180メートルより浅い海域である。食物の幅は広く、魚類や頭足類を中心に甲殻類も食べる。平坦(へいたん)な海岸だけでなく、かなり傾斜のある岩場でも繁殖する。一夫多妻性でハレムの広さは約225平方メートル、雌の数は平均10頭である。雄はこのハレムを20~40日間保有し、ほかの雄から防衛する。雄どうしの闘いは儀式化された示威行動で、かみ合って傷つくことは少ない。5~7月に交尾し、翌年の5、6月に出産する。1産1子で双産はまれである。新生子は体長100センチメートル、体重20キログラム、授乳期間は3~12か月と幅がある。雌は3、4歳、雄は5歳で性的に成熟する。ただし繁殖に参加する雄は9~13歳である。繁殖後、8~10月に島を離れ回遊生活に入る。

 北海道へ回遊してくるものは千島と樺太のトドで、ロシアの推定では約3000頭である。漁業の害獣として羅臼(らうす)、利尻(りしり)、礼文(れぶん)などで駆除されている。肉はミンクキツネの餌(えさ)にされるが、毛皮には下毛(綿毛)がなくきわめて厚いので利用されていない。

[伊藤徹魯]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「トド」の意味・わかりやすい解説

トド (海馬/魹)
Steller's sea lion
northern sea lion
Eumetopias jubatus

鰭脚(ききやく)目アシカ科の哺乳類。アシカ科の仲間では最大。漁業に与える被害が大きいので漁業者からきらわれる存在。カイバともいう。北半球においてアシカ科の動物は,太平洋にのみ分布し,大西洋には分布しない。トドは北海道,サハリン,千島列島,アレウト列島アラスカ半島,北アメリカ太平洋沿岸に分布,カリフォルニアアシカの生息域北側,オットセイの南側に分布する。北海道では繁殖場はないが,全域に出現する。日本海,オホーツク沿岸に雄が,太平洋沿岸には雌が回遊する。オットセイのように7000kmに及ぶ大回遊はしないが,小規模の繁殖回遊をし,5~8月の繁殖期は繁殖場付近で過ごし,秋,冬は南下回遊する。一般にアザラシと異なり海氷を避ける。一夫多妻型で雄が大きい。雄が体長300~325cm,体重1tに達するのに対し,雌は体長240cm,体重270kgでしかない。雄,雌ともに茶褐色の体色をし,あらい毛でおおわれる。オットセイのような柔らかい下毛はほとんどない。雄は首の周囲にあらい毛のたてがみが発達し,額が高く突出している。食性は魚が中心であるが,イカ,タコ,ときにはアザラシの子や海鳥も捕食する。胃の中に石がよくのみこまれているが,その理由はわかっていない。タコとともにのみ込まれるともいわれている。
アシカ
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トド」の意味・わかりやすい解説

トド
Eumetopias jubatus; Steller sea lion

食肉目鰭脚亜目アシカ科トド属。最大体長は雄約 3.3m,雌約 2.5m。体重は雄約 1t,雌約 273kgに達する。出生直後の幼獣は平均して体長約 1m,体重は 18~22kgである。アシカ科で最も大きい。体色は淡黄褐色で胸部から腹部にかけて濃くなる。雌は一般にやや淡色で,幼獣は黒茶色を呈する。体型は太い紡錘形である。雄は成長すると首にたてがみ状の長い毛が生える。下毛 (綿毛) がない。吻はやや細長く,頭頂は少しくぼみ,耳介は約 5cmに達する。門歯は上顎6本,下顎4本,犬歯は上顎と下顎に各2本,頬歯は上顎と下顎に各 10本である。上顎の後方にある4番目と5番目の頬歯が離れている。繁殖場では 1000頭以上の群れをなすが,海上では 15頭以下の群れで回遊する。キタオットセイに比べ上陸して休息することが多い。繁殖期は晩春から夏にかけてである。成熟した雄は,雌が繁殖場を回遊する前に上陸してなわばりをつくり,そのうちの 10~15頭の雌と交尾する。1産1仔。食性範囲は広く,おもに魚類やスルメイカ類を捕食している。北太平洋の,東はカリフォルニア中部から西はカムチャツカ半島まで,北はベーリング海から南は日本北部までに分布し,海上では沿岸や大陸棚に出現する。絶滅危惧種。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「トド」の意味・わかりやすい解説

トド

食肉目アシカ科の哺乳(ほにゅう)類。雄は平均体長2.8m,平均体重566kg。雌は小さく平均体長2.3m,平均体重263kg。夏は淡赤褐色,冬は暗褐色。北太平洋に分布し,冬は北海道まで南下する。夜行性で日中は休息している。スケトウダラなどの魚類を捕食。6月の繁殖期に雄は10〜15頭の雌を伴ってハレムを作る。1腹1子。子は初め母の背に乗せられて海に入り,泳ぎを覚える。準絶滅危惧(環境省第4次レッドリスト)。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のトドの言及

【アシカ(海驢∥葦鹿)】より

…人になれやすく,飼育学習によりいろいろな芸を仕込める。 アシカ科には狭義のアシカのほか,オットセイトドオタリアなど7属14種が知られている。アザラシ科に比べては小さい。…

※「トド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android