改訂新版 世界大百科事典 「トビ」の意味・わかりやすい解説
トビ (鳶)
black kite
black-eared kite
Milvus migrans
タカ目タカ科の鳥。俗にトンビとも呼ばれる。アフリカ,ユーラシア大陸,オーストラリアに広く分布し,平地から低山の林にすむ。日本でもいちばんふつうのタカで,全国各地で見られる。タカとしてはくちばしも脚もとくに発達しておらず,河原や海岸などで動物の死体をあさることが多い。全長約65cm。全身褐色で,上面は濃く,下面は淡い。尾の先端の中央が切れ込んでいて,飛翔(ひしよう)しているときには三味線のばち形に見えるのが特徴。しばしば上昇気流にのってゆったりと帆翔し,〈ピーヒョロロロ〉とのどかな声で鳴く。地上の餌を見つけると急降下して足の指でつかみ,空中で,あるいは樹枝上や地上におりてついばむ。郊外のごみ集積所や漁港に群れていることが多く,また数十つがいが集まって集団営巣することもある。4月ころ,高い樹枝上に小枝を重ねて大きな皿形の巣をつくり,1腹2~3個の卵を産む。
トビ属には2種あり,アカトビM.milvus(英名red kite)がヨーロッパ,北アフリカ,中近東に分布する。この種はトビよりもやや小型で,上面が美しい赤褐色である。トビのように腐肉食もするが,小型の哺乳類などを狩ることも多い。
執筆者:竹下 信雄
民俗
《日本書紀》には神武天皇を助けて長髄彦(ながすねひこ)の軍を降伏させた〈金色霊鵄(こがねのあやしきとび)〉の記事があり,また愛宕(あたご)神はトビを神使としている。しかし,ネズミやカエルなどの死体をついばむ悪食のうえ,人の魚をかすめとることもあるので,かつては人家近くに多く見られて身近だった反面,人々からは憎み疎まれることもあった。トビの鳴声と飛翔は特徴的なので,天候占いによく使われる。その中の一つ〈トビが舞えば雨〉ということわざは,〈鳶不孝〉の昔話とともに語られる場合が多い。その昔話によると,トビは人間であったとき,あまのじゃくな息子であった。親の墓を川辺にたててしまったので,雨が降ると墓が流されてしまう。そこで雨模様になると心配して,トビは川面を低く飛んで鳴くのだという。なお,トビが屋根にとまるのを火災の前兆とする俗信は,現在でも各地にみられる。
執筆者:佐々木 清光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報