トラザメ(読み)とらざめ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トラザメ」の意味・わかりやすい解説

トラザメ
とらざめ / 虎鮫

軟骨魚綱メジロザメ目の科や属の総称、またはその1種の名称。トラザメ科Scyliorhindae(英名catsharks)は第1背びれが腹びれ上方またはその後方に位置すること、臀(しり)びれがあること、口が目の前端の下に位置すること、頭蓋骨(とうがいこつ)の眼窩(がんか)上部が庇(ひさし)状になることなどが特徴で、トラザメ属ScyliorhinusナヌカザメCephaloscylliumなど7属からなる。そのうち、トラザメ属は尾びれ上縁の鱗(うろこ)が肥大しないこと、口角に小さな溝があることなどが特徴で、世界に16種が知られ、日本近海にはトラザメS. torazame(英名torazame catshark)1種のみが分布する。同種は小形で、大きくても全長50センチメートルにしかならない。生殖方法は短期型単卵生で、長さ6センチメートルほどのキチン質の卵殻卵を短期間に2個ずつ産み、これを繰り返す。この卵殻には四隅にコイル状の長い糸があり、それを海藻などに絡みつける。8か月ほどで7センチメートルくらいに育ち、孵化(ふか)する。雑食性で底生動物などを食べる。北海道南部以南の日本各地、台湾などの沿岸域、東シナ海に分布する。産業的にはほとんど利用されていない。国際自然保護連合IUCN)のレッド・リストでは、低懸念(LC)とされている(2021年9月時点)。

[仲谷一宏 2021年10月20日]


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改訂新版 世界大百科事典 「トラザメ」の意味・わかりやすい解説

トラザメ (虎鮫)
Scyliorhinus torazame

メジロザメ目トラザメ科の海産魚。名は,体に雲状斑紋があり,トラの縞模様に似ることによる。英語では同科のサメを総称してcat sharkというが,やはり斑紋に基づいている。日本,朝鮮半島,中国に分布し,その南限はフィリピン,北限は北海道とされる。一方,近縁のナガサキトラザメHalaerulus buergeriは中部以南とくに九州に多い。トラザメは沿岸性が強く,水深100m以浅の海底で生活する。体の模様のほか,口のまわりに唇褶があることが特徴。全長1mにみたない小型種。季節的な回遊を行い,冬は深所へ,夏は浅所に移動する。卵生のサメで,特定の産卵期をもたない。卵は長方形の殻に包まれ,その両端にはつるのようなひもがついていて,海藻などにからみやすくなっている。雌雄とも約40cmで性的成熟に達する。おもに海底にすむ小動物を餌とする。底引船や底はえなわでとらえられ練製品の原料として利用される。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トラザメ」の意味・わかりやすい解説

トラザメ
Scyliorhinus torazame

メジロザメ目トラザメ科の海水魚。全長 50cmになる。頭部と胴部は肥大し,縦扁する。腹面は平坦。吻は短く,円鈍である。体色は黄褐色で,斑紋がある。卵生。北海道南部から東シナ海,朝鮮半島東岸,黄海ポー(渤)海,フィリピンに分布し,沿岸の海底に生息する。

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世界大百科事典(旧版)内のトラザメの言及

【イタチザメ】より

…メジロザメ目メジロザメ科の海産魚。イタチザメの名は属名のGaleocerdoをそのまま訳したもので,英名では体の横縞模様がトラに似ているのでtiger shark(トラザメ)というが,トラザメ科のトラザメとは別種である。全世界の熱帯から温帯にかけての沿岸域に多く,日本では本州中部から沖縄にかけて分布する。…

※「トラザメ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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