トランスファー問題(読み)トランスファーもんだい(英語表記)transfer problem

改訂新版 世界大百科事典 「トランスファー問題」の意味・わかりやすい解説

トランスファー問題 (トランスファーもんだい)
transfer problem

賠償資本輸出等において,ある国が外国に一定の外貨または現物(商品)を支払う,トランスファーする(移転する)義務が生じた場合に,支払国が直面する外貨獲得に関する困難な問題を指す。たとえばA国がB国に100億ドル資金を賠償金として支払う義務が生じたとしよう。A国の政府自国民の税金を増額して〈100億ドル相当〉の資金を入手するが,この税金はA国の通貨または生産物からなっており,A国はこれをB国が受け入れる通貨,すなわちそのときの支配的国際通貨(たとえばドル)または商品に換えなければならない。B国または世界市場にA国の生産物に対する高い需要が存在するときはA国は容易に外貨を獲得できるからトランスファー問題は存在しないか小さい。しかし通常は,A国は外国通貨建ての価格を引き下げても自国の輸出を増大し,外貨を獲得しなければならない。このためには,上記の増税に上のせする形でデフレ政策を実施して国内物価や国内需要を引き下げ,貿易黒字国際収支の黒字)をつくり出さなければならないかもしれない。このことは支払国がデフレや失業という形で賠償金以上の高い犠牲を支払うことを意味する。同様の困難な問題は民間部門による資本輸出や過去の債務返済に伴う資金の移動についても存在するとしばしばいわれるが,しかし民間のみによる資本移動の場合は同時に利子や物価,所得がこのような資金の移転を可能にするように市場メカニズムによって変動しているため,トランスファー問題はあまり問題とならない。

 トランスファー問題に関連した歴史的に有名な話に,第1次大戦後の敗戦国ドイツが多額の賠償金を戦勝国に支払わねばならなかったとき,トランスファー問題が存在し重大な問題であると主張したJ.M.ケインズと,存在するがそれほど重大でないと主張したB.G.オリーンとの論争(トランスファー論争)がある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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