トリカブト(読み)とりかぶと(英語表記)aconite

翻訳|aconite

改訂新版 世界大百科事典 「トリカブト」の意味・わかりやすい解説

トリカブト (鳥兜)
Aconitum carmichaeli Debx.

中国原産で,薬用,切花用として畑で栽培されるキンポウゲ科多年草。トリカブトの名はまたトリカブト亜属の植物の総称(英名aconite,monkshood,wolfsbane)としても,生薬名としても用いられる。トリカブトA.carmichaeliカブトギクハナトリカブトともいい,茎は直立し,高さ1m内外。花時には根生葉はなく,茎葉は互生し,葉柄がある。葉身は3全裂,側裂片はさらに2深裂し,ふぞろいな粗い鋸歯がある。葉質はやや厚くて光沢がある。秋,茎の先端に総状,またはやや円錐状の花序を出し,10ないし30個くらいの花をつける。花梗には開出毛がある。花は左右相称で,高さ3~4.5cm。萼片は5枚,花弁状で濃紫色。頂萼片は烏帽子状,側萼片は1対,平らで倒卵状円形,下萼片は1対,平らで長楕円形。花弁は2枚,変形して蜜(みつ)分泌の器官となり,頂萼片のなかにかくれる。おしべは多数で,ふつうは無毛,葯は黒紫色。めしべは3または5本。果実は袋果で,種子にはひだがある。根と地上部は冬に枯れるが,そのころには,春に生長をはじめた子根が大きくなって芽をつけ,越冬し,翌春,萌出する。漢名の附子(ぶし)は,母根のまわりに子根のついた状態による。また,烏頭(うず)は,花の形と色にもとづく。

 これにきわめてよく似ているA.chinense Paxt.は,花梗の毛が開出するだけの違いであり,一般に混用されているが,現在では栽培はまれである。

 日本には北海道より九州にかけて30種余りのトリカブト属Aconitumの植物が自生しているが,変異が強くて分類が困難である。林の縁や林の中,草原に生え,温帯に多いが暖帯にも進出し,また高山帯にも普通にみられる。代表的なものには,エゾトリカブトA.yezoense Nakai,エゾノホソバトリカブトA.yuparense Takeda,オクトリカブトA.japonicum Thunb.,ヤマトリカブトA.japonicum var.montanum Nakai,キタヤマブシA.japonicum var.eizanenseTamura,ホソバトリカブトA.senanense Nakai,ハクサントリカブトA.hakusanense Nakai,カワチブシA.grossedentatum Nakai,サンヨウブシA.sanyoense Nakai,タンナトリカブトA.napiforme Lév.et Van'tなどがある。トリカブト属には約300の種があり,北半球の温帯以北に広く分布している。トリカブト亜属subgen.Aconitum,レイジンソウ亜属subgen.Lycoctonum,ギムナコニツム亜属subgen.Gymnaconitumの3亜属に分類される。

 主として根に,アコニチンaconitine,メサコニチンmesaconitine,ヒパコニチンhypaconitineなどのジテルペン系のアルカロイドを含み,植物界最強といわれる猛毒があるが,なかにはサンヨウブシのように無毒なものもある。これらの毒成分は加水分解によって無毒化されるため,この毒によって殺された動物の肉を食べることができる。アイヌ民族など多くの民族によって狩猟のときの矢毒として用いられた。
執筆者:

生薬では中国産Aconitum carmichaeli Debx.の塊根を用いる。母根は烏頭,子根は附子とされていたが,烏頭はそのまま乾燥したもの,附子はなんらかの加工を施したものを指すようになった。野生品は草烏頭(そううず)という。アコニチンなどのアルカロイドを含み,沈衰した新陳代謝機能を賦活し,強心利尿作用がある。他の生薬と配合して身体四肢関節の麻痺,疼痛(とうつう)の鎮痛薬,虚弱体質者の感冒,腹痛,下痢,大量出血,軽度の心臓機能の衰弱などに応用する。元来強頑な体質者に使用するときは注意が必要である。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリカブト」の意味・わかりやすい解説

トリカブト
とりかぶと / 鳥兜
aconite
monkshood
wolfbane
[学] Aconitum

キンポウゲ科(APG分類:キンポウゲ科)の多年草。植物としてはもっとも強い毒を含み、天然物としてはフグ毒に次ぐという。名は、花の形が烏帽子(えぼし)に似ることによる。単にトリカブトというときは、トリカブト属植物総体をさす場合と、中国原産で園芸に用いられるハナトリカブトを特定する場合がある。トリカブト属は、北半球の温帯から寒帯に約300種あり、二年生の根をもつ狭義のトリカブト類と多年生の根をもつレイジンソウ類に大別される。花は左右相称、青紫色のよく目だつ5枚の萼片(がくへん)と、それらの内部に蜜腺(みつせん)に変形した花弁があり、マルハナバチ類による送粉に適応して進化した植物群である。

 トリカブト類は日本に約30種あるが、種を識別する手掛りとしては、葉の概形(円形か五角形か)、花柄の毛(あるかないか、ある場合は屈毛か開出毛か)などの特徴が重要である。関東から中部地方、中国地方から四国、九州のそれぞれの山地や丘陵に生えるヤマトリカブト、タンナトリカブト、ホソバトリカブトがもっとも目に触れる機会が多い種類で、いずれも花柄に屈毛が生え、葉は五角形である。ホソバトリカブトは葉が円形で切れ込みが深く、花柄に開出毛がはえ、本州中部地方の代表的な高山植物の一つである。日本産の種は多くは有毒であるが、サンヨウブシのように無毒の種もある。また有毒種であっても、産地によって毒力に差がある。

[門田裕一 2020年3月18日]

薬用

トリカブト類は全草に毒性の強いアコニチン系アルカロイドを含んでいるが、実用に供されるのは根である。漢方では、根を附子(ぶし)または烏頭(うず)と称し、鎮痛作用のほか、冷えと虚脱状態を治す作用を生かして、神経痛、リウマチ、激しい下痢、新陳代謝機能の衰弱、体温や血圧の下降などの治療にあてる。これらの適応症でない場合には、微量でもひどい中毒症状を引き起こすので注意が必要である。中国では紀元前から加熱して減毒する方法を用いており、減毒したものを炮附子(ほうぶし)と称する。なお、熱病にかかっても熱感を覚えず、悪寒を強く訴える状態では、多量服用しても中毒しないため(漢方ではこれを陰証とよぶ)、附子の適応症とされている。

[長沢元夫 2020年3月18日]


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百科事典マイペディア 「トリカブト」の意味・わかりやすい解説

トリカブト

カブトギク,ハナトリカブトとも。古くから観賞用に栽培されるキンポウゲ科の多年草。高さ1m内外,掌状に深裂した葉を互生する。秋,茎頂に深紫色の高さ3cm内外の花を多数円錐状につける。萼片は花弁状で,5枚のうち上側の1枚はかぶと状となる。花弁は2枚あり,蜜腺状。果実は袋果。トリカブトの名はトリカブト亜属の総称としても用いられ,日本の山野にヤマトリカブト,ホソバトリカブトなど30種あまりが自生する。ほとんどの種がアコニチン,メサコニチンなどのアルカロイドを含み猛毒で,アイヌは矢にこの根の汁を塗ってクマ狩に用いた。薬用植物としても重要で,根を干したものを烏頭(うず),附子(ぶし)などといい漢方薬(強心利尿作用)とする。
→関連項目レイジンソウ

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栄養・生化学辞典 「トリカブト」の解説

トリカブト

 [Aconitum chinense],[A. napellus]などキンポウゲ目キンポウゲ科ハナトリカブト属の多年草.有毒アルカロイドを含む.薬用に用いる.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のトリカブトの言及

【漢方薬】より

…この経験をもとに,胃潰瘍の治療薬も開発されている。カンゾウ
[附子]
 トリカブト属Aconitum植物の根で,猛毒のアコニットを含む生薬であるが,漢方では強心を目的に使用する。近年附子(ぶし)から強心成分としてヒゲナミンが単離された。…

【毒】より

…一方,中毒学という用語は,対象の中心を生体の反応に置いて訳出された言葉と考えられ,主として医学の分野で使われてきた関係から,一般には原因物質や発現機序のほかに中毒の症候,診断,治療および特異的拮抗剤など,今日でいうところの臨床中毒学に相当する内容が含まれていると解釈される。
[毒物学の歴史]
 自然界の毒物は,人間の歴史の初期においても狩猟や争いに,またときには病気の治療に用いたことが知られており,前17世紀のエジプトの医書エーベルス・パピルスにもドクニンジン,トリカブト,アヘン,ジギタリスなどの毒物とこれらの治療薬としての利用に関する記述がみられるという。毒物によるソクラテスの自殺やローマ時代の毒ヘビによる殺害など,毒がまつわる有名な話は少なくない。…

【有毒植物】より

…芽生えを山菜とまちがえてたべたりすれば,その名の通りに走りまわって止まるところを知らずついには死に至る。トリカブトの根も漢方薬として用いられるが,用量の調節が難しく,量を過ごせば生命を落とすことになる。ニリンソウとの誤食によって中毒をおこすこともある。…

※「トリカブト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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