トリーフォノフ(読み)とりーふぉのふ(英語表記)Юрий Валентинович Трифонов/Yuriy Valentinovich Trifonov

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリーフォノフ」の意味・わかりやすい解説

トリーフォノフ
とりーふぉのふ
Юрий Валентинович Трифонов/Yuriy Valentinovich Trifonov
(1925―1980)

ソ連作家モスクワ軍人の家庭に生まれる。中学を卒業後、飛行機工場で働き、ゴーリキー文学大学に入学、1949年に卒業。1947年より短編を発表、卒業制作の最初の長編『学生達』(1950発表、1951国家賞受賞)によってデビューする。1951年作家同盟に加入し、その後ソ連各地を放浪し、いくつかの短編、戯曲などを書きながら第二の長編を準備、運河建設題材とした『渇を癒(いや)す』(1963)を書き上げる。1965年、かつて粛清された父親を描く作品『焚火(たきび)の照り返し』を、66年『ノーブイ・ミール』誌に短編『ベーラとゾイカ』『夏の午後のこと』を発表以後、新しい時代が始まる。中編『アパート交換』(1969)、『気がかりな結末』(1970)、『永き別れ』(1971)などは、この時代のソ連市民知識層の生活と心理の深い諸矛盾を描き、作者自身それらを「モスクワもの中編」とよんでいる。知識層の退廃変節に焦点をあてた中編『別の生活』(1975)、『川岸の家』(1979)もその延長に位置するといえよう。この時期にはまた、ナロードニキテロリストを描く長編『あせり』(1973)、歴史現代を同時に描く長編『老人』(1978)などの問題作を著した。没後人間運命について語る長編『ある時間、ある所』(1981)が発表された。ソ連社会、人間、歴史を構造的に真摯(しんし)に描く優れた作家であった。

草鹿外吉

『草鹿外吉訳『気がかりな結末』(1975・集英社)』『加藤弘作訳『川岸の館』(1979・社会思想社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「トリーフォノフ」の意味・わかりやすい解説

トリーフォノフ
Yurii Valentinovich Trifonov
生没年:1925-80

ソ連邦の作家。赤軍将官の家庭に生まれたが,父は1938年にスターリンの粛清にあった。49年ゴーリキー文学大学を卒業と同時に小説を書き始め,《大学生》(1950)で国家賞を受賞した。それ以降,多くの作品を書き続けたが,60年代に入って以来,主としてモスクワに住む知識人の日常のなかにひそむ危機と荒廃を追求する主題を展開して,60年代以降のソビエト文学を代表する作家となった。《交換》(1969),《もうひとつの生活》(1975),《川岸の館》(1977),《老人》(1978)などは革命も戦争も過去となった都市の住民の日々を描いたものである。ナロードニキのジェリャーボフを描く歴史小説《焦燥》(1973)は新境地を開くものであった。死後に発表された長編《時と場所》(1981)は,自伝的要素を含めつつ,スターリン時代から現代に至る歴史のなかの人間を描いた問題作である。
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