ドクトカゲ(読み)どくとかげ(英語表記)venomous lizard

改訂新版 世界大百科事典 「ドクトカゲ」の意味・わかりやすい解説

ドクトカゲ (毒蜥蜴)
venomous lizard
beaded lizard

ドクトカゲ科Helodermatidaeに属する有毒トカゲの総称トカゲ類約3000種のうち毒をもつのは以下の2種のみである。アメリカドクトカゲ(別名ヒラモンスターGila monster)Heloderma suspectumはアメリカ合衆国南西部およびメキシコ北西部に分布し,全長約60cm。尾は頭胴長より短くて太いが,太さは栄養状態によって変化する。四肢は発達し各指の長さはほぼ等しい。夜行性で,夜間や曇天行動し昼間は岩の下や他の動物の穴に潜んでいる。動作はにぶいがかみつくときはすばやく,餌は小哺乳類,鳥や爬虫類の卵,トカゲなどで,かみつくとしばらく放さない。体色は黄色またはピンク地に黒のまだら模様が並び,尾部は幅広い帯模様となる。卵生で,1度に6~12個ほどを産卵する。メキシコドクトカゲH.horridum(英名Mexican beaded lizard)はメキシコの太平洋沿岸に分布し,乾燥した地方の山のスロープ,かれた峡谷,森林地帯の荒地,半砂漠にすむ。全長約80cm,黄色と黒褐色のまだら模様が全体に散らばり,頭部と尾部は黒みがかる。ドクトカゲの毒腺唾液腺の変化したもので,毒ヘビと違って下あごにあり,多くの小さな分泌器官の袋や蜂巣状小窩(しようか)からなる。毒腺は3~4葉に分かれ,それぞれの導管であごや唇の縁に排出された毒液は,毛管現象によって上下顎に2対ずつある毒牙(どくが)に伝わる。毒は強い神経毒が主成分で危険であるが,おとなしいため,人にはほとんど実害がない。しかし獲物や敵にかみつくときは,毒が十分注入されるまで,かみついてしばらく放さない。2種とも生息数が減少し保護されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドクトカゲ」の意味・わかりやすい解説

ドクトカゲ
どくとかげ / 毒蜥蜴
venomous lizard
beaded lizard

爬虫(はちゅう)綱有鱗(ゆうりん)目ドクトカゲ科ドクトカゲ属に含まれるトカゲの総称。世界のトカゲ約3400種のうち、毒をもつのはこの属Helodermaの2種のみである。アメリカドクトカゲ(別名ヒラモンスター)H. suspectumはアメリカ合衆国南西部およびメキシコ北西部に分布し、全長約60センチメートル、メキシコドクトカゲH. horridumはメキシコ太平洋沿岸地方に分布し、全長約80センチメートル。2種は類似し、体鱗、色彩などにわずかに相違がみられる。胴は円筒形で尾が太いが、太さは栄養状態によって変化する。体背面は細鱗に覆われ、前後肢の各指はほぼ同大。毒腺(どくせん)は毒ヘビと異なり下あごにあって3ないし4葉に分かれ、毒はそれぞれ導管を通って、あごや唇の縁に排出される。歯は上下とも大きくて鋭く、溝を備える。下あごの歯には前後に溝があり、前面のものがより深い。毒液は表面張力によって毒牙(どくが)に伝わり、時間をかけて獲物や敵に注入される。そのため、かみつくとしばらく放さない。毒は強い神経毒が主成分で人間にも危険である。半砂漠にすみ、夜行性で昼間はほかの動物の穴や岩の下に潜む。餌(えさ)は小哺乳類(ほにゅうるい)、鳥や爬虫類の卵、トカゲなどで、行動はのろいが、かみつくときはすばやい。卵生である。

[松井孝爾]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ドクトカゲ」の意味・わかりやすい解説

ドクトカゲ
Helodermatidae; Gila monster

トカゲ目ドクトカゲ科に属する種の総称。大型のトカゲ類で,現生種のうちでは唯一の有毒トカゲ。北アメリカ南西部からメキシコ北西部にかけて分布するアメリカドクトカゲ Heloderma suspectumと,メキシコ北部に産するメキシコドクトカゲ H. horridumの2種が含まれる。どちらもずんぐりしたからだつきで,全体が粒状の鱗でおおわれ,暗褐色の地に黄色または淡紅色の斑紋を表わす。ともに大型であるが,メキシコドクトカゲのほうがより大型で,体長 80cmほどになる。毒腺は下顎にあるが,特別な毒牙はなく,唇と歯との間に流れ出た毒液が,咬まれた傷口から相手の体内に入る。このため顎はがんじょうで,いったん咬みついたら容易に離さない。毒は神経性で,相手の呼吸中枢を麻痺させる。積極的にヒトを攻撃することはない。

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百科事典マイペディア 「ドクトカゲ」の意味・わかりやすい解説

ドクトカゲ

爬虫(はちゅう)類ドクトカゲ科。全長60〜80cm。体は顆粒(かりゅう)状の細鱗におおわれる。2種あり,アメリカドクトカゲ(ヒラモンスターとも)は北米南西部に,メキシコドクトカゲはメキシコに分布。下顎に毒牙をもち,毒性は強い。行動はにぶく,人にはほとんど実害がないが,かみつくと放さない。夜行性で,小哺乳(ほにゅう)類,鳥卵などを捕食。

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