ドクニンジン(読み)どくにんじん(英語表記)hemlock

翻訳|hemlock

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドクニンジン」の意味・わかりやすい解説

ドクニンジン
どくにんじん / 毒人参
hemlock
[学] Conium maculatum L.

セリ科(APG分類:セリ科)の二年草。原産地は不詳だが、現在はヨーロッパ、アジア、北アフリカ、北アメリカに分布している。高さ50~250センチメートルで全株無毛、根は紡錘形で白色。茎は直立。茎の上部は強く分枝し、中空で、外面には細い縦溝があり、青緑色で白粉に覆われる。しかし、下部では暗赤ないし赤褐色の不規則な斑紋(はんもん)がある。葉は3~4回羽状に分裂し、小葉は長楕円(ちょうだえん)形で深い鋸歯(きょし)がある。花は目だたない汚白色で、複散形花序をなす。果実は広卵形、灰緑色で、肋線(ろくせん)が強く突出し、波状となる。一般のセリ科植物は油室をもち芳香を感ずるが、本種は油室をもたず、全株、とくに花と果実に不快なネズミの尿のような臭(にお)いがあるのが特徴である。この臭いは、揮発性アルカロイドのコニインによる。古代ギリシアでは毒殺薬としたり、罪人の死刑執行にこれを用いたという。また、アヘンと混じて国家が自殺用に与えることもあった。ソクラテス獄中でこれを飲んで死んだと伝えられる。類似生薬(しょうやく)に混用されて思いがけない結果となることがあるため、現在では薬用に供されない。

[長沢元夫 2021年11月17日]

 日本には自生していないが、北海道三重県千葉県などに帰化している。

[編集部 2021年11月17日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ドクニンジン」の意味・わかりやすい解説

ドクニンジン
Conium maculatum L.

ヨーロッパ原産のセリ科の有毒な二年草。茎は直立して上部で分枝し,高さ1~1.5mに達し,中空で毛がなく,表面に暗紫色の斑紋がある。葉は3回羽状に細かく分裂し,上部ではほぼ対生する。夏に枝先に複散形花序をつけ,白い小さい花を多数つける。花は直径約3mm,花弁は5枚,先端は内に曲がり,そのうち1枚だけが特に大きくなっている。果実はほぼ球形で,直径約3.5mm,熟すと2分果に分かれる。分体に切ると不快な臭気があり,コニインconiineなどの有毒成分を含む。ドクゼリにつぐ有毒植物としてよく知られ,イギリスではヘムロックhemlockと呼ばれ,ソクラテスがこれをのんで死んだと伝えられている。なお,アメリカでは同じものをpoison hemlockと呼び,単にhemlockといえばツガ属針葉樹をさす。最近,日本にも帰化植物となって,各地でぼつぼつ姿を見せている。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のドクニンジンの言及

【有毒植物】より

…アセビを馬酔木と書くのも葉をたべたウマが酔ったようになるからで,ともに中枢神経を興奮の後に麻痺させるグラヤノトキシンを含むためである。ドクニンジンも中枢および運動神経末梢を麻痺させる成分コニインを含有し,ソクラテス処刑に用いられた。プラトンは著書《ファイドン》にソクラテスの手足が冷えやがて心臓が麻痺して死にいたる情景を描写している。…

※「ドクニンジン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android