ドクムギ(読み)どくむぎ(英語表記)darnel

翻訳|darnel

改訂新版 世界大百科事典 「ドクムギ」の意味・わかりやすい解説

ドクムギ (毒麦)
(annual)darnel
Lolium temulentum L.

ヨーロッパ原産のイネ科帰化植物で,麦畑道端等にみられる一年草。ゆるい株立ちとなり,全体コムギに似てより細い。茎は高さ60~90cm,葉は線形で長さ15~25cm,幅6mmくらい,軟らかい草質である。花は5月。線形の穂を出し,中軸両側小穂が間をおいて互生する。小穂は長さ約2cm,5~7個の小花をつけ,ただ1個の苞穎(ほうえい)は小穂より長く長さ2.5cmである。ドクムギが牧草に混入すると家畜中毒を起こすことがあるので毒麦というが,実際にはドクムギ自体に毒素があるのではなく,テムリンtemulenという有毒アルカロイドを産出する菌Endoconidium temulentum Prill.et Delacr.の寄生によるものである。菌に侵されなければ毒ではない。

 ドクムギ属Loliumの植物は英名をrye-grassといい,牧草になるものが多い。小穂に芒(のぎ)のあるネズミムギL.multiflorum Lam.(別名イタリアンライグラスItalian rye-grass)やホソムギL.perenne L.(別名ペレニアルライグラスperennial rye-grass)はヨーロッパ産でそれぞれ牧草,芝生用に輸入され逸出して帰化植物となった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドクムギ」の意味・わかりやすい解説

ドクムギ
どくむぎ / 毒麦
darnel
[学] Lolium temulentum L.

イネ科(APG分類:イネ科)の一年草。稈(かん)は基部で分枝し、高さ60~90センチメートル。葉は長さ約50センチメートル、幅0.3~1センチメートル。6~8月、稈の先端に長さ10~30センチメートルの直立する穂状花序をつける。花軸は太いが、小穂に比べてやや細い。小穂は無柄、腹面で花軸上に互生し、長さ1~2.5センチメートル。第1包穎(ほうえい)は退化し、第2包穎は外側につき、ほぼ小穂と同長。護穎は先が丸く、長さ7~8ミリメートル、芒(のぎ)は1.2センチメートル以下。ヨーロッパ原産で、日本全土の平地に帰化している。ときに穎果に毒があり、家畜がそれを食べて中毒をおこすことから名がついた。以下の近縁種が知られている。花序の中軸が円柱形で、小穂が細長いのがボウムギ。第2包穎が短くて護穎に芒がなく、小穂が長さ1~2センチメートルになるのがホソムギ。護穎に長さ1センチメートルの芒があり、小穂がやや長く、多少開出するのがネズミムギ(イタリアンライグラス)。いずれも日本に帰化している。

[許 建 昌 2019年9月17日]


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百科事典マイペディア 「ドクムギ」の意味・わかりやすい解説

ドクムギ

イネ科の一年草。ヨーロッパ原産の帰化植物で,世界の温〜暖帯に広く野生化している。路傍荒地にはえ,5月ごろ開花。高さ60〜90cmになり,細長い直立する穂状花序をつける。小穂は互生し,包穎(ほうえい)は小花よりも長い。種実が有毒のため,この名があるが,この毒素はドクムギ自体のものではなく,種実に有毒アルカロイド,テムリンを産出する菌が寄生することによる。

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世界大百科事典(旧版)内のドクムギの言及

【麦】より

…タデ科で,子実が麦と同じように利用されるソバも,漢字表現としては〈蕎麦〉を用い,麦の仲間と意識されている。さらに麦と植物体(茎葉)の似たイネ科植物に対しても,イヌムギ,ネズミムギ,ホソムギ,ドクムギ,エゾムギ,ハマムギなどの麦との類似を表示した名がつけられる。 栽培の麦類は重要な作物で,全世界人口の半数が食糧としている。…

※「ドクムギ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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