ナメクジ(読み)なめくじ(英語表記)Japanese native slug

改訂新版 世界大百科事典 「ナメクジ」の意味・わかりやすい解説

ナメクジ (蛞蝓)
slug
Incilaria bilineata

ナメクジ科の巻貝。殻は退化して欠く。体長6cm,体幅1cmで細長く,体表は網目状のしわがあり,粘液で湿っている。淡褐色~帯青褐色で黒斑がある。前端より後端へかけ体の両側に細い黒褐色帯があるが,さらに中央にあり3帯のこともある。頭には2対の触角があり,後触角の先端に眼がある。また右触角の後方には丸い孔になる気孔があり,これを開閉して呼吸する。足裏は平らで黄白色。高温多湿のときはい回るが,とくに夜間に活動し,野菜や花苗などを食害する。雌雄同体であるが,他の個体と交尾して互いに精子を受け渡す。交尾時期は春~秋の暖かいとき。湿った朽木,落葉,石の下などに白色球形の卵を50個内外かためて産む。寿命はだいたい1年で翌年産卵後死ぬ。日本全国,朝鮮半島,中国などに広く分布し,樹林庭園枯木樹皮の下や落葉の下,家の湿った台所などにすむ。メタホルムアルデヒドなどに誘引される性質があるので,これを利用し集めて薬剤で殺す。また,銅をきらうので銅の板や線を張って防ぐ。塩をかけるとナメクジが溶けるといわれるが,これは塩の浸透圧のため体内の水分が体外へ出て,体が縮み小さくなり死ぬためで,溶けるのではない。

 山地には体長15cmに達する大型のヤマナメクジI.fruhstorferiを産する。褐色で両側に黒色帯が縦に走り,背上には細い黒色帯があって,斜めに交わる黒斑が前後に並ぶ。近年はヨーロッパ産のコウラナメクジ類が都会に侵入し広がっている。コウラナメクジ(別名キイロナメクジ)Limax flavus(英名yellow slug)は体長10cmくらいで細長く,体色は淡黄色より灰黒色まであり,黒褐色斑を散らし,頭部背上に笠形の外套がいとう)膜がのり,その中に小さく薄い平らな退化した殻(甲羅)がある。明治の初めころ,横浜に侵入し,その後全国の都市町村に広がり分布しているが,山林にはすまない。人家ではナメクジと入れかわってこの種が多い。チャコウラナメクジL.marginatusもヨーロッパ原産。体長8cmくらいで細長く,褐色で左右両側に黒褐色斑が細い帯状に並ぶ。足裏は灰白色。近年,日本に侵入して庭園などでふつうに見られる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナメクジ」の意味・わかりやすい解説

ナメクジ
なめくじ / 蛞蝓
Japanese native slug
[学] Incilaria bilineata

軟体動物門腹足綱ナメクジ科の動物。無殻の陸生貝類で、日本全土のほか、アジア大陸に広く分布し、菜園や、庭園の低木、石の下などにすみ、家の湿った台所などにも好んで侵入する。体長6センチメートル、体幅1センチメートルに達し、灰褐色の地に、暗黒色の小斑(しょうはん)を散らしていて、体の前端から後端にかけて3本の黒帯が走っている。腹面は全長にわたって黄白色の足裏となる。頭部には2対の触角があり、背面側にある大触角の先端に目がある。また触角右後方に空気呼吸をする気孔がある。体表には網目状の細かいしわがあって、つねに粘液で湿っている。はった所には銀色の粘液の跡が残るのはそのためである。高温多湿のとき、とくに夜間に活動し、野菜や花壇、果樹に被害を与える。雌雄同体であるが、2個体が絡み合って生殖物質の交換を行い、初夏に朽ち木の洞や石の下などに白く球形の卵を数十粒固めて産む。卵からは親と同じ型をした稚ナメクジとして孵化(ふか)するが、成長は速く、孵化の翌年産卵して死ぬので、寿命は1年である。

 ナメクジを駆除するのに塩を振りかけると体が溶けるといわれているが、これは浸透圧の関係で体内の液が外に出て体が縮むので、溶けるわけではない。多くの場合ナメクジはこのような方法では死なず逃げ出すので、駆除には集めて焼くのがよい。また、ナメクジを生(なま)のままで飲むと声がよくなるとか、病気が治るという迷信があるが、場合によっては寄生虫の感染のおそれもあるし、一般に不潔な所で生活をしているので、このようなことは避けたほうがよい。現在のところナメクジによる確実な薬効は証明されていない。

 近縁種のヤマナメクジI. fruhstorferiは山地にすむ大形種で、体長15センチメートル近くにもなり、濃褐色である。近年各地の庭園などにみられる、体前方に外套膜(がいとうまく)に包まれた小さな笠(かさ)形の貝殻をもっているコウラナメクジ(別名キイロナメクジ)Limax flavusやニワコウラナメクジMilax gagatesなどはヨーロッパ原産で、観賞用植物か果樹などについて日本に移入したものと思われる。

 なお、徳之島以南の熱帯地方にすむアシヒダナメクジLaevicaulis alteは、ナメクジ様であるためこの名があるが、分類学上は後鰓亜綱(こうさいあこう)収眼目に属し、有肺亜綱柄眼目に含まれる真のナメクジ類との類縁は遠い。

[奥谷喬司]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナメクジ」の意味・わかりやすい解説

ナメクジ
Meghimatium bilineatum; Japanese native slug

軟体動物門腹足綱ナメクジ科。体長 6cm,体幅 1cm。体は淡褐色またはねずみ色で,背上縦に黒褐色帯がある。腹面の足裏は平らで黄白色。体表には網目状の皺があり,粘液で湿る。頭に大小2対の触角をもち,大触角の先に眼がある。また右大触角の後方には呼吸をするための呼吸孔がある。日本全土のほか,中国,朝鮮半島にも分布し,朽ち木や落ち葉の下など湿ったところにすみ,夜間はい出て菜園や花壇の苗を食害し,また台所などにも侵入してはい回りあとに銀線を残す。雌雄同体。初夏に 50粒ほどの白色半透明の丸い卵を産む。寿命は約1年で,産卵後に死ぬ。近縁種に,褐色地に黒帯斑のある大型種ヤマナメクジ M.fruhstorferiや,ヨーロッパ原産種で都会でよくみられるコウラナメクジとチャコウラナメクジ Limax marginataなどがある。コウラナメクジの仲間は軟体前方背上に笠形の外套膜に包まれた小さな殻をもっている。なお,ナメクジに塩をかけると体が溶けるというが,これは浸透圧によって体内の水分が体外へ出て縮むのであり,溶けることはない。

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百科事典マイペディア 「ナメクジ」の意味・わかりやすい解説

ナメクジ

腹足綱有肺類ナメクジ科の軟体動物。体長6cmほどの巻貝だが殻を全く欠き,汚れた灰褐色。触角は2対で,後触角の先端に眼がある。日本全土,朝鮮半島,中国に分布。昼間は陰湿な場所にひそみ,夜間活動する。また山地には近縁のヤマナメクジ(体長15cm)がすむ。コウラナメクジ(コウラナメクジ科)は体長7cm,体の前端近くに外套(がいとう)膜の笠をかぶる。ヨーロッパ原産だが,日本でも主として台所にすむ。メタホルムアルデヒドなどで誘引し駆除する。

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