ニューヨーク金融市場(読み)ニューヨークきんゆうしじょう

改訂新版 世界大百科事典 「ニューヨーク金融市場」の意味・わかりやすい解説

ニューヨーク金融市場 (ニューヨークきんゆうしじょう)

ニューヨーク,マンハッタン島の南端の一角すなわちウォール街を中心とした地区は,アメリカ1国のみならず世界最大の金融センターであり,ロンドンをしのぐ規模の金融市場,証券市場および外国為替市場がある。ここにはアメリカの超大銀行や一流の証券会社の本店が軒を並べ,そのほかに諸外国の大銀行や大手証券会社の支店,子会社を含め莫大な数の金融関係企業が集中している。ニューヨークはまずアメリカ自体の金融センターであり,アメリカ中の資金需給が最終的にここに集まり,〈翌日もの〉というごく短期の金融から10年,20年という長期金融や債券発行まで,あらゆる種類の金融,資本取引が行われ,長短期にわたる各種の金利が形成される。しかし同時にニューヨークは国際金融市場として,貿易金融を含む外国との間の長短期の貸借,外国からの預金投資信託,債券,株式などへの投資,外国政府や企業による債券発行など,国際的な資本,資金の調達と運用が行われる場である。ニューヨーク金融市場がこのような国際的地位を高めてきたのは,第1次大戦後アメリカ経済がイギリスと並んで世界経済のなかで重要な地位を占め,とくにその通貨たるドルが,イギリスのポンドと並んで国際的な決済通貨ないし準備通貨として広く使用されるようになったからである。それ以来,伝統あるロンドン市場との間に国際金融の主導権争いが続いたが,1929年の株式市場の崩壊にはじまった世界大恐慌は,33年の銀行恐慌ピークとしてニューヨーク金融街に大打撃を与え,その国際的地位も大きく影響をうけた。

 第2次大戦後のアメリカ経済は世界経済において圧倒的な優位に立ち,ドルがポンドを蹴落とし,実質的に唯一国際通貨として国際金融に広く利用されるようになって,ニューヨークは名実ともに世界最大の国際金融市場としての地位を確保した。それには,ニューヨーク市場が規制の少ない自由で能率的な市場であり,かつ外国との間の資本の流出入が自由,外国銀行などの進出も自由に行われたこともおおいに貢献している。その後ヨーロッパや日本の高度成長でアメリカの圧倒的地位がやや変化してドル不安(ドル危機)が起こり,一方ロンドンは,アメリカの国際収支の継続的な赤字背景として発展したユーロダラー市場の中心地として,再びその地位を盛り返してきた。しかしそれにもかかわらずドルの国際通貨としての地位は大きくは変わらず,世界各国の主な公的・私的国際決済資金や準備資金は依然としてニューヨークにおかれ,またニューヨークを通じて長短期にかかわらず巨額の国際資金調達が行われている。したがって,ニューヨーク金融市場における金利や資金需給の状況,およびそれに関連して市場を通じて中央銀行としての金融政策を遂行するニューヨーク連邦準備銀行の動向は,アメリカ経済のみならず,世界各国の経済に大きな影響を与えている。
国際金融市場
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百科事典マイペディア 「ニューヨーク金融市場」の意味・わかりやすい解説

ニューヨーク金融市場【ニューヨークきんゆうしじょう】

世界最大の国際金融市場。為替市場や株式市場を含め,ニューヨークは世界の金融センターともいわれる。その最大の特徴は,ドルが国際基軸通貨であること,さらに資金量が豊富で,高度の市場機能を持ち,参加が自由などが指摘される。 代表的な金融市場として(1)フェデラル・ファンド市場,(2)TB市場,(3)CD市場,(4)BA市場,(5)商業手形市場があげられる。(1)は連邦準備銀行預金の貸出市場で,取引期間は翌日から30日までの短期。したがって日本のコール市場に相当する。(2)は政府短期証券(1年以内)を取引する市場,(3)は譲渡可能性預金証書(CD)を取引する市場,(4)は通常バンカーズ・アクセプタンスと呼ばれるもので,銀行引受手形の市場,(5)は運転資金の調達のために企業が振り出す手形を取引する市場。いずれも米国内だけでなく世界各国から参加できる国際金融市場として機能。しかし,サブプライムローン問題にはじまる2008年の世界金融危機のなかで,リーマン・ブラザース,メリルリンチ,モルガンスタンレー,バンクオブアメリカなど,大手証券会社,投資銀行が軒並み破綻,経営悪化,公的資金資本注入に追い込まれ,大恐慌以来の世界同時不況の発信地となり,国際金融市場のトップとしての地位は大きく揺らいでいる。
→関連項目ニューヨーク株式取引所ロンドン株式取引所

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニューヨーク金融市場」の意味・わかりやすい解説

ニューヨーク金融市場
ニューヨークきんゆうしじょう
New York Financial Market

アメリカ国内市場というより国際金融機関としての性格が強く,次の5つの市場から構成されている。 (1) フェデラル・ファンド市場,(2) 銀行引受手形市場,(3) 財務省証券市場,(4) 譲渡可能 CD市場,(5) 商業手形市場。このうち外国銀行はフェデラル・ファンド市場および銀行引受手形市場に参加しており,各国通貨当局は,財務省証券市場で外貨準備を運用している。

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世界大百科事典(旧版)内のニューヨーク金融市場の言及

【国際金融市場】より

…国際間(クロスボーダー)の金融取引がかなりの規模で行われている市場をさす。金融期間の長短によって短期国際金融市場と長期国際金融市場とに分けられ,前者を狭義の国際金融市場,後者を国際資本市場とよぶ場合がある。 ある国の金融市場が国際金融市場であるためには,次のような条件をできるだけ多く満たす必要がある。(1)当該国の通貨が国際取引通貨,準備通貨として広く使われていること。そのためには通貨の金への交換性あるいは政治・経済力を背景として通貨の信認が得られていなければならない。…

※「ニューヨーク金融市場」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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