ニュー・カラー(読み)にゅーからー(英語表記)New Color

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニュー・カラー」の意味・わかりやすい解説

ニュー・カラー
にゅーからー
New Color

1960年代後半から1970年代初めにかけて、アメリカの新しい世代の写真家たちが、カラー写真で作品を発表しはじめた。彼らの作品は「ニュー・カラー」と総称される。これは写真評論家サリーオークレアSally Eauclaire著『ザ・ニュー・カラー・フォトグラフィ』The New Color Photography(1981)のタイトルからとられたものである。そのなかでオークレアはニュー・カラーに含まれる写真家として、ウィリアム・エグルストン、スティーブン・ショア、ジョエル・スターンフェルド、ジョエル・メイエロウィッツレン・ジェンシルLen Jenshel(1949― )らを挙げている。このグループについてはオークレアの著書『ニュー・カラー/ニュー・ワーク』New Color/New Work(1984)、『アメリカン・インディペンデンツ』American Independents共著。1987)でさらに展開された。

 当時カラー写真が芸術として認められていなかった背景には、色の再現性や保存の問題といったその技術的な限界だけではなく、モノクロ写真が芸術的でカラー写真はそうではないという根深い固定観念があった。しかし1976年にMoMA(ニューヨーク近代美術館)でエグルストンの写真展が開催され、同展はニュー・カラーをめぐる議論の礎(いしずえ)となった。

 もちろん、それまでカラー写真が存在していなかったわけではない。カラー写真は20世紀初頭から存在していた。1907年にリュミエール兄弟が開発したオートクローム(初めて工業化されたカラー写真法。ジャガイモデンプンをガラス版に塗布して使用)は、20世紀初頭に絵画主義ピクトリアリズム)写真家たちの人気を博した。1935年にはコダクロームが、その数か月後にはアグフアカラー(世界初の多層発色内式反転フィルム)が発売された。だが、実際にカラー写真を用いる芸術家として初めて広く認められた写真家はエリオット・ポーターEliot Porter(1901―90)で、1946年イーストマン・コダック社によって導入されたダイ・トランスファー法(転染法。プリント上へ染料を転写する)を習得した。この技法は煩雑ではあるが、写真家が自在に色調彩度をコントロールし、高品質な独自の色をつくり出せるという点で画期的なものだった。1950年代にはアマプロ問わず多くの写真家がカラー写真に取り組んだが、そのなかでも特筆すべき写真家にエルンスト・ハースErnst Haas(1921―86)がいる。ハースは1950年代初頭にカラー写真の制作を始め、反射ブレなどを用いた抽象的なイメージを作り出した。

 だが「ニュー・カラー」の写真家たちは、必ずしも従来のカラー写真に影響を受けて登場したのではなかった。彼らはむしろ、アンリ・カルチエ・ブレッソン、ウォーカー・エバンズ、ロバート・フランク、リー・フリードランダーといった、モノクロ写真によって自己表現としての写真を追求する先達に刺激を受けて登場したのであり、その点においてこそ彼らは新しいカラー写真(ニュー・カラー)を築いたといえる。つまりニュー・カラーの写真家たちは、カラー写真という呪縛から初めて解放されたカラー世代の写真家なのである。したがって彼らの作品を、ただ単にカラーという側面から見るだけでは不十分である。むしろ前述の写真家たちや同時代のニュー・トポグラフィックスなどとの幅広い関係のなかで見ていくことが重要である。

[竹内万里子]

『Sally EauclaireThe New Color Photography (1981, Abbeville Press, New York)』『Sally EauclaireNew Color/New Work (1984, Abbeville Press, New York)』『Jonathan GreenAmerican Photography; A Critical History 1945 to the Present (1984, Harry N. Abrams, New York)』『Sally Eauclaire, Jim Dow et al.American Independents; Eighteen Color Photographers (1987, Abbeville Press, New York)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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