ハム(豚肉の加工品)(読み)はむ(英語表記)ham

翻訳|ham

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハム(豚肉の加工品)」の意味・わかりやすい解説

ハム(豚肉の加工品)
はむ
ham

豚肉の加工品。豚肉を塩漬(えんせき)(キュアリングcuringともいう)後、薫煙(くんえん)、湯煮(ゆに)したものをいう。ハムとは本来ブタのもも肉のことで、転じてその部分を塩漬、薫煙などして加工したものを意味するようになった。

河野友美・山口米子]

歴史

1000年ごろのギリシアにはすでに、肉を薫煙や塩漬けにしたもので、ハムの原形のようなものがあった。ホメロスの詩のなかに、これらの肉加工品に関する記述がある。肉を主要な食料とするヨーロッパでは、早くから保存用の肉加工品がつくられ、ローマ時代にはハムが遠征軍の携帯食として用いられていた。一方、日本では明治になってから肉食そのものが一般化した。そのため、ハムをはじめとする肉加工品の発達が遅く、大量生産されて広く一般に食べられるようになったのは第二次世界大戦後である。日本でのハム製造は、1872年(明治5)に長崎の片岡伊右衛門がアメリカ人ペンスニから製造法を学び、工場を建設し、製造を開始したとあるのが最初とされている。その翌年、北海道開拓使庁が東京農事試験場で、さらに76年に札幌養豚場でハムを試作している。74年には神奈川県鎌倉郡下柏尾村(横浜市戸塚区)でイギリス人カーティスW. Curtisが製造・販売を始めた。87年にはこの技術を受け継いだ斉藤満平がハム製造を開始、またカーティスの工場に勤めていた益田直蔵も同じころ独立してハムづくりを始め、これらは通称「鎌倉ハム」とよばれた。第一次大戦後、日本に居留したドイツ人によって、さらに技術が高められた。第二次大戦後、魚肉ハムの普及を経て、品質規格も整い、各種の肉加工品が販売されるようになった。

[河野友美・山口米子]

製法

原料肉を目的に応じて切断、整形し、次に食塩と発色剤をまぶし、重石(おもし)をかけて血絞りをする。血絞りによって、変質の原因となる血液を除き、同時に肉色を美しく保つための発色剤がこの段階から用いられる。血絞りののち、塩漬剤(食塩、発色剤などの食品添加物、香辛料調味料)を用いて塩漬を行う。この工程によって、ハムの風味、肉質、色調が整えられる。塩漬の方法は、塩漬剤を水に溶かしてその中に漬け込む。または、塩漬液(ピックルとよぶ)を肉の内部へ注入する。塩漬剤を粉状で擦り込む方法もあるが、時間がかかるため、近年は塩漬期間の短い液漬法と注入法が併用されることが多い。塩漬・熟成後、骨付きハム以外はケーシングに詰めて薫煙、湯煮などの加熱を行う。製品によって、加熱をするものとしないものとに分けられる。骨付きハム、ラックスハムは薫煙だけで、ほかのボンレスハムロースハム、その他は薫煙後、加熱する。加熱しないものは濃い紅色で、薫煙によって保存性をもたせるとともに風味づけを行う。加熱したものは肉色は薄いピンク色で、加熱によって保存性をもたせ、薫煙は風味づけ程度である。薫煙には温度によって冷薫、温薫、熱薫の三つがあり、製品に応じた方法がとられる。薫煙の煙の成分は200種以上のものが含まれ、薫煙によって色、風味、保存性が得られる。

[河野友美・山口米子]

種類

JAS(ジャス)(日本農林規格)では、ハム類を骨付きハム、ボンレスハム、ロースハム、ショルダーハムベリーハム、ラックスハムに分類している。それぞれについて品質、表示の規格を設けている。品質については品位(外観、色沢、香味、肉質等の採点結果)、製品中の水分(または原料赤肉中の水分や粗タンパク質)、原材料(原料肉、調味料、香辛料、食品添加物)、異物、内容量、容器または包装の状態について規格化されている。骨付きハムはブタの骨付きもも肉をそのまま塩漬、薫煙や加熱したもの、また、サイドベーコン(豚肉を半丸枝肉〈枝肉を二分したもの〉ごと塩漬、薫煙したベーコン)の内もも肉を骨ごと切り取って整形したものもいう。ボンレスハムはブタのもも肉を塩漬後骨を抜き、ケーシングに詰め、薫煙、湯煮または蒸煮(じょうしゃ)する。ロースハムはロース肉を、ショルダーハムはかた肉、ベリーハムはばら肉を用いてボンレスハムと同様につくる。ラックスハムはかた肉、ロース肉またはもも肉を用い、塩漬後ケーシングに詰めて薫煙したもので加熱は行わない。通称、生(なま)ハムとよばれているものである。そのほか、輸入品にはそれぞれの国特有のものがあり、名称もいろいろである。

 以上のハム類は豚肉のみを用いた製品であるが、日本特有のものに、豚肉以外にウシ、ウマ、ヒツジまたはヤギ、家兎(かと)の肉を含むプレスハム、さらに家禽(かきん)と魚肉も材料に含むことのできる混合プレスハムがある。また、魚肉を主材料にしたものに魚肉ハムがある。JASでは各製品ごとに細かく規格がつくられ、食品添加物などの使用制限や表示基準が設けられている。これらのマークや等級、材料名などの表示を見て内容を確かめることが、ハム類を選ぶ基本である。ハム類は丸ごとでの販売以外に、店頭で薄切りにしたもの、薄切りにして真空包装したものなどがある。保存料がほとんどのものに含まれているが、とくに無包装の薄切りにしたものでは、2、3日以内に食べるほうがよい。また、保存はかならず冷蔵庫で10℃以下に置く必要がある。薄切りにして密封包装したものも多く出回っており、パックごとに賞味期間の表示と10℃以下という保存条件がつけられる。

[河野友美・山口米子]

栄養・利用

タンパク質、ビタミンB1、B2ナイアシンのよい給源である。タンパク質は14~19%ほど含まれ、ボンレスハムがもっとも含量が多い。脂肪は使用する部位によってかなり差があり、ショルダーハム、骨付きハム、ロースハムに多く、14~18%含まれる。ボンレスハム、プレスハム、混合プレスハムでは4%前後と脂肪が少ない。

 食べ方としては、肉質の風味のよいものは薄切りにして生(なま)のままがよい。オードブル、サラダ、サンドイッチにする。とくに生ハムでは、薄くスライスしたものをパパイヤ、メロンなどの果物と組み合わせることが多い。加熱料理としては、厚めに切ってハムステーキやバーベキュー、丸ごとのベイクドハム、そのほかワイン煮、ハムエッグ、フライ、フリッターなどが一般的である。和風料理では酢の物、かき揚げなどに、中国風料理では、ハム・卵・キュウリの酢の物、冷麺(れいめん)などに用いられる。

[河野友美・山口米子]

中国のハム

中国では、ハムを火腿(フオトイ)とよんでいる。西洋式のハムと違い、中国のハムはひづめまでついているブタのもも肉を材料とする。塩と砂糖を均等にもみ込み、熟成させて乾燥する。中国の山東省武梁祠(ウーリャンツー)から出土した画像石に、1~2世紀ごろの厨房(ちゅうぼう)が刻まれており、豚のもも肉(火腿)が鳥や魚などと並べられている。浙江(せっこう/チョーチヤン)省の金華(きんか/チンホワ)、雲南(うんなん/ユンナン)省の宣威(せんい/シュワンウェイ)などが中国でもっとも有名な火腿の産地である。

[鄭 耀 星]

製法

豚のもも肉、食塩、砂糖、硝石を使う。もも肉は長さと大きさが適当な中形で、重さ10~12キログラム、皮が薄く、赤身の多いほうがよい。塩は肉の重さの9%、砂糖は1%、硝石は0.05%以下を使う。

 まず、もも肉を整形する。皮の表面に残留する細毛および付着した脂肪を除去し、血管の中に残っている血はよく絞り取る。周りの脂肪を取り去って、水できれいに洗い、24時間0~2℃で予冷する。3段階に分けて塩もみを行う。1回目は肉の重さの4%の塩および砂糖などを混ぜた調味料をもも肉にまぶして、手でよくもむ。二つ割りにしたタケを交互に組み合わせてつくった床の上に置き、もも肉を5層以下積んで、重石を最上層にのせておく。室温を3℃くらいに保ち、1週間おいて、2回目の塩もみを行う。その際の調味料の用量も1回目と同じにし、17日間ねかせる。残った調味料は3回目の塩もみに使う。2回、3回の塩もみの際はいずれも切り返して置く。最初の塩もみから35日間くらい経過したのち、2時間水浸してよく洗い、形を修整し、2~3日間天日にさらし、肉が硬くなったら、温度10℃、相対湿度70%くらいの風通しのよいところで自然乾燥させる。約6か月間で発酵熟成するので、火腿を覆っているカビをふたたび水で洗浄、修整し、乾かして仕上げる。

[鄭 耀 星]

利用

火腿は長く保存でき、食べ方もいろいろある。蜜火腿(ミーフオトイ)は、皮付きの火腿を大きいまま酒で煮て柔らかくし、同時に塩出しをし、さらに長く蒸したのち、大きい角切りにし、蜂蜜(はちみつ)と酒で煮たものである。透き通っているので、薄切りにして重ね盛りをすると美しい。火腿醸冬瓜(フオトイニャントンコワ)は、薄切りにしたトウガンと火腿を一枚ずつ交互に挟んで蒸し上げたもので、色、香、味が調和した有名な火腿料理である。また、トウガンのわたをくりぬき、賽(さい)の目に切った火腿や、シイタケなどを入れ、澄ましスープを加えて、蒸す調理がある。これはトウガンがそのまま器になる名菜火腿冬瓜盅(フオトイトンコワチヨン)である。

[鄭 耀 星]

『日本食肉加工協会他監修『ハム・ソーセージ関連三法規』(1993・食肉通信社)』『古澤栄作著『新ハム・ソーセージ入門』新版(1998・日本食糧新聞社)』『新村裕他著『新食肉加工Q&A ハム・ソーセージ製造』(2001・食肉通信社)』『増田和彦著『ソーセージ物語――ハム・ソーセージをひろめた大木市蔵伝』(2002・ブレーン出版)』『日本加工食品新聞編『ハム・ソーセージ年鑑』各年版(食品経済社)』

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