ハルナック(英語表記)Adolf von Harnack

改訂新版 世界大百科事典 「ハルナック」の意味・わかりやすい解説

ハルナック
Adolf von Harnack
生没年:1851-1930

ドイツプロテスタント神学者,教会史家。ベルリン大学教授,プロイセン学士院会員,プロイセン国立図書館長,1911年からみずから創設に努力したカイザー・ウィルヘルム学術振興協会総裁。神学のみならずドイツ文化の中心人物の一人として活躍した。ベルリン大学神学部教授として長く教会史を講じ,その名声は世界的であった。専門分野である古代教会史をはじめ広範な分野についておびただしい研究を発表した。主著《教理史教本》3巻(1885-87,4版1909)ではキリスト教教理の成立を,福音がギリシア化していく過程として解釈する独創的な見解を打ち出した。本書はキリスト教思想史の解釈として今日にいたるまで最も重要な著作の一つである。彼の名を一般に有名にしたのは《キリスト教の本質》(1900)である。彼はキリスト教の本質を,パウロを含む後代の二次的所産から区別されるべきイエスの純粋な福音に求めた。純化されたイエスの福音を確立することが,近代文化に対するキリスト教の真の意義を明らかにすることになると信じた彼は,キリスト教を学問的に研究するのみならず,近代文化とキリスト教との統一を志向した。しかしゲーテ的世界観に親近的なその立場は,近代文化の問題性を十分に洞察しない近代神学の限界を露呈するものとして,K.バルトなど新興弁証法神学者から激しく批判されることになった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハルナック」の意味・わかりやすい解説

ハルナック
はるなっく
Adolf von Harnack
(1851―1930)

ドイツのプロテスタントの代表的な教会史家。ルター研究で知られる神学者テオドシウス・ハルナックTheodosius Harnack(1817―1889)の子として、ロシアのドルパットで5月7日に生まれる。生地とライプツィヒの大学で神学を学んだのち、ライプツィヒ大学の教会史教授となる。ギーセンマールブルク大学の教授を経て1888年以降ベルリン大学の教授となる。自由主義神学の立場にたつリッチュル学風を受け継ぎ、グノーシス主義研究をはじめ、広範な歴史神学の研究を発表。主著『教理史』3巻(1885~1889)では、古代の三一論(三位(さんみ)一体論)教理の成立をキリスト教の漸進的ギリシア化としてとらえ、急激なギリシア化から異端が生まれたとする。主著に『キリスト教の本質』(1900)、『3世紀までのキリスト教の宣教と展開』(1903)、『マルキオン』(1921)などがある。キリスト教と近代文化の総合を目ざし、プロイセンの文化行政にも参画して、国立図書館長などを兼任した。1930年6月10日旅行先のハイデルベルクにて没した。

[小川圭治 2018年1月19日]

『山谷省吾訳『キリスト教の本質』(1977・玉川大学出版部)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハルナック」の意味・わかりやすい解説

ハルナック
Harnack, Adolf von

[生]1851.5.7. エストニア,ドルパト
[没]1930.6.10. ハイデルベルク
ドイツの神学者,教会史家。父は実践神学者。ドルパト,ライプチヒで修学。 1874年ライプチヒ大学の教会史私講師。 76年員外教授。 89~1921年ギーセン,マールブルク,ベルリンの各大学教授を歴任。プロシア学士院会員,王室図書館長などの要職につき,広い影響を与えた。 A.リッチュルの影響を脱してキリスト教の歴史的理解を重視,キリスト教教義は福音書に基づくギリシア精神の結実であると主張。キリスト教の本質をイエスの説教のなかに見出そうとした著書『キリスト教の本質』 (1900) は出版されるや多大の反響を呼び,各国語に翻訳された。主著『教理史教本』 Lehrbuch der Dogmengeschichte (3巻,1886~89) ,『古代キリスト教文献史』 Geschichte der altchristlichen Literatur (3巻,1893~1904) 。

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百科事典マイペディア 「ハルナック」の意味・わかりやすい解説

ハルナック

ドイツの教会史家,プロテスタント神学者。ベルリン大学教授。該博な知識にもとづく古代教会史研究のほか,教理形式史の大著《教理史教本》(1885年―1887年),イエスの福音と近代文化の調停を図り,K.バルトの激しい批判を呼んだ《キリスト教の本質》(1900年)で知られる。
→関連項目リッチュル

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世界大百科事典(旧版)内のハルナックの言及

【上毛三山】より

…古く上毛野(かみつけぬ)国と呼ばれた群馬県にある赤城山榛名(はるな)山妙義(みようぎ)山の三山の総称。関東平野北部から望むことができ,いずれも名山として古来上州の人々に親しまれてきた。…

※「ハルナック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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