バスク人(読み)ばすくじん(英語表記)Vascongado スペイン語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「バスク人」の意味・わかりやすい解説

バスク人
ばすくじん
Vascongado スペイン語
Basque フランス語
Basque 英語

ピレネー山脈の西端にかけて、ビスケー(ガスコーニュ)湾岸一帯に居住する民族。バスク人の定義づけは諸説あるが、元来はバスク語を話す人々の意味であった。しかし、バスク語を話す人口はしだいに減少し、この地域に住む人口約290万人のうちその数は正確には不明であるが、バスク語を話す人口は、スペイン側に約62万人(1995)、フランス側に約8万人、合計約70万人程度といわれている。バスク人は、フランス領ではラブール、バス・ナバル、スールの旧3地方に、スペイン領ではギプスコアビスカヤアラバの3県とナバラ自治州とに、それぞれ住んでいる。彼らは、イベリア半島においてもっとも古くから居住する民族であるが、その系統と起源については、イベリア系、カフカス系あるいはベルベル系などの諸説があり、明らかではない。イベリア半島には、古代から中世にかけてラテン語が広まったが、バスク人はひとりバスク語を守った。伝統的な服装ベレー帽など)、音楽、舞踊競技ハイアライ、木割りなど)を固守している。

[斉藤 孝]

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旺文社世界史事典 三訂版 「バスク人」の解説

バスク人
バスクじん
Basques

フランスとスペインとの国境地帯のバスク地方に住む民族
現在,フランスとスペインに約300万人が居住し,言語・服装・舞踏・競技などに独自の文化を保持する。特にバスク語は非インド−ヨーロッパ語系で,その系統関係が長い間論議の的になってきた。10世紀初めにバスク人はナヴァラ王国を樹立し,のちにはアラゴン,カスティリャに支配された。しかし,19世紀まではある程度の自治権を認められていたうえに,人民戦線政府が一時自治を認めたが,ナチスによるゲルニカ爆撃で崩壊した。その後も独立の気運が強く,1959年「バスク祖国と自由」(ETA)が結成され,誘拐・テロなどでフランコ政府に対する抵抗運動を展開した。フランコ没後の1979年に地方自治が再び認められたが,ETAに対しては,92年のバルセロナオリンピック時に封じ込めが行われた。

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世界大百科事典(旧版)内のバスク人の言及

【イベリア半島】より

…前4500年ころ,地中海東部から新石器文化の波が及ぶと,イベリアにも大きな変化が現れ,集落が生まれ,農耕と家畜の飼育が始まり,土器が作られやがて青銅器も出現した。ドルメンやメンヒルと呼ばれる巨石記念物が各地につくられ,今日なお学問的に未解明の問題を残すバスク人の遠い祖先が,どこからともなく移住してきた。 前1000年,イベリア史は再び大きな変革期を迎える。…

【ガスコーニュ】より

…たとえば,ガスコン方言は,南仏オック語の中でも,きわめて特異で,スペイン北部の方言との類似を指摘されるが,その用いられる範囲は,ギュイエンヌ南部にも及んでいる。ガスコーニュの名称は,580年ころ,フランク王国の領域であったこの地域に,西ゴート王に追われピレネーを越えて移住してきたバスコン人Vascons(バスク人Basques)に由来する。この移住民が,その呼称にもかかわらず,実際にバスク人であったかについては異論もあるが,いずれにせよ,彼らはガロンヌ以南の地域に広く定住し,フランク王国の権威に抵抗し,その実質的な支配を許さなかった。…

【カスティリャ王国】より

…このために8世紀の間に早くもその景観を特徴づけるほど多くの城塞,すなわちカステラcastellaが築かれ,これがやがて地名として従来のバルドゥリアBarduliaに取って代わった。 住民はかつてのローマ帝国期の文明化の影響が微弱な山岳部原住民が主で,バスク人も多かった。レオン王は伯(コンデ)を任命して統治,防衛,入植活動を進め,この過程で884年に建てられたブルゴスがやがてカスティリャの中心となった。…

【人種】より


【概念】
 政治家という人種は,というような比喩的な用法を除いても,人種の概念は生物学的な意味から逸脱していることが多い。アーリヤ人種,スラブ人種は言語学的概念を重ね合わせたものであり,マヤ人種,スキタイ人種は文化的集団や政治的統一体を人種と見なした例である。ユダヤ人種は初めはユダヤ教を信ずる人々に対する呼称であったが,現実には複雑な要因がからみあって多様な特徴をもつにいたった〈ユダヤ人と呼ばれる人〉に対して人種という言葉が用いられている。…

【バスク】より


[住民]
 バスク地方には,スペイン側に約265万人,フランス側に約35万人が住んでいるが,今日では,このうちスペイン側の約60万人,フランス側の約4万人がバスク語を話せるにすぎない。このほか,南北のアメリカ大陸(アルゼンチン,ウルグアイ,チリ,ベネズエラ,メキシコ,カリフォルニア州,カナダ)には,移住したバスク人の子孫約10万人が暮らしている。バスク人の起源については,イベリア系,カフカス系,ベルベル系など諸説があり,定説はないが,体型(前後に長い長頭),古語などからみて,バスク人の一部は,クロマニョン人の末裔であるとの説が提唱されている。…

※「バスク人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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