バタク族(読み)バタクぞく(英語表記)Batak

改訂新版 世界大百科事典 「バタク族」の意味・わかりやすい解説

バタク族 (バタクぞく)
Batak

インドネシア,スマトラ島北部のトバ湖周辺に住むプロト・マレー系の民族。人口約280万。カロ,シマルングン,パクパク,トバ,アンコラ,マンディリンの6グループに大別される。今日ではこれらバタク族は北スマトラの中心都市メダンや東スマトラのみならず,ジャワ島など,とくにジャカルタに多く移住している。トバ・バタク族の伝承によれば,すべてのバタク族はシ・ラジャ・バタクを共通の祖先としており,彼は神によってトバ湖西岸中央にある丘に天から降ろされたという。アウストロネシア語族に属するバタク語はカロ,パクパク,シマルングン,トバの4方言に分かれる。生業は農業で,水稲陸稲タロイモヤムイモ,トウモロコシなどを栽培し,馬,牛,水牛,豚などを飼う。宗教は土着信仰に加えてキリスト教(プロテスタント)やイスラムがかなり浸透している。農村部の地縁的な集落はトバ方言でフタと呼ばれ,一つの氏族が共住している。集落は掘割りと高い土壁や竹垣で囲まれていたが,これは外敵の攻撃を防ぐためであった。フタの内部に高床式の伝統家屋が集まり,その周囲に小家族が分住する家屋ができている。ソポーと呼ばれる集会所は結婚式,葬式,ときには市場として利用されてきた。また穀倉は高床式で,その最上部には家を出た未婚の男子がネズミ番をかねて同年者と寝起きし,食事,病気のときだけ家に帰った。トバ・バタク族のフタの前面にあるバンヤンジュベンガルボダイジュ)は宇宙樹を意味する。社会の基本は父系親族組織で,政治,土地所有,相続婚姻,祖霊祭祀,裁判,居住地の選択などにかかわり,ともに食べ,共有の財産をもち,ともに尊敬され,ともに恥をかくべき仲間とされてきた。結婚によって嫁を出した親族と嫁を受け入れた親族との間に緊密な関係が成立し,生まれた男の子は母方の親族から妻をめとる傾向がある。嫁を出した側をトバ・バタク族ではフラ・フラといい,婿方の親族(ボル)に対して宗教的霊力をもつとされる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のバタク族の言及

【棺】より

…木製の棺蓋をとりつけるが,それには元来,祖先像たる男女のうずくまった姿勢の木彫像がある。同じくバタク族の一部族では,インド東端のアッサムのアオ族やコニアク・ナガ族と同様,犀角(さいかく)をもって鳥の形に棺をつくる。 ポリネシアのサモア諸島の棺は舟であり,人が死ぬと芳香性の油で遺体をすっかりふき,階級によって異なるが樹皮布(タパ)あるいは筵(ござ)で包み,棺とされる舟にいれて,その全体を樹皮布あるいは筵でさらに上から包んで,ひもで締めて土葬する。…

【住居】より

…住居と宇宙観ないし世界観とのかかわりである。このような例として,多彩なインドネシアの民族建築の中でもひときわ異彩を放つスラウェシのトラジャ族の住居やスマトラのバタク族の住居があげられる。それらの住居のもつけた外れの装飾性に,その民族の宇宙観の現れを見ることができる。…

【スマトラ[島]】より

… 民族は地域により複雑である。西岸沖合ニアス島のニアス族,本島中部のバタク族などはプロト・マレー系であるが,北部のアチェ族,西部高原のミナンカバウ族,南部のランポン族,東海岸のマレー人などはいずれも開化(第2次)マレー系である。このほか海岸各地にインド・アラブ系,中国系住民もおり,南部にはジャワ族の集団移住地もみられる。…

【東南アジア】より

…ほんとうの意味での水稲耕作が確立するまでには今しばらく時間がかかりそうである。(5)島嶼部高地区 島嶼部高地の典型例はスマトラのバタク族やスラウェシ(セレベス)のトラジャ族の居住地である。これらの居住地の平均標高は約1000mである。…

【トバ[湖]】より

…湖の中央にはサモシル島(長さ48km,幅16km)が細長く横たわる。トバ湖を中心とするバタク高原一帯はバタク族の居住地域で,かつて彼らはこの湖を神聖視し,外国人の接近を許さなかった。しかし20世紀に入ってから,バタク族の文化的発展と,高原の快適な気候,さらに美しい自然景観のため,北部スマトラ有数の休養地,観光地となった。…

※「バタク族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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