ヒツジバエ(読み)ひつじばえ(英語表記)warble fly

翻訳|warble fly

改訂新版 世界大百科事典 「ヒツジバエ」の意味・わかりやすい解説

ヒツジバエ (羊蠅)
sheep botfly
nasal botfly
Oestris ovis

双翅目ヒツジバエ科の昆虫幼虫ヤギやヒツジの鼻腔(孔)や前頭洞,上顎(じようがく)洞などに寄生する。成虫ミツバチよりもやや小型。体は小さな点刻で覆われている。雌成虫は初夏から秋にかけて発生し,ヤギやヒツジの頭のまわりを飛びながら粘液とともに鼻孔に幼虫を産みつける。幼虫は次の春までの8~10ヵ月間に成熟し,ヒツジのくしゃみとともに鼻孔から脱出して数時間以内に蛹化(ようか)する。さなぎの期間は3~6週,羽化した成虫は口が退化し食物をとらないで約1ヵ月間生存する。発生は年1回。寄生をうけたヒツジは,激しく頭を振ったり,鼻を土にこすりつけたりする行動が見られる。寄生部は炎症を起こし,くしゃみが連続し,ときには呼吸困難となる。鼻腔からの出血も見られ,幼虫が移動する際には非常な痛みを伴い,多数が寄生した場合,死亡することもある。ヒトやイヌに寄生する例もある。牧童などの目,鼻,唇,口などに幼虫が産みつけられることがあるが,1齢以上には発育しない。ヒトの場合には,ヒツジやヤギの少ない地方に被害が多い。日本では北海道に生息している。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒツジバエ」の意味・わかりやすい解説

ヒツジバエ
ひつじばえ / 羊蠅
warble fly

昆虫綱双翅(そうし)目環縫(かんぽう)亜目ヒツジバエ科の総称、およびそのなかの1種。体長10~12ミリメートル。体は白色の微毛に覆われ、一見ミツバチを思わせる。触角は小さくて黄色を帯び、第3節は黒色。口器は退化している。胸背は褐色で点刻が散在する。腹部は黒色または黒褐色を呈し、白色の不規則紋をもつ。脚(あし)は黄色で黒色毛を生ずる。成虫はヒツジの鼻孔付近に1齢幼虫を産み付け、幼虫は鼻孔から鼻道や上顎洞(じょうがくどう)に移動し、粘膜に鉤着(こうちゃく)し寄生する。幼虫期間は8~10か月、成熟幼虫はくしゃみの際に鼻孔から落ち、土中で蛹化(ようか)する。蛹(さなぎ)は3~9週間で羽化する。

 日本にはヒツジとともに移入されたヒツジバエOestrus ovisだけが北海道に定着している。世界には4亜科33種がおもに大陸に分布し、いずれも哺乳(ほにゅう)類の皮膚、粘膜に外部寄生する。多産地ではしばしば間違ってヒトの目に産み付けられ、結膜炎などを引き起こして問題となる。一般には寄主が家畜である場合、畜産害虫として嫌われている。

倉橋 弘]


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世界大百科事典(旧版)内のヒツジバエの言及

【ハエ(蠅)】より

…幼虫がおもに鱗翅目(チョウ,ガ)の幼虫に寄生するヤドリバエ科(ヤドリバエ(イラスト))。幼虫がヒツジの鼻孔に寄生するヒツジバエ科(ヒツジバエ)。成虫の口器は退化し,幼虫はウマの消化管に寄生するウマバエ科(ウマバエ)など,蛹生群には,おもに鳥類,哺乳類に寄生し吸血するシラミバエ科(シラミバエ(イラスト))。…

※「ヒツジバエ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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