ヒラムシ(読み)ひらむし

改訂新版 世界大百科事典 「ヒラムシ」の意味・わかりやすい解説

ヒラムシ (平虫)
flatworm

渦虫綱多岐腸目Polycladidaに属する扁形動物総称。体が扁平なところからこの名がある。すべて海産で,潮間帯の石の裏側にすむものが多いが,なかには他の動物に内部あるいは外部寄生するもの,または浮遊生活するものもある。体は幅広い葉状帯状体長は0.7~50mm,体の表面をおおっている細胞層には繊毛をもった繊毛細胞,腺細胞,感覚細胞などがあり,腺細胞から液を分泌し,繊毛によって岩の上などをすべるように移動する。

 体の前方に脳があり,光線を感ずる単眼はいわゆる色素杯単眼で組織の中に埋没している。種類によっては体の前縁に沿って多数並んでいるものもある。腹面の中央に口があり,口から咽頭,腸とつづくが肛門はない。口はよく開いて大きな餌をのみこむことができる。咽頭から前後左右に多少放射状に腸が分かれ,さらにこれから多くの分枝をだして体の周縁に達している。この腸は消化吸収の働きをし,不消化物は口から外へだされる。排出器は原始排出器であって,体側を前後に走る1対の排出管から組織内に小枝が分枝して入りこんで排出物を集め,それを排出管へ送り,さらに排出孔より外にだしている。

 雌雄同体で,同一個体に雌と雄の生殖器官があるが,体制に比較して,その構造は複雑である。交尾によって体内で受精した卵は海中に産みだされ,発生がすすんで直接幼体になるか,ミュラー幼生Müller's larvaやゲッテ幼生Goette's larvaになってしばらく浮遊生活をし,その後変態して成体になる。

 一般に肉食性で,小型甲殻類,二枚貝,環形動物などほとんどどんな動物でもとらえたものを食べる。イイジマヒラムシStylochus ijimaiやフロリダ産のS.frontalisカキを好んで食べるので養殖ガキに大きな被害を与える。

 潮間帯でふつうに見られるヒラムシ類にはツノヒラムシPlanocera reticulataウスヒラムシNotoplana humilis,チチイロウスヒラムシN.japonica,カリオヒラムシCallioplana marginataなどがある。浮遊生活するのはオキヒラムシPlanocera pellucidaで,太平洋,大西洋インド洋などに分布する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒラムシ」の意味・わかりやすい解説

ヒラムシ
ひらむし / 平虫

扁形(へんけい)動物門渦虫綱多岐腸目Polycladidaに属する海産動物の総称。世界各地の海にすむ。体は多くは扁平な葉状で、卵円形、楕円(だえん)形、細長いものもある。体長5ミリメートルぐらいのものから10センチメートルにも及ぶものがある。多くは褐色や乳白色であるが、浅海性の種のなかには美しい色彩や模様を示すものもある。口は腹面中央に開き、腸は咽頭(いんとう)から細かく分岐して放射状に続く。乳白色の生殖腺(せん)も透けてみえる。肛門(こうもん)はない。目は多くの種で細かい黒色の眼点に分かれていて、前端近く2か所に分散したり、前縁に沿って多数並んでいたりして分類上の重要な特徴になる。雌雄同体であり、幼生を生ずる間接発生、または直接発生をする。

 日本沿岸では、潮間帯の磯(いそ)の石の下などにすみ、体表の繊毛で滑るようにはって移動するが、体側をひれのように動かしてよく泳ぐものもある。沖合いのやや深い海底にすむものもある。未成熟の小さい個体はよく浮遊生活をして、洋上の流れ藻などについている。比較的容易にみられる種には、ウスヒラムシ、イイジマヒラムシ、ツノヒラムシ、ヤワヒラムシ、ミノヒラムシ、マダラニセツノヒラムシなどがある。マダラニセツノヒラムシは体長8センチメートル、幅4センチメートルぐらいまで達し、側縁は波状を呈する。体は濃紫色で不規則な白斑(はくはん)が散布する。吸盤を前方下面にもち、よく泳ぐ。関東地方以南、ことに瀬戸内海などでカキ養殖の筏(いかだ)にみられる。この類はカキを食害することがある。

[峯岸秀雄]


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百科事典マイペディア 「ヒラムシ」の意味・わかりやすい解説

ヒラムシ

渦虫綱多岐腸類に属する体が扁平な扁形動物の総称。体は楕円形〜帯状で,長さ2〜40mm。体の表面は繊毛でおおわれる。口は体の腹面中央に開き,樹枝状の腸の末端は行きづまりで,肛門はない。すべて海産で,多くは海岸の石の下などにすむ。ウスヒラムシ,ツノヒラムシなど種類が多い。

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