ヒル(蛭)(読み)ひる(英語表記)leech

翻訳|leech

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒル(蛭)」の意味・わかりやすい解説

ヒル(蛭)
ひる / 蛭
leech

環形動物ヒル綱Hirudineaに属する種類の総称淡水や陸上の湿地などに広く生息するほか、海にすむ種類も多く、それらの大部分魚類甲殻類、カメなどに寄生する。

[今島 実]

形態

体は細長く扁平(へんぺい)で、多数輪状の縞(しま)があるが、真の体節の数は種類や体の大小に関係なく、すべて34節である。体表には体環溝、目、感覚突起、乳頭などがあり、体の前後両端の腹面にはそれぞれ1個の吸盤がある。前方の吸盤の底には口があり、口から続く消化管の形には、種類によって特徴があり、吸血に適した吻(ふん)をもつもの(吻ビル目)、あごが発達したもの(顎ビル目(あごびるもく))、肉食に適した長い咽頭(いんとう)をもつもの(咽ビル目(いんびるもく))などがある。ヒル類の体内は、結合組織や筋肉がきわめて発達した結果、体腔(たいこう)が極度に狭められ、そのすきまが管のようになって血管の役割をし、ヘモグロビンを含む赤色の血液が流れている。消化管は口、咽頭、食道嗉嚢(そのう)、胃、腸から肛門(こうもん)で終わるが、とくに胃が消化管の大部分を占め、そのうえ体節ごとに胃から側盲嚢を出している。ヒル類はすべて雌雄同体で、1個体に雌と雄の両方の生殖器官がある。性的に成熟すると第10~第13体節に環帯ができ、雄生殖口は第11体節、雌生殖口は第12体節の腹面正中線上に開く。交尾の方法も種類によって異なり、精包による間接的交尾を行うもの(吻ビル目、咽ビル目)と、陰茎による直接的交尾を行うもの(顎ビル目)がある。

[今島 実]

生態

顎ビル目に属するチスイビルとヤマビルの口には、丸鋸歯(まるのこば)のような歯列をもつあごがあり、ほかの動物の皮膚に吸い付くと同時に、この歯で皮膚をY字形に切りつける。ヒルの唾腺(だせん)には、ヒルジンという血液凝固を妨げる物質と、血管の拡張作用をするヒスタミン様の物質が含まれていて、吸血と同時にこれらの液を注入しながら吸血をする。したがって、吸血された動物の出血はなかなか止血しないという特徴がある。チスイビルの吸血は1回に体重の2~5倍、ヤマビルでは体重の10倍もの血液を1回で吸血する。この吸血性を利用して、チスイビルは古くから医療に用いられている。なお、このように大量に吸った血液は側盲嚢に一時蓄えられ、徐々に長い時間をかけて消化されるようになっているので、1年に2、3回吸血すると一年中生活できる。産卵は大部分は年1回で、卵嚢内に産み出される。卵嚢の形は種類によりいろいろ違っていて、発生は卵嚢内で進み、変態して幼生となって外に出てくる。なかには産卵後、卵嚢を親が体の腹面につけて保護するものもある。ヒルには吸血するもののほかヨツワクガビルやマネビルはミミズを食べ、またカモ、ガチョウやウシなどの気管に入り込んで、それらの寄生動物を死に至らしめてしまうヒルもある。

[今島 実]

民俗

ヒルは水田耕作者の害敵で、それを除去するための習俗がいろいろある。静岡市あたりでは、旧暦6月15日をヒル供養と称して、神に供え物をし、田に入らなかった。広島県山県(やまがた)郡周辺では、ヒール神さんといって集落ごとにヒル除(よ)けの神を祀(まつ)っている。神や名僧がヒルの口を封じたので、その土地のヒルは血を吸わないという伝説も各地にある。

[小島瓔


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百科事典マイペディア 「ヒル(蛭)」の意味・わかりやすい解説

ヒル(蛭)【ヒル】

ヒル綱に属する環形動物の総称。体長0.2〜40cm。体は細長く,やや扁平で多数の輪状の溝があり,種類や体の大小に関係なくすべて体節数は34。体の前後両端に吸盤がある。多くは淡水にすむが,陸地,海水にすむものもある。小動物を食べたり他の動物の血を吸う。チスイビル,ヤマビル,ウマビル,ヌマビルなど種類が多い。
→関連項目環形動物

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