ビャクダン(読み)びゃくだん

改訂新版 世界大百科事典 「ビャクダン」の意味・わかりやすい解説

ビャクダン (白檀)
(white)sandalwood
Santalum album L.

ビャクダン科の常緑小高木で,高さ3~10m,直径は太いもので25~30cmになる。半寄生性で,発芽後しばらくは自力で生活できるが,やがて吸根を出して,他の植物の根に寄生して養分を得る。しかし,葉は葉緑素をもち,光合成を行う。葉は対生し,長さ4~8cmの楕円形,黄緑色,ふちは全縁または波状,葉柄1~1.5cm。花は内側が暗紅色小花で,枝端に頂生する小さい円錐花序に咲く。果実は径約1cmの球形の石果で,赤色から黒色に熟する。原産地はジャワ島東部~ティモール島であるが,古くから各地で栽培され,とくにインドのマイソールマドラスチェンナイ)地方はビャクダンの生産地として知られる。寄主を選ばないので栽培しやすい。心材は初め淡黄色でやがて褐色を帯び,堅く,緻密(ちみつ)で,持続性のある芳香をもつ。仏像,美術彫刻,小箱,櫛(くし)など小細工物,数珠などに賞用され,また薫香,抹香,線香の材料とする。心材や根材を水蒸気蒸留して得られるビャクダン油sandal oilは,主成分としてセスキテルペンアルコールのサンタロールsantalolを含有し,薬用やセッケンなど化粧品の賦香料とする。なお,〈栴檀(せんだん)は双葉より芳し〉の栴檀はビャクダンのことで,センダン科センダンではない。

 ビャクダン属Santalumは太平洋地域を中心に約20種あり,小笠原諸島にもムニンビャクダンS.boninense Tuyamaが分布する。いずれも半寄生の低木~小高木で,心材は多少とも芳香をもつ。ビャクダン科は世界の熱帯を中心に約30属400種あり,大部分が半寄生の木本または草本で,ヤドリギ科近縁である。
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サンスクリットの〈チャンダナcandana〉を音写した語で,ビャクダンの木材や根を精製してつくる香料。略して檀香とも呼ばれ,良質の香として珍重された。仏典などにもしばしば記述が見え,赤,黒,白,紫などの種類があるとされるが,中でも南インドの摩羅耶(マラヤ)Malaya山に産出するものが最上とされ,これを牛頭栴檀(ごずせんだん)という。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビャクダン」の意味・わかりやすい解説

ビャクダン
びゃくだん / 白檀
[学] Santalum album L.

ビャクダン科(APG分類:ビャクダン科)の常緑高木。幹は直立して高さ10メートル、多く分枝して丸い樹冠になる。樹皮は赤褐色。半寄生植物で、実生(みしょう)すると初めは独立して生育するが、のちに吸盤で寄主の根に寄生するようになる。葉は対生し、長卵形または披針(ひしん)状楕円(だえん)形で長さ5~8センチメートル、先はとがり、全縁である。円錐(えんすい)状の集散花序を頂生し、鐘形で長さ4~5ミリメートルの花を開く。花被片(かひへん)は4枚、初め黄緑色で、のち紫褐色になる。花序の軸との間に関節があり、落下しやすい。果実は球形の核果で径約1センチメートル、多肉質で紫黒色に熟し、中に白色の種子がある。インドおよび南太平洋地域に分布し、インドのマイソールおよびチェンナイ(マドラス)地方では良品を産し、現在は各地に造林されている。

 40~50年生の木を伐倒し、根を掘り出し、幹と主根の皮をはいで辺材と心材に分ける。辺材は白色で香気がないが、心材は黄色または赤褐色で芳香があり、質は緻密(ちみつ)で堅く、柔らかい光沢がある。彫刻用材や工芸品、器具材、扇子、線香、薫煙材などに用いる。根の材は、とくに香りが強いので珍重される。心材からとれる精油の白檀油はセスキテルペンアルコールが主成分で淡黄色、現在はせっけんや化粧料の賦香に用いられる。

 栽培は肥沃(ひよく)土が最適で、砂礫(されき)土質でもやや劣るが生育する。

[小林義雄 2021年2月17日]

文化史

インドでは紀元前から仏教やヒンドゥー教の寺院の建造物、仏像、彫刻、火葬の薪(たきぎ)、香木とされ、またペースト状にすりつぶして下痢や皮膚病の薬に使われた。その香りは仏典では菩薩(ぼさつ)の菩提心(ぼだいしん)の如(ごと)し(『華厳経(けごんきょう)』)とされ、釈迦(しゃか)は臨終の際、弟子の阿難(あなん)にビャクダンの棺(ひつぎ)に納め、ビャクダンなどの香木を薪にせよと命じた(『中阿含経(ちゅうあごんきょう)』)。中国には仏教とともに知られ、インドなどから輸入され、沈香(じんこう)に次ぐ香木であった。日本でも仏像や香木として珍重された。法隆寺宝物館の香木には古代ペルシアのパフラビー文字が刻まれ、ソグド文字の焼き印が押されてあり、7~8世紀の東西交渉を物語る。『源氏物語』に白檀の仏像の描写があり、法隆寺の九面観音像、和歌山県金剛峯寺(こんごうぶじ)の枕(まくら)本尊はビャクダンに彫られている。「栴檀(せんだん)は双葉より芳し」の諺(ことわざ)はセンダン科のセンダンをさすのではなく、ビャクダンであり、ビャクダンの中国名の一つ栴檀に基づく。栴檀はサンスクリット語のチャンダナchandanaに由来する。ただし、ビャクダンの双葉には香気がない。諺は、仏典の『観仏三昧経(かんぶつざんまいきょう)』の「栴檀、伊蘭草(いらんそう)(ヒマ)中に生じ、まだ双葉にならぬうちは発香せず……わずかに木とならんと欲し香気まさに盛んなり」が誤って伝えられたためと考えられる。

[湯浅浩史 2021年2月17日]

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世界大百科事典(旧版)内のビャクダンの言及

【香木】より

…佐曾羅は聞きやすいとされ白檀の類と考える向きがあるが,佐曾羅すなわち白檀なのではない。なお白檀はマレー半島,東インドに産するビャクダン科の芳香を発する半寄生樹で,黄味を帯びた白色を呈す。焚香に用いられるとともに,仏像,器具の材となる。…

【香料】より

…現代以前の香料は,小アジア,アラビア,東アフリカからインド,スリランカそして東南アジア,中国の西南部にかけての熱帯アジアに産した各種の植物性と若干の動物性の天然香料からなる。そしてそれらは,後に述べるように焚香(ふんこう)料,香辛料,化粧料の三つに大別される。これらの香料は,人類の歴史にあって古くより東西の文化圏に需要され伝播された。したがって主要香料の原産地の究明とその需要・伝播の解明はとりもなおさず東西の文化交渉の歴史を明らかにする手だての一つであろう。…

※「ビャクダン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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